戦略ツールとしてのLSPを"セールス"する:第4回「ブランディングの戦略ツールとしてLSPを売る(論理編)」

今までの記事は
第1回「エレベーターテスト」
第2回「テーマを考える前の予備知識」
第3回「戦略の4フェイズ」

はじめに(戦略コンサルティングが高額なのは訳がある)


いよいよ戦略ツールとしてLSPを具体的に売っていくことを考えていきたいと思います。まず、その補助線として、私が「ブランディング戦略のコンサルタント」になった経緯をお話しします。

それは1996年、ある偶然の出来事がきっかけになります。
私をブランドコンサルタントとしてフィー※を払ってくれた企業は、その前年まで某外資系の戦略コンサルタント企業と数億円の契約でポジショニング戦略(具体的にはBCGマトリックスを使ったと聞きます)を練り直していました。

※ちなみにこの頃、日本の広告会社で日本の民間企業から、ブランドコンサルタントとしてフィーを頂いていたのは、僕を入れて片手でも余ったはずです。

しかし、そのポジショニング戦略は結果を残せませんでした。
特に「キャッシュカウ」と見做されていた主力事業が売上を落としたため、その利益を成長分野に投資するという戦略そのものに無理が生じました。

そこに、たまたまその企業の中堅事業部の事業再構築に「ブランディング戦略」で取り組んでいた私が、その企業の戦略部門の目にとまりました。
費用としては外資系の戦略コンサルタント企業の数十分の一で結果を出してくれる、ある意味お得なスタッフ。そこから、約10年にわたり、その企業の全体と事業部のブランド戦略に関わることになります。


ブランディング戦略とは


ここでこの頃に用いていたブランディング戦略について、少し説明する必要があると思います。

BCGマトリックスは、基本的に当該企業と競合企業、そして市場環境を分析して、企業の製品ポートフォリオを組立て、製品間の投資バランスを整えるものです。基本的には「市場(外部環境)が全て」です。

それに対して(私が用いていた)ブランディング戦略とは、事業部門がこれまで築いてきた「顧客との良好な関係」の成功に注目して、その「核心をブランドアイデンティティとして抽出」、それを「言語化(論理化)して善き(統一され、創造性に溢れた)行動の判断を明確化する」というものです。

  • 自社の中に(往々にして個別的、潜在的に蓄積されている)成功要因を見出し(≓AT1)

  • それを部門全体の文脈で表出させ、形式知(言語化)して(≓AT2 or AT3)

  • 部門のメンバーの行動判断に統一性と創造性をもたらす。(≓AT7)

お気づきのように、これはLSPの考え方と非常に近いものです。

この企業は、もともと創業者一族の理念(現代的に言えばパーパス)が企業や事業の核となっています。
従って、戦略コンサルタント企業のような外部要因よりも、自分たちは何のために事業をしているかという内部要因に注目する企業

この企業は(その弊害も意識して)何年か一回に外部視野を導入しようという行動を取ります。それが外資系の戦略コンサルタント企業の導入でした。それで成功していたら私にはチャンスがなかったわけで、そういう意味で「失敗が高く付いた」後に私が居合わせたのは、非常に運が良いと言えます。

なぜ、戦略コンサルタント企業はお高いのか

しかし、戦略コンサルタント企業が高いのにも理由があります。
もともと「外部環境」というのは、多くの会社にとってオープンな環境です。その中で差を付けるためには、徹底したMECE(漏れなく・重複なく)によって市場を丸裸にする必要があります。実際に戦略に使われる数字は限られています(多すぎると判断ができません)が、その間に「捨てられる数字」は使われる数字の何倍もあります。むしろ「捨てられる数字の多さが、使われる数字の質を担保する」と言っても過言ではないのです。

そして「数字は無料で生まれません」。
大量のデーター(一部の使われる数字と、大多数の捨てられる数字)を生み出すには、その為の大量の人的費用が必要です。(例え時給で考えるとマクドナルドと変わらなくても)そこに投下される人材はほとんどが8桁を越える高給取りです。

私の安さ(と彼らの高さの)差は、私の情報取得が「事業部と、代表的な顧客に対するインタビュー」という「絞り込まれた情報ソースと比較的安価な方法」に因ります。

なぜ、LSPはブランディング戦略に適するのか

実はブランディング戦略には2つの流れがあります。
昔からの「イメージ型ブランディング戦略」と、コイデ的な「アイデンティティ型ブランディング戦略」です。

昔からのイメージ型ブランディング戦略は、「競合企業との関係で定まるポジショニングを、顧客の心理に植え付ける戦略」で、マーケティング戦略の下位の一手段として位置づけられます。広告などを通じた「ブランドイメージ」づくりが主たる活動で、みなさんもこちらの方が馴染みがあるかも知れません。

