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「ダスグプタ・レビュー」と鎮守の森


某県知事との連続勉強会、ここ最近のゲストも素晴らしく。

Grafferという会社がすごい。創業者で代表取締役CEOの石井大地さんのお話を伺った。

東京大学医学部に進学後、文学部に転じ卒業。2011年に第48回文藝賞(河出書房新社主催)を受賞し、小説家としてプロデビュー。複数社の起業・経営、スタートアップ企業での事業立ち上げ等に関わったのち、株式会社リクルートホールディングス メディア&ソリューションSBUにて、事業戦略の策定及び国内外のテクノロジー企業への事業開発投資を手掛けたのち、2017年に株式会社グラファーを創業。

石井さんの経歴もユニークだが、会社の理念が痺れる。未来の住職塾NEXTでも大事にしている「ミッション・ビジョン・バリューズ」のお手本のようだ。

Vision:
テクノロジーの力で民主主義を拡張する
Mission:
人々の主体性と創造性を引き出す 新しい行政インフラを構築する
Values:
Take a lead, take a risk.
私たちは全員がリーダーであり、自ら論理的に考え、決定を下し、行動と実践によって成果を追求します。 他者にリスクを転嫁するのではなく、むしろ自ら積極的にリスクを引き受け、限界に挑戦し続けます。
Always be frank.
私たちは自らの考えを率直に、敬意をもって伝えることですべてのステークホルダーとの信頼関係を構築します。私たちは誰を相手にするときも、等しく誠実な態度で向き合い、重要な物事を決してうやむやにしません。
Good citizenship.
私たちは、自らがその一員である社会の長期的かつ健全な発展に寄与することを目標に企業活動を行います。企業として、また個人として、善良な市民であるための努力を惜しまず、コミュニティや共通の価値のために貢献します。

僕が最近お会いした若い人の中でも、只者じゃない感が半端じゃない。日本の行政DXはこのGrafferが担うことになるだろう。日本中の行政デジタル改革を静かに進めるGrafferを追って、今後ITベンダー大手の反撃もあるだろうけれど、石井さんのビジョンを揺るがすことはできないと思う。

一見、Grafferのやっていることは、行政の不便を便利にするだけで、”民主主義を拡張する”ところまではやっていないように見える。質疑応答の際に、僕はその点を質問してみたところ、「まずは動かせるところからやり切る。結果、民主主義も動き出す。そう信じている」という趣旨のことをシャープに力強く回答されていた。理念だけじゃなく、この人は実際にやる人だ。自分もそうありたいと思った。

また、勉強会のコアメンバーの末吉竹次郎さんと、ピーター・ピーダーセンさんのお話を聞く機会があった。

末吉さんは、長年、国際金融に携わってきた人であり、近年は気候変動の問題に力を入れている。近年の金融と環境を巡る国際的な動きについて発言されたよくまとまったインタビューがあったので、シェアする。

また、ピーターさんは、日本を拠点に環境活動に力を入れてきた実業家で、最近は「22世紀のビジネススクール」を謳って注目される至善館の教授にも就任している。

二人のお話に共通して出てきたのが、経済学者でケンブリッジ大学名誉教授のパーサ・ダスグプタ氏が、英政府から依頼を受けて、生物多様性を巡る経済学について執筆した「ダスグプタ・レビュー」だ。僕が下手に説明するより、下記の記事を読んでもらったほうが早い。専門分野にかかわらず、あなたが地球人であるなら、必ず知っておいたほうがいいトレンドだと思う。

詰まるところ、どういう話かといえば、マクロでは「GDPは経済指標として過去の遺物になりつつある」ということだ。経済的な富を増やすにしても、その経済活動を行う前提となっている自然資産が失われてしまったら、経済活動そのものが続けられなくなる。しかし、現在のGDPという指標は自然を考慮していない。だから、これからは自然資産を測る生物多様性を国家のバランスシートに載せていくべき、という話だ。

ちょっと考えれば当たり前の話だが、大きな枠組みが変化するには時間がかかるものなのだろう。「経済は自然の外部にある(external)」という前提に立ったGDPに人間社会はずいぶん固執してきた。しかし今、事態が切羽詰まってきてやっと、「経済は自然の中に組み込まれたもの(embeded)」という前提へと移行しつつある。2020年代の最大のキーワードは「Regeneration & Restoration(再生と修復)」と言われる。

2006年にスターン博士によって出された「The Economics of Climate Change」(スターン報告)が、温室効果ガスを巡るコストの算出や低炭素社会への移行を方向づけたものとして有名だが、2020年のダスグプタ・レビューがそれを引き継ぐものとして今後広く参照されるものになるだろうと予想されている。こうした原理原則の枠組み作りにかけてはヨーロッパが長けているが、苦手な日本は今回も引きずられるようにして後塵を拝すのだろうか。

さて、このような「新しい資本主義」のトレンドが僕たちの生活にどんな影響を与えるだろうか? 僕はつい、神社仏閣のことを考えてしまうのだけれど、確実に大きな変化をもたらすことは間違いない。

今後、「富」の考え方が変わる。今までは「経済的な富」(Economic Wealth)一辺倒だったものが、「包括的な富」(Inclusive Wealth)へと拡張する。包括的な富(Inclusive Wealth)としては、これまでのように、人間が生み出した資本(Manufactured capital)に加えて、人的資本(Human Capital)と自然資本(Natural Capital)が考慮されるようになる。

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