戦略ツールとしてのLSPを"セールス"する:第3回「戦略の4フェイズ」

今までの記事は
第1回「エレベーターテスト」
第2回「テーマを考える前の予備知識」

二つの戦略は対立概念ではない(前回からの続き)

前回の『戦略ツールとしてのLSPを"セールス"する:第2回「テーマを考える前の予備知識」 』の最後に、戦略には大きく分けて「ポジショニング戦略」「オペレーション戦略」があることに触れました。簡単に言えば、ポジショニング戦略とは「企業の対競合とのポジションの違い」に注目し、オペレーション戦略は「企業の内部オペレーションの生産性(広い意味での)」に注目した戦略です。

これは、例えば「自動車業界では、マツダは独自性を追求したポジショニング戦略を、トヨタはコスト優位や販売力に基づくオペレーション戦略を取っている」などと評されることがあります。まあ、理解しやすい論法ではあります。
しかし、マツダが独自のポジションを取り続けられるのには、マツダ自身がその歴史の紆余曲折の中で「独自の企業文化を育ててきた」(=オペレーション戦略)結果であると言えます。
また、トヨタもレクサスブランドを投入したり、ハイブリッド車や水素自動車などの開発など、ポジショニング戦略を積極的に採用しています。

ここで皆さんにご注意いただきたいのは、「ポジショニング戦略とオペレーション戦略は対立概念ではない」と言うことです。むしろ、この2つの戦略を自由に駆使して「企業全体の付加価値を上げていく」ことこそが肝心です。
そして、その2つの戦略を駆使するタイミングを教えてくれるのが、次に挙げる戦略の4つのフェイズです。


戦略の4つのフェイズ


戦略は何のためにあるのか?
それは「企業の付加価値を実現する※ため」です。

※「自社の利益を上げる」だけでなく、「社会や個人を質的に豊かにする」という目的を持っている会社も有るので「企業の付加価値を実現」としました。

そうすると、戦略には4つの段階があります。


1)戦略を計画する
特定の部署(社長室、戦略企画室など)が、間欠的(一定の間隔を開けて)に、将来を睨んで準備(具体的には投資)を決定する段階

2)戦略を指示する(理解する)
戦略の計画部署から現場に対して、企画の意図を指示として伝える段階

3)戦略を実行する
現場が計画の意図に従って、実際に行動を行う段階

4)戦略を評価する
計画と実行のズレを確認した上で、計画部門にフィードバックする段階

さて、この4つの段階は「どこがいちばん大事」でしょうか?

価値の実現は現場が9割!

戦略の研究家なら「計画がいちばん大事」と言うでしょう。
しかし、実際の現場で言えば、むしろ「価値の実現は現場が9割」と言えるのではないでしょうか。その理由は幾つかあります。

1)「計画」で大きな差別化が起きにくい
戦略の華は「誰も確立していないポジショニングを確立してゲームチェンジャーになる」ことです。
パーソナルコンピュータというカテゴリーを生み出したAppleⅡやスマートフォンというカテゴリーを築いたiPhone(いずれもアップル社)。アメリカに全く新しいコーヒー空間(サードプレイス)を創造したスターバックス。カジュアルウエアをファッションからツールに変えたユニクロ。実名のSNSという安心空間を生み出したFacebook。
これらは戦略界の大スターであり、大きなスポットライトが当たります。

しかし、これらは極めて希有な例です。
実際の企業活動の中では「差別化は極めて小さいレベル」でできる程度が限界です。

情報はますますオープンに、競合の参入がますます容易になる中では、差別化はどんどん難しくなっています。あなたが戦略の研究家なら(例えば大学教授など)、あるいはあなたが超一流の戦略指導者なら「差別化」を徹底的に追究して、ゲームチェンジャーに関心を向ければ良いです。
しかし、あなたが出会うであろう企業のほとんどは「小さな差別化しか計画できない」のが現実です。その小さな差別化で、企業間に大きな差をつけるのは現場の差になるのです。

2)計画の意図は、だいたい「伝わらない」
差別化が小さい計画を上から降ろされ「成果を上げることを要求される」と、現場には反感や齟齬が生まれます。そのような環境では「小さな差をいかに現場で大きくするか」という事よりも、とりあえず現状の維持を考えます。
また、計画は概ね「一ヶ所」から発信されますが、現場は「複数存在」します。そのそれぞれが自己の解釈で行動すると、実行の「ベクトルがズレ」ます。たとえ各部署での積み上げが少しでも、ベクトルが合っていれば企業全体としての積み上げが大きいはず。しかし、そのようなベクトルが揃うような指示を出せている企業は多く無いのが現状です。
つまり「指示(計画の理解)」の質を高めると、計画の弱さをかなりカバーできます。

3)現場に「戦略が求める行動を実行すること」を求めるのは厳しい
計画が曖昧で、指示が明確でない以上、現場で「計画を意識して行動できる人」の数は限られてしまします。
どんな組織にも「優秀な2割」は存在し、同時に「どうしようもない2割」も存在します。蟻や蜂などの社会性の高い動物で、優秀な2割だけ抜き出しても、その集団の中でまた2:8に分かれるという研究があるそうですが、これは不変の法則なのかも知れません。
だから、問題なのは「中間の6割」です。その6割の質を高めることができれば「価値の実現」を大きく進めることができます

