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こんな夢を見た

花火大会の季節がきた。
ぼくはいつからだろうか、花火大会を見ていない。
だいたい気がついたら終わってるし、夜が明るいから何が起きたのかなと思うと、その日が花火大会であったり、浴衣を着ている女性に目を奪われ花火大会を知ったりする。

昔付き合っていた彼女は花火大会と聞くだけで嫌な顔をした。
夏になると彼女は西陽の射し込む部屋で、ジグゾーパズルのピースをいつもグラスの入った氷のように転がしていた。
「私が花火大会嫌いな理由って知ってる?」
ぼくは彼女の言葉を汗ばむ首筋をかきながら聞いた。

「人が多いから」

それだけだった。それ以上の理由もないし、それ以下の理由もない。
彼女はいつもそうだった。彼女の好きなこと、嫌いなこと、理由はいつも単純だった。そんな彼女がぼくは好きだった。

日差しに合わせ移動しながら、ジグゾーパズルを転がしている彼女を眺め、彼女のためにコーヒーを淹れることが好きだった。
彼女はいつも「ありがとう」と微笑んでキスを求めた。

ぼくはそれだけで幸せになれたし、唇の柔らかさに首筋のかゆみを忘れることができた。

彼女と別れてからも、ぼくは花火大会を見に行くことはなかった。

西陽の射し込む部屋でコーヒーと淹れると、ぼくの頭蓋の内側で、見たこともない彼女との花火が打ち上がった。
ぼくは綺麗な思い出と一緒に少しずつ消えていく時間を待った。


すごく聴きたくなって今日ヘビロテしてました。

今日の1曲 / くるり-ワールドエンド・スーパーノヴァ


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