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『山の上の家』へ

2018年9月より年に2回だけ一般開放されている、作家・庄野潤三の家。「年に2回」とは、建国記念の日と、秋分の日。今日(2020年2月11日)、天気がいいのも手伝って、庄野さんのお家へ行ってきました(友達ではない)。

すこし足をのばせばとどく距離なのだけど、なんとはなしに機会を逃していた場所。行かないままで忘れてしまいがちな。それをはかるために、物理的な距離で構成された地図だけではなく、精神的な距離で構成された地図が必要だ。

…ずっと一般開放されているわけではないという話を聞いて、精神的な距離がぐっと縮んだ。たまりきった仕事はとりあえず放置して、もう行ってしまおう。

『庄野潤三の本 山の上の家』という本を出版されている夏葉社のウェブサイトに、家までの道程地図があったので、それをたよりに。

その地図には、タクシー、バス、徒歩の3パターンがあったけれど、バスでの行き方を選びました。庄野さん自身もおおく使った道のりなんじゃないかな、と思いつつ。

新宿から小田急線を乗り継いで。各駅停車で生田駅に。

祝日の午前中。人はまばら。

ほんとうにまばらだったので、しんとした雰囲気。

生田駅の屋根。差し込む光にはっとする。

山の上の家まで(バス編)

ここからは、夏葉社のウェブサイトにあった家までの道程地図での指示通りにいきます。ちなみにリンク先の地図の絵と、ここから引用する案内文は庄野潤三の息子、龍也氏によるもの。

今回の道行きを決めたのは、この絵と文章にじーんときたせいで、実際に見てみたいなあと、思ったのもあります。

「生田駅改札を出て右へ。南口階段を降り、」

南口階段を降りきったところから見た、生田駅。

南口階段から見ると、こんな風景。早くも奥多摩丘陵っぽさが。

「すぐの道を右へ。」

右へ行くと細い路地があって、両脇に店が。チェーン店もあるけれど、こんなかわいらしい店も。

「約120m先の」

けっこう長いので、バス停があるのか少し不安になる。

「右手にバスターミナルがありますので、」

よかった。ちゃんとありました(ちなみに奥が2番乗り場)。

乗り場から見える風景。

「乗り場2番から、鷲ヶ峰営業所前行、宮前平駅行、聖マリアンナ医科大学前行に」

おじさん(自分もおじさんだけど)がバスの時刻を書き写していた。

「乗車。」

家族が。こどもが突然すわりこみ、まわりもつきあっていた。庄野家にもこんな場面があったのだろうか。

のぼっていきます。

「4つ目の停留所「春秋苑入口」で下車。」

降りたバス停の、向かい側。すこしくすんだ見た目の中華料理屋って、なんでこんな美味しそうに見えるのか…。

「進行方向10メートル先、「Noco Noco」(ケーキ屋さん)の」

「Noco Noco」は店舗移転で看板が外れていた。龍也氏の案内文からそんなに期間も経っていないのに、目印のひとつが無くなった。どんどん変わる。

「角を左に曲がり、のぼり坂を約60メートル進みます。」

けっこう、急です。庄野家族はこのルートを使ってたのか…。ちょっとした筋トレ気分に。

のぼります。

「道は左へカーブしますが、斜め右上に行く階段がありますので、」

あれかな。

これだ。たぶん。

「そこを再びのぼります。」

まだまだのぼります。さすが山の上の家…。

振り返ると。思えば遠くへきた。

もう少しのぼります。

のぼりきったところで、富士山のような景気のよい山が見えた。

「左約40メートルに浄水場の柵が見えますので、」

「その柵に沿って今度は約20メートルのぼります。」

あっ、左すみに人がまばらに見えてきた…。

「大谷石の垣の植木のたくさんある家が庄野家です。」

あれが『庭の山の木』だろうか。

どうやら着きました。

山の上の家の、なか

たくさんの人でにぎわっていたのが印象的でした。ここでは、その合間をぬってささっと撮影。後述する『山の上の家―庄野潤三の本』には、素晴らしい家の写真もたくさん掲載されているので、ぜひ。

庄野潤三ってだれ?と少しでも気になった方は

ところで、庄野潤三ってだれ?と少しでも気になった方は、『山の上の家―庄野潤三の本』を。自分も、彼の代表作のひとつ、『夕べの雲』以外、なにも知りませんでした。この本を知ってから、どんどん気になって山の上まできたタイプです。

装丁、写真、内容の采配、作品リスト、なにからなにまで、素晴らしく、氏の人となりが分かります。とくに、庄野氏が描いたこどもたちの素描と、氏が亡くなったあとの、家族のエッセイがたまらない。

文字や写真で伝わらないこと

文字や写真で伝わらないことを書いて、この記事を終えたいと思います。

歓待してくれる家族の方や係の方々が、みんな朗らかだったのが印象的だった。決して儀礼的ではなくて、形式的でも、押し付けるわけでもない。あれは、、なんだろう、地、でやっているような印象を受けました。

「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである(吉田健一)」を地でやり続けているのが、庄野家だと。場が良すぎて、しばらく縁側で呆けてしまった…。

さて、次回の一般開放は秋分の日、9月22日。まだまだ半年後と思っていても、一瞬でくることが予想されます。おのおのご準備を。

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