多くの企業の夢と現実


多くの企業は「革新的な差別化によりゲームチェンジャーになることを夢」見ます。しかし、そのような一発逆転は現実には困難です。
多くの企業にとっての現実は「小さな差別化をどう現場で大きな差に拡げるか」です。
しかも、そのような企業は、得てして「指示の技術が高くない」のです。

LSPができること(と私が思うこと)


さて、今までの戦略コンサルタントは、主に企画部門の「計画力」を高めることに力を使ってきました。

しかし、「価値を実現する」ということが目的であれば「他のアプローチ」もあるはずです。

それは「現場の指示理解力」を高め、「現場の行動自発性」を高めるアプローチです。そして、お気づきのようにこれこそがLSPが最も得意とするアプローチなのです。

LSPのマニュアルは「学習理論とLSPの関係」は明確に記載されています。
しかし、その精度の高さに比べると「戦略とLSPの関係」は曖昧です。
たしかにReal Time Strategyや、Simple Guiding Principleなど、企業戦略に関わるものはあります。しかし、それを「どう企業価値向上に生かすのか」のロードマップが見えにくいのです。

そして、そのロードマップを少しでも明らかにするのが、このノートの目的なのです。ですから、ここからは理屈を離れて、実践を考えていきたいと思います。以下が今後の予定です。

Part1:まず幾つかの「セールスアイデア」を提示していこうと思います。

1.ブランディングという戦略構築のツールとしてLSPを売る(2022年4月8日のCoffeeChatの内容を再録)

2.新しいポジショニング戦略=エコシステムを構想するツールとしてLSPを売る

3.「経営者の思考プロセスを指示として社員と共有する」戦略伝達ツールとしてLSPを売る

4.「特定業種向け」の戦略ツールとしてLSPを売る

5.「事業継続性(BCP)やリスクマネジメント」としてPlan B戦略を考えるツールとしてLSPを売る。

Part2:ロバートの戦略理解図に対する批判(?)を通じて、SGPの理解とRTSの実行方法についての議論を更に深めたいと思います。

1.ポジショニング戦略とオペレーショナル戦略を結びつけ、あるべき「SGPの文法」を探る(聞間先生案を含む)

2.RTSを「半日×4日間+まとめ1日」の実行可能プランとして再構築する。

3.ネーミングという視点や、映像化という視点から「売れるRTS」を考える

すべてを書き上げるのは、2~3ヶ月掛かると思います。
よろしくお付き合いの程、お願い申し上げます。

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注記:
すみません。すべての資料に目を通せている訳では無いので、もし「戦略とLSPの関係(どう現場で役に立てるか)」をご存じでしたら教えていただけると幸いです。
これらの図については、それぞれ私は以下の様に考えています。


計画された戦略と学習された戦略は、かなりの部分でポジショニング戦略とオペレーション戦略との対比に似ています。そして、既に述べたように二つの戦略は対立するものではなく、使い分けるものです。
※「計画された戦略」自体は依然として価値があります(差異を生み出すのが難しくなっていますが、その有効性が失われた訳ではありません)。
何より企業の側に「計画に対する信頼」は残っているはずですので、「否定」してしまうことは、相手を遠ざけてしまう(ターゲットを非常に狭くする)可能性があります。

※サッカーマニア:コイデのちょっと蛇足コメント。
上記の二つの戦略を図解は「サッカーをアナロジー」として使用しているようです。そうすると計画された戦略というのは、強いて言えば「セットプレー」、学習された戦略は「監督のコンセプトが浸透したフィールドプレイ」に当たると思います。さて、通常のクラブチームは徹底した戦術練習を行っています。ですから、一見、自由なフィールドプレイも、かなりオートマティックな「計画された戦略」である場合が多いのです。ですから、この対比は戦術練習の時間が少ない「代表チーム」のセットプレーとフィールドプレイの差として考えることができます。
さて、前回のロシアワールドカップでは、決勝までの全64試合で生まれたゴール数は計169点。セットプレーから記録された得点数は合計73点で総得点の約43%を占めました。つまり、得点(付加価値)を得るためには、ほぼ半分半分で計画された戦略と学習された戦略をミックスする必要があると言うことです。以上、蛇足でした。

本文の内容を繰り返しますが、戦略の研究家にとっては「戦略の違い」は重要です。しかし、企業実務家にとっては「付加価値の実現」が重要で、その為に両方の戦略を自由に駆使する必要があります。
しかも、私自身は「RTSには二つの戦略を結びつける一つの方法」があり、それが「SGPの文法」を具体化すると思っています。
(残念ながら、ペンシルカップチャレンジの中でのSGPの文例は、現場的な判断ではSGPの条件を満たしていません。それらについては今後書かれる「Part2:ロバートの戦略理解図に対する批判(?)を通じて、SGPの理解とRTSの実行方法についての議論を更に深めたいと思います」で議論していきたいと思います)

第4回「ブランディングの戦略ツールとしてLSPを売る(論理編)」に続く

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