戦略ツールとしてのLSPを"セールス"する:第6回「特定の業種ならRTSは受け容れやすいかもしれない」

今までの記事は
第1回「エレベーターテスト」
第2回「テーマを考える前の予備知識」
第3回「戦略の4フェイズ」
第4回「ブランディングの戦略ツールとしてLSPを売る(論理編)」
第5回「ブランディングの戦略ツールとしてLSPを売る(実践編)」

※今回は(前回のテーマが重かったので)、一つの思考実験=箸休めとしてお読みください。

ホテル業(リゾートホテル)にRTSを売ってみる思考実験

第4回と第5回では「二日間のRTSは売りにくい」という前提の下、「全員研修」という方法と「クレド作成」という結果によって、「半日のプログラムをグループ人数分行う」プログラムを紹介しました。
しかし、RTSは本当に売るのが難しいのでしょうか?

私、実は2021年末から2022年初めにかけて石原さんが主宰する「リスタート講座」を受けておりました。
その際に「企業の為のRTS」のロードマップが課題として出されましたので、ある特定の業種に向けて提案できるのではないかと考えて、課題を作成しました。ロードマップはかなり細かい設定や具体的なインストラクションが入っているため、大変長くなっております。それは、この投稿の一番最後に掲載します。

なぜ、ホテル業(リゾートホテル)なのか?

既に述べてきたように、RTSの2日間という拘束は、経営陣やリーダー陣にとってかなり厳しいものです。それでも、「ホテル業ならばRTSに価値を見出す可能性があるのではないか」と考えました。それは以下の様な理由です。

1.ホテルの現場は「思いもよらない不測の事態」に満ちている。

Real Time、即ち「思いもよらない未来を現実として仮想体験する」ことは、製造業などでは「あまり起こらないこと」です。そういう企業では「まず通常の状態で、組織が十分に機能する」ことを優先して考えます。それが、第5回のプログラムでAT6を省略した理由です。

しかし、ホテルの現場は「不測の事態が起きることが日常」なのです。
従って、AT6の有効性を理解しやすい土壌があると考えられるのです。

2.リゾートホテルのサービスは「つながり」でできている。

近年のリゾート観光は、いわゆる観光・レジャーではなく、「教養型」に変わりつつあります。地域の歴史、文化、産物・・・。これらを組みあわせて、心が満たされ、知識欲を刺激するような観光開発に向かっているのです。

昔の観光であれば、「観光ホテルだけの機能充実」で充分でした。ホテルの中に大宴会場があり、カラオケがあり、大浴場があり、〆のラーメン屋まである。そういう、熱海や伊香保のような温泉観光地です。

しかし、新しい教養型の観光では、(ホテルと直接利害を一つにしない)地域の人々とのつながりを考え、その輪を拡げ、その体験に多くの人を参加させる「つながり」が重要になってきています。

ホテルの従業員たち(決して高い教育機会を得られなかった人たち)に、そのような「つながりの価値を意識化してもらう」ために、エージェント(AT1)から始まりAT4・AT5で完成する「つながりの、関係価値の表出」に至るLSPのプログラムは、その価値を経営陣に充分認めてもらえると感じています。

3.ホテルにはリッツカールトンというベストプラクティスがある。

リッツ・カールトンと言えばやはり「クレド」です。

クレドとSGPはまったく同じではありませんが、企業の運用の側から見れば、きわめて似ています。
従ってホテル業界にとっては、このような「短く」て、「行動を鋳型に填めるのではなく、自発的・創造的な行動を導く」ような、「全社で統一された言葉」がもたらす偉大な効果を既に知っているのです。
ホテル業界以上に、AT7の価値を評価してくれる業界は、他に見つからないのではないでしょうか。

サービスの方程式:「100-1=0」、「0+1=100」

ここでホテル業界でよく言われる数式(?)を紹介しましょう。
これは企業に「SGPの必要性を説く」セールストークのヒントになると思います。

100-1=0
これはたった一人の行動で、今まで営々と築いてきた価値が根底から崩れてしまう、ということを表したものです。

仙波吉兆や東芝のクレーマー事件、森元首相の舌禍事件など、こういう例は枚挙無いのですが、特にSNS時代になって顕著になってきたと思います。
SGPの持つ「Principleによる全社の統一」が大事なのです。

0+1=100
これはたった一人の、自発的・創造的・英雄的な行動が全ての価値をつくり出す、ということを表したものです。
リッツ・カールトンには「ミスティーク」(リッツ・カールトンでしか体験できない奇跡のような瞬間)という言葉があります。
プールサイドでプロポーズする計画を従業員に話したら、一輪の花と冷えたシャンパンとともに、プロポーズする際にひざまずけるよう絨毯を準備してくれた。桜の花が見たくて日本に来たのに、見頃が過ぎてしまったと嘆いていたら、ホテルの部屋に満開の桜を生けた大きな花瓶と、美しい桜のカードが添えられていた。等々
このようなサービスは「会社に命じられるのではなく、個人の顧客に対するコミットメントから、自発的・創造的に生み出されるもの」です。リッツ・カールトンのブランド力は、トップが決めたクレドの文字の中ではなく、現場で実践されるクレドの意図を生かしたサービスから生まれるのです。

先ほど、SNSの炎上のようなケースに触れましたが、逆に「SNS時代では素晴らしい行動も一挙に広まる(0+1=100)なのです。
SGPの持つ「Guideによる自発性・創造性」が大事なのです。

SGPには「文法」が必要だ

100-1=0、0+1=100。
これが教えるところは、SGPには文法があると言うことです。

  • 統一された価値に基づくこと

  • 自分ででなく、他人に行動を要求すること

  • 想像力を刺激したり、創造性を発揮させること

  • その判断(と行動)によって、結果に重大な差が生まれること

  • 何回も繰り返されるとともに、繰り返しに耐える言葉であること

こういう文法に従ってSGPを書かないと、少なくともホテル業界では通用しないと思います。皆さん、SGPの文法についてもっと考えていきましょう。(この話題は第9回の後半で再び触れます)

私が提出した「ロードマップ」課題(全11ページ)


第7回「RTSを半日×4日間のプログラムとして実施する」へ続く

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