戦略ツールとしてのLSPを"セールス"する:第9回「二つの戦略をつなぐRTSの価値とSGPの文法」

今までの記事は
第1回「エレベーターテスト」
第2回「テーマを考える前の予備知識」
第3回「戦略の4フェイズ」
第4回「ブランディングの戦略ツールとしてLSPを売る(論理編)」
第5回「ブランディングの戦略ツールとしてLSPを売る(実践編)」
第6回「特定の業種ならRTSは受け容れやすいかもしれない」
第7回「RTSを半日×4日間のプログラムとして実施する」
第8回「RTSはSGP抜きでも十分魅力的」

「NewRTS-Standard-Roadmap」を受けて

皆さん既にご存じかも知れませんが、新しい「RTS-Standard-Roadmap」の2日間プログラムが発表されました。
新しい知見によって改良されたロードマップで、その一部が下記の通りです。
※なお、下記のロードマップの日本語版は錬成会(私的勉強会)のために作成したもので公式のものではないことをお断りしておきます。

私、LSPのマニュアルについては「学習理論」などとのつながりは明記されているものの、「戦略」への橋渡しが曖昧だと思っていました。
新しいRTSのロードマップでは、この戦略への橋渡しを説明するパートがあります。それは非常に重要なことだと思います。聞間先生が図に直しているのでそれを転載します。

もちろん、これは「正しい」説明だと思います。
しかし、正しいことが必ずしも「セールス」、つまり「顧客の説得」につながりにくい場合もあります
特にこの図は、日本の多くの経営者には説明しにくいものです。

なぜ、この図が伝わりにくいか、そしてそれに替わる代替案について説明していきたいと思います。

なぜ、ロバートの戦略図は、日本の経営者に伝わりにくいと思うのか?

日本の経営者の多くはMBA取得者ではない

欧米(特に米国)は、いくつかの会社を渡り歩くことが多いのです。多くの会社を渡り歩くと言うことは、複数の会社でも通用する「ジェネラルな言葉」に通じていなければなりません。MBA的な言語(と言語に表される思考)は正にジェネラルな言葉の代表と言えるでしょう。
これに対して、日本の経営者の多くは一つの会社の中で育まれます。一つの会社とは一つの文化体系で、そこで話される言葉はジェネラルな言葉から見れば「一種の方言」です。そして方言が一つのムラで通じる限り、ジェネラルな言葉を体系的に学ぶ必要はありません。
上の図を見たとき、そんな多くの経営者にとって、かろうじて名前を知っているのはポーター程度(そのポーターもきちんと理解されているかは怪しいです)、他の名前はたぶん分からないと思います。
つまり、この図が持っている二軸とその思想背景は、日本の多くの経営者の共感を得られないということです。

「学習された戦略」という言葉への馴染みがなく、魅力もない

二軸が理解されていない上に、「計画された戦略」と「学習された戦略」(特に「学習された戦略」に)という表現は馴染みも魅力もありません。何故なら「学習された戦略」という言葉で表現が意図されている「新しさ・斬新さ」は、日本の経営者の多くには当たり前すぎて響かないからです。
先にも述べたように、日本の経営者の多くは「一つの企業=一つの文化体系」で育ちます。また、競争の多くが「同質競争(非ポジショニング的)」で、その競争に勝つために「組織内でのオペレーションの『カイゼン』」に取り組みます。欧米では、比較的新しい「学習された戦略」は、日本では馴染みのある概念なのです。
私が第2回「テーマを考える前の予備知識」で「計画された戦略と学習された戦略」ではなく、あえて「ポジショニング戦略とオペレーション戦略」という言葉に言い換えたのは、日本の経営者にこの表現が馴染みが深いからです。

