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その場所から6分間直進して、最初の交差点を右に曲がる。そのあと3つ目の信号を左に曲がり、100m進んだ場所にあるものは誰かの世界の中心かもしれない。

「魂の重さってどのくらいあると思う?」
「さあ、どうでしょうね。あなたはどれくらいであって欲しいの?」
「そうだな、未練たらしい男くらい、あればいいんじゃないかな?」
「それは重いわね」
「急にどうしたの?」
「夢を見たんだ。誰かが生まれ変わる夢さ。
 天空から大地を見渡して、宇宙へ出たり、世界遺産へ行ったりして、結局、生まれ変わることは出来なかったけど、なんだか考えてしまってね。空を飛んでいたんだ、だからどれほどの重さで飛んでたのかなって」
「魂の重さね……。昔、ダンカン・マクドゥーガルが魂の重さを計る実験をしたの。六人の患者と十五匹の犬を使って、死に際の体重の変化を計ろうとしたの。その結果、人間は水分の蒸発とは異なる重量が失われたそうで、犬にはそれが起こらなかったそうなの」
「それで?」
「研究はずさんで、被験者の数も少ないし二人失敗したらしいけど、二十一グラム、六人の平均でなく一人当たり二十一グラム失われたそうよ」
「二十一グラムか……。でも犬には起こらないって可笑しな話しだね。だって犬には魂がないって言ってるようなものだよね?」
「そうね、そう解釈できるわね」
「僕は魂には重さはないと思ってる、正確にはあるんだけどないかな」
「可笑しな人、じゃあなんでそんなこと聞いたの?」
「意味なんてないさ、気まぐれで思っただけだよ。ただ思うんだ、魂って宇宙そのものなんじゃないのかなって?」
「話しが見えてこないわね」
「つまりはね。僕は今意識を持ってる。感覚や意思もあってこの部屋に差し込む陽射しが温かいと感じるし、ジャスミンティーの香りも分かる」
 ジャスミンティーを口に含む。
「それで?」
「それでね、人にはもちろん重さがある。僕の体重は六十キロ、これは今現在では揺るぎ無い事実だ。そして魂は僕の中にもちろんある。でもね、魂ってのは流動的なんだ。宇宙を漂ってるんだ。つまりは、水槽の中に色の付いた水溶液を入れると漂うだろ? その水溶液が魂でギュっと集まって一つの個に宿る魂になる。そして死んでしまうと、その魂は広がり形を成さずに漂うんだ。水槽の中の質量は変わらないだろ、生物もその中の一部に過ぎない、だから宇宙の質量こそが、生物の魂の重さでもあると思うんだ。宇宙の質量なんて分からないだろ? だから僕は魂には重さがないと思ってるんだ」
「面白いわね、つまりは今この部屋にも魂が漂ってるってことね」
「そうだね、初恋のあの子のところにもね」
「それで、あなたは生まれ変わりを信じるの?」
「信じるさ。僕の理論で考えれば人は生まれ変わる」 
「でも人口は増え続けているわよ、生まれ変わりがあるのであれば、初めて生まれたものだってあるはずよ」
「例え人口が増えようと魂の全体的な質量は変わらない。人口が増えれば増えるほど、漂う魂は分裂を繰り返すのさ。元は一つの魂が二つになり四つになり、八つになる。不完全で脆い魂になっていくんだ。精神的にね。だから昔の哲学者たちは賢者って呼ばれるんだ。今現在の知識人なんかよりも、よっぽど濃い魂を持ってたんだ」
「なんだか納得してしまったわ。私ももちろん生まれ変わりを信じてる」
「良かった」
「有意義な話しだったわ、ありがとう」


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