しかし、もうひとつ。
自社の歴史と、顧客との相互作用で生まれた『自社独自の創造文化(=ブランドアイデンティティ)』を軸に、新しい、付加価値の高い製品を開発し続ける、マーケティング戦略の上位に位置する「経営戦略のブランド化」です。

後者の経営戦略のブランド化は、自社のメンバーと顧客との相互作用(単に売る/買うに留まらない、ファン・シンパとの公式・非公式の交流など)が重要な情報ソースになります。しかも、それは理屈(客観的な情報)ではなく、具体的な実体験に基づく実感を伴った主観的な、体験的な情報でないといけません。そして、その知識は各個人の中に分有され、その体験の意味も十分には意識化して表出されていないものなのです。

「個人」に分有されている「生きた」「潜在的」エピソード(ナラティブ)情報は、非常に曖昧な情報です。また、その曖昧さに「情報の質的な豊かさ」が眠っています。その曖昧さを残したまま、「集合知・形式知」として表すこと、これがLSPだからこそできる強みなのです。

そして、次回の実践編で「LSPへの全員参加が求められる」のも、上記のエピソード情報の性格(個別性、体験性、潜在性)に因るものなのです。

今、アイデンティティ型ブランディング戦略には追い風が吹いている

現在、アイデンティティ型ブランディング戦略には追い風が吹いています。

  • イメージ戦略のベースである「広告」の力が弱まり、アイデンティティ型戦略のベースである「顧客との相互作用」の力が増している。特にSNSなどがその傾向を後押ししています。

  • 「ブランディング」という言葉が一般化している。一般化してくると「多額のマーケティング費用を必要とするイメージ型ブランディング」ではなく、「アイデンティティ型ブランディング」を選択するケースが増えてくます。

  • 「パーパス」の重要性が認識されてきている。パーパス(自社の社会的存在意義は一種のアイデンティティであり、アイデンティティ型ブランディング戦略と非常に近しいのです。

アイデンティティ型ブランディング戦略は、研修のアップセルになる


私が「アイデンティティ型ブランディング戦略」をLSPを戦略ツールとして売る方法として、一番に薦めるのは理由があります。

第一に、このブランディング戦略は、「個別知・潜在知」を「集合知・形式知」に替える仕組みこそが鍵になります。つまり、研修の理想の延長線上にあるのです。

第二に、前回も述べたように、「価値の実現は現場が9割」だからです。彼らの悩みは「計画がある」が「実行に問題を抱えている」のです。そして、それは「現場の意識と行動の変革」で達成されると思っているからです。(決して、「計画」の甘さと、「指示」の曖昧さにあるとは思っていません)

第三に、研修を行う総務部にとって「研修が戦略と結びつく」ことで自分たちのポイントになるし、一方、計画を担う経営企画部にとっては「戦略開発の一部は研修(総務部負担)」になるので、費用負担を軽減できます。それはつまり「アイデンティティ型ブランディング戦略は、2つのポケット(総務部と経営企画部)を持つ」ということです。


アイデンティティ型ブランディング戦略をプログラムに落とす上でのポイント


〇価値の実現で重要なのは「計画」の「現場への落とし込み」。従って、「計画(あるべき姿)」は既存のものを尊重する。
〇情報ソースで重要なのは「個人」に分有されている「体験的」「潜在的」な知識。従って、可能な範囲で「全員参加」が重要。
〇研修は(極論すれば)各個人の満足感が重要。しかし戦略となれば「書かれ」て、「その後、継続的に反復される」必要性が生じる。従って、形に残る「アウトプット」が必要。

以上、3点のポイントを生かして、次回は具体的なプログラムに落としていきたいと思います。また、このように「何をするかが明確」になれば、プログラムを絞り込むことも可能です。もともと「RTSは2日がかり」のため、売りにくかったはず。それを改善する・・・、つまり時間を短く、しかし効果が安定して出る様に絞り込む方法も見つかるはずです。

もちろん、RTSを何の制約もせずに用いれば、LSP的には非常に満足行くもの、LSP研究の再考のケースになるでしょう。しかし、企業には「資源の制約」があります。その中でも「時間という資源の制約」は非常に大きなものです。

もうひとつ、「得られる結果の安定性」も企業にとって重要です。
たとえ個人的に大きな学びと満足が得られたとしても、その結果が「やる度に違う」ようでは、企業にとっては不安でしかありません。
結果が「予想外」であること(そこはLSPという新しい手法に期待されること)と、結果に「再現性がない」ことは、同じようで全く違います。
エージェントやシナリオなど、結果を導き出すプロセスを安定させるため、ある程度コントロールする必要が(LSPの視点ではなく、企業の視点として)あると思います。

これらの条件を勘案して、次回は具体的なプログラムを提案します。

第5回「ブランディングの戦略ツールとしてLSPを売る(実践編)」へ続く

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