こんな夢を見た。

「拙者落ち武者でござる」
 夜中に呼び鈴が鳴き玄関を開けるとそこには落ち武者がいた。なんでも壇ノ浦で戦い命からがら逃げ出した平家方の武士と言うじゃないか。ただ落ち武者が自分のことを落ち武者なんで言うのか、と思いつつも話しを聞くことにした。

「義経は化物でござる」
 この落ち武者が言うには義経は剛の物と知られる教経に、揺らりと揺れる船へ船へ飛び上がり瞬く間に小長刀の届かぬ場所へ飛んで行ったという。ほうこれは俗に言う義経の「八艘飛び」だなと思い「あなたも義経にやられたのですか」と言うとなぜか誇らしげに「そうでござる」と言った。
「して、そなたも落ち武者でござるか?」と落ち武者が言った。
 確かに私は落ち武者だ。おでこは後頭部まで浸食し、横の髪はその後頭部を隠す為に長く揃えている。最近職を失いその日暮らしの生活をしている。そう考えれば、平安の時代も現在もリストラなんて多々あることだと感じた。

「部長は鬼でござる」
 平然と明日から来なくていいから、なんて言う。法律では三十日前には解雇言い渡しをしなくてはいけないのに、部長はそんな立場なのかなんて言いやがる。ほうこれは俗に言う。「ブラック企業」ですな。とは落ち武者にはわからないだろう。だが何か通づるものはある。
 私は「ビールでも飲むかい?」と聞いた。落ち武者は表情にクエッションマークを浮かべながらも「かたじけない」と言った。
 それから私達は朝まで飲み明かした。似た者通し。落ち人通し。

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