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M&Aを考えている全ての起業家/経営者に伝えたい大将式M&Aにおける5ステップ


前提として、私は上場企業であるクラウドワークス社にM&Aさせていただいたという自分の実体験も含めて、この記事を書いています。ただこの記事を書くにあたって、自分自身のN=1のM&Aだけではなく、自分の周囲にいるM&Aに関する経験がある起業家、経営者の話(N=500前後)も踏まえて、この記事ではまとめてみました(できるだけ再現性がある形で、関係者各位が幸せになるM&Aが増えると嬉しいと思うため)

全体としては、数億円から数十億円規模(数百億規模のM&Aではない)のM&A、上場企業への売却前提、6ヶ月ほど時間をかけて進めていくという前提に立っています。

(1)[1-3ヶ月]焦ったら負け。自分たちの会社の『事業の事実の状態が見える状態を作ること』が最低要件

現金が目減りしていく、売り上げが立たないという不安と恐怖から、焦って1社とだけ交渉を始めてしまったり、自分たちの会社の状況を正確に把握できていない状態にもかかわらず、M&Aを実行しようとしてしまう起業家も少なからずいるように思います。

焦りは禁物。円安だからと不安になる、株式市場が下落しているから不安になる。短期的な目線で物事を見ないことをお勧めしたいです。まずはどれだけ利益が出ているのか?どんなお客様売り上げのメインを占めているのか?(売り上げの上位の20社を列挙など)こういった事実を整備することから始めましょう。元々どこまで事実情報の見える化が進んでいるか?にもよりますが、1-3ヶ月ほどこのプロセスに時間を使います。

これは健康診断は病気が見つからなくてもやる価値があるように、事業の状態が事実で見える化されていることは、仮にM&Aを実行しないという判断になったとしても、とても意味のあることです。なぜなら売れる会社というのは、外部の人から見て、再現性のある利益が出せる仕組みがあるなど、その会社の価値が伝えられなければ、売れないですし、別に買い手になる企業以外も投資家だと見ることができます。

あなたがもし転職するのだとしたら、その会社にどれだけの現預金があり、どれだけ儲かっていて、その会社の平均年収はいくらで、平均勤続年数は何年で、ボーナスがどういうルールで支給されて、どんなスピードでどんな役職についている人がいるのか?そういう事実を知りたくなりませんか?

相手の立場から見れば、良い会社であることを伝えられるように事実情報を整理することは、関係者全員にプラスの効果をもたらします。社員に今どんな状態であるか?を伝え、この数字をこの目標数字に改善し、達成したら、ボーナスがどれだけ出せる、どれだけ基本給をあげることができるということが伝えられることにもつながります。

どんな状態なのか?もわからないのに、関わってくれるという人は稀です(だからこそ、自分個人の哲学として、何も事実がついてきてない段階で力を貸してくれた人たちから受けた恩を特に大事にしています)。そういう意味でもまずは「事実を見える化」する。ここからスタートしましょう。正直M&Aの交渉をする1年前から、私はこの準備を始めていました。

この段階で、軽く会計士、弁護士、税理士などの先生方に、会社をM&A、IPOなどの形で、自分の個人商店で終わらせる気はないことを伝えておくと良いでしょう。この時点で資産管理会社を作りましょうか?など、提案をしてくださる先生もいます。

(2)[1-2ヶ月]M&Aの買い手候補先のリストアップとターゲットリストを作成し、実際に会いにいきましょう

「事実の見える化」がなされ、利益がどれだけ出ているのか?が正確にわかる状態になっていたら、次に事業の状態を日々事実ベースの数字を改善しながら、買い手候補先のアタックリストを作成しましょう。このアタックリストを作って、実際に候補先に会いに行くプロセスには、約1-2ヶ月使い、実際にアプローチしながら、どのような会社、事業の説明をするのか?やりながらブラッシュアップしていくことになります。

まずどんな企業がそもそも買い手企業になるのでしょうか?具体的には、競合企業が検討対象になることもあるでしょう。競合企業に情報を抜かれるだけ抜かれて、その後どうなるのか?不安だ。そう思うこともあるかもしれません。しかし、大丈夫です。再現性のある利益を出す仕組みを作ってきた事業、そして組織というのは、模倣が難しいものです。特にその組織の実行力があるから、できるということは多くあるものです。昨日の敵は今日の友となる感覚を持っておいてください。この辺の感情に関しては、当時この記事にまとめています。

競合以外の買い手候補としては、各社のIR資料を見ましょう。M&Aに関しての方針を挙げているような会社も上場企業であればあります。その方針に合うようなストーリーを個別に考えて、売り込みましょう。なので一社一社の売り込みの負荷は割と高いので、最初のアプローチするところは、多くとも10社。このような見せ方が刺さるという仮説を持ちながら、実際に話をしに行ってみましょう。プレゼンをするたびに、自分たちの会社の強み、弱みが言語化されていき、だんだん説明も洗練されてきますので、本命となるターゲット先は、一番最初に行かずに、3番目から5番目くらいで行くことを推奨します。説明の中で質問を受けたこと、わかりにくいことが判明した点などは、説明資料の改善点として織り込んでいきましょう。簡易DD(デューデリジェンス)をここですることになるでしょう。

ただし基本的な過去5年分の、PL/BS/CF、管理会計の管理シート、今後の事業計画書といったDD(デューデリジェンス)に入る前に最低限求められる資料一式はリスト化しておき、揃えておきましょう。私たちがM&Aの支援をするときには、こういうものを最初に揃えておいて、個別の交渉、やり取りの負荷が下がるように併走します。毎回個別にこれらの資料をゼロから準備して対応していたら、日々の日常業務がある中で、M&Aの交渉業務があることになるので、とてもではないですが、体が持ちません。このあたりに関して、実際に並走して、支援してほしいという方がいましたら、私のTwitterにて、「M&A実行の並走支援に興味あり」とメッセージを添えてご連絡ください

M&Aを実行してくれる相手を探すとなると、基本的にはできれば創業社長、次点で役員、そのまた次点で経営企画にリーチする必要があります。知り合いから紹介してもらって、実際に話に行くことを勧めます。一定の信頼関係がある人を介しての紹介であれば、たとえ競合となるような企業であったり、全く面識がない企業でも会ってもらえる敷居が下がるからです。そもそもこういう紹介をもらえるだけの日々の信頼関係を積み重ねておくこともとても大切なことです。

この段階においては、M&Aプロジェクトチームを組閣しつつ、株主にM&Aを検討していることを頭だししておくべきでしょう。特に今の企業価値が、投資時点の企業価値から伸び悩んでいる場合には注意が必要ですし、後出しジャンケンのように、自分の利害だけを考えて、M&Aの交渉をしてしまう起業家は、投資してくれた人たちからも応援されませんし、次に事業が失敗したとしても、支援されることはないでしょう(私個人のポリシーですが、長い目で見れば、信頼残高の方が目の前のお金よりも大事だと思います)。

投資してくださった人たちにプラスのリターンを返そうとできうる限りの行動をとっている起業家かどうか?それは起業家の動きを見ていれば一目瞭然です。その信頼に足りうる行動がまた次のチャレンジするときに、人が集まる、縁がつながる、お金が集まる原動力になりますので、信頼残高を大切に、話を進めましょう。

(3)[2週間から1ヶ月]もし(2)のプロセスでもっと売り上げ、利益を改善する必要があるとわかった場合、事業を改善することに集中しましょう。好感触、具体的には、本格DDに3社は入れそうという場合は交渉を続行しましょう

実際に10社持ち込みしてみた後は、3社は実際に具体的にDDしたいというようなところが見えるか?見えないか?分岐点として持ってみてください。まず(1)でも書きましたが、焦れば焦るほどM&Aは良い方向には進みません。落ち着いてください。買い手候補先を複数持つこと、少なくとも3社は検討、法的拘束力はないものの基本合意書(LOI)を結んでくれるというところまで持ってきたいものです。

DDを進めるプロセスには、2週間から1ヶ月ほどの時間を使い、M&Aに強い、会計士、弁護士の先生のフォローも受けながら進めていくことになります。

それぞれの買い手候補がどんな買収後のストーリーを描いているのか?の違いも見える化されますし、どのような企業価値での買収になりそうか?も違うことがここでわかります。もし候補先が1社しかない状況にしてしまうと、比較ができないかつ言われるがままに進むことになります。結婚、家を買うというような行為と一緒で、M&Aという一生において売り手から見ると試行回数が限定される行為においては、売り手は圧倒的な情報弱者にあります。なぜなら買い手候補に関しては、複数のM&Aを実行しているケースも多く、多くの事例を見ているからです。

(4)[1-2週間]最終的に3社の中からどこで決めるのか?を決定する

実際に売り手となるあなたには、いろんな思いが錯綜していることでしょう。本当にこのディールはまとまるのか?実際に売却した後、どんな働き方になるのか?社員が一斉に辞めたりしないのか?などなど、有象無象の不安が頭をもたげてくるはずです。でも大丈夫です。ここまであなたはきたのですから。

ここの段階まできたら、1-2週間かけて、素早い意思決定をする必要があります。状況によっては、役員会での承認が必要となるなど、買い手企業側の都合で、もう少し長い時間がかかることもあります。

そして、M&Aの話がまとまるまでは、当たり前ですが社員に情報開示はしないでください。プロジェクトを始める段階から、資金調達のための準備で話を進めているなど、うまく伝えながら、変な不安を従業員に煽ることなく、その孤独を引き受けましょう。

最後の本格DDは、ビジネスDD、システムに関するDD、法務DDという主に3つの観点から行われるはずです。僕が一番苦労したのは、法務DD対応の受け答えでした。何百質問もあるのを心折れずにやりきれたのは、顧問弁護士の先生、顧問会計士の先生方が愛宕さん大丈夫です、これはこうやって回答しましょうよ。キレたら負けですよ。愛宕さんがせっかちなのは知っていますが、ここは我慢です。そういう自分の良いところも、未熟な部分も分かった上で、僕はDDの中で先生方に勇気づけされてきました。だから諦めないでやりきれました。一人だったら多分諦めてしまっていたと思います。M&Aのプロジェクトチームづくりが大事な理由にもなります。このような適切なM&Aのプロジェクトチームを組閣して、進めたいという方は、私のTwitterにて、「M&A実行の並走支援に興味あり」とメッセージを添えてご連絡ください

ビジネスDDのプロセスの中で、優れた買い手企業は、売り手企業の事業モデリングを理解し、適切なPMI(会社統合)のプランを提示することができます。逆にこれができる買い手ではない場合、買った後、会社統合に失敗することが多発します。事業を統合するということは、その事業をマネージできるだけの力があることを意味するからです。

買い手企業の立場からすると、買収はスタートラインなので、買った後の数字に責任を誰が持つのか?まで、社内で決めておくことを勧めます。もし単独で十分に伸びるような会社であれば、M&Aをわざわざ考えることもないはずだからです。売り手企業の創業者のロックアップ期間に関しては、1−2年ほどが合理的でしょう。あまりに長すぎると、創業者も自分がいなくなっても回る状態を作ることに対する締切効果が働かなくなりますし、だからと言ってあまりにその期間が短いと買う側の不安があることもわかります。そのバランスをとったロックアップ期間がこの期間であると考えます。

ロックアップの期間に限らず、M&A時の最終的な株式譲渡契約書の合意交渉時に僕が僭越ながら起業家仲間の皆様に伝えたいことがあります。自分のためだけに、「M&Aの交渉をするな」ということです。

自分の利に関係することしか交渉できない起業家は、良いM&A、僕は関係者各位がWINのM&Aをこのように呼んでいますが、これを実現できないと思います。

もちろん自分自身のロックアップ期間や、売却金額が気になる気持ちはわかります。瑕疵担保責任の範囲も大事でしょう。

ただ売却後の従業員がどうなるのか?(上場企業に売れば、上場企業の面接を普通に受けても入社できないけれど、上場企業勤務で