「計画された戦略」を排除するように見えてはいけない

更にこの図の中で、RTSは「学習された戦略」の最先端の位置に置かれています。これは「学習された戦略」が新しく・斬新で、RTSはその最先端であるという表現意図があると思います。しかし、既に述べたように、日本の経営者の多くにとって「学習された戦略」は馴染みがあり、その表現意図は充分に果たせるとは思いません。
そうすると、この位置では「計画された戦略」を否定しているように見えてしまいます。
第3回「戦略の4フェイズ」でも述べたように、「計画された戦略≒ポジショニング戦略」も「学習された戦略≒オペレーション戦略」もどちらも企業経営には大切なものです。特に日本の企業の場合、「ポジショニング戦略」への取組が遅かったので、戦略と言えばむしろポジショニング戦略とも言えます。
ですから「計画された戦略」を否定しているように見える図は、LSPをバランスを欠いた思考方法に見せてしまう恐れがあるのです。

セールスを考えるならば、私は「計画された戦略≒ポジショニング戦略」と「学習された戦略≒オペレーション戦略」の両方に寄与するようにRTSを位置づける必要があると考えます。

代替案としての「二つの戦略を結ぶRTS」の図

そこで、私が代替案として考えたのは下記の図です。

RTS(LSP)はオペレーション戦略寄りではあります。
それを踏まえた上で、しかし私は、RTSをポジショニング戦略とオペレーション戦略を結ぶものとして位置づけてみました。
RTSは学習された戦略に属しますから、まずは「自己の認識」から始まります。しかし、単に自己の認識で終わるのではありません。
それを変化が大きく・変化が常態化している「市場」の中で「試す(試される)」ことにより、「新しい認識に基づく行動変革」を組織に導入し、それによって価値を実現する方法論と規定することができます。
図の中でも補足しているように、これはAT1から始まり、AT7で終わるRTSの一連の流れをきちんと表現しています。

さて、新しいロードマップを再確認してください。このような図の役割は「なぜRTSをやる必要があるのか」を説明するためのものです。
そのような役割におけるこの代替案の図は「ポジショニング戦略とオペレーション戦略を結びつける」というだけでなく、「RTSのプログラムの流れの必然性」を説明できるという利点もあるのです。

二つの戦略を結ぶことで見えてくる「SGPの文法」

しかも、この代替図はもうひとつの利点があります。それは「SGPの文法」を示すことができるということです。

代替図で提案しているように、AT7の目的を、私は「新しい認識に基づく行動変革」を組織に導入することにあると考えています。
つまり、SGPは「新しい認識を導く」ことを促すか、あるいは「行動変革を導く」ことを促すか(あるいは両方か)が必要なのです。

LSPのマニュアルには、SGPの必要は説かれていますが、「SGPをどう書くべきか」の指示は弱いと思っています。「SGPをどう書くべきか」を明確にしないと「生きたSGPは生まれない」と思います。
なお、SGPの文法については聞間先生が「自己」(コイデで言うSGPの文法①)と「環境変化」(同じくSGPの文法②)いう形で板書にまとめられているので、許可を得て転載させて頂きます。

ペンシルカップチャレンジへの違和感

このように「SGPの文法」を考えてくると、どうしてもペンシルカップチャレンジのSGPについて違和感が湧くのを禁じ得ません。
以下がペンシルカップチャレンジの「計画的な指示」と「SGP的な指示」の対比です。

計画とSGP

このSGP的な指示で何回かワークショップを経験しましたが、そこで起きる現象は「みんな違って、みんな良い」という状態です。(ダックと同じ)
果たしてそれは好ましい状況でしょうか?

私が考える望ましい状況は、
1)指示が細かくない(Simple)のに
2)よく見ると、みんな何か共通のものに収斂(Guiding)しており
3)それを巡って、チームの中の建設的な議論が高まり(Principle)
その結果として創造性が一段高いところにステップアップする

という状態です。

このような「つながりが生む創造性がイノベーション」であり、単なる個人の思いつきではいけないはずです。
そして、この指示書ではそのようなイノベーションの状態が達成できないと思います。

例えば、SGPの文法①を使えば、
「最も少ない部品でつくろう(最低コスト)」という指示を足すことができます。そして、「どのようなコストダウンが考えられるか」をみんなで議論できます。

また、SGPの文法②を使えば、
「サスティナブルを意識しよう」という指示を足すことができます。ここでも、みんなで「サスティナブルって実はなんだろう」と議論を膨らませることができます。

このように考えても、SGPの文法については、もっと注意が払われるべきかと個人的には思います。

第10回(最終回)「タイトルに込めた意味」に続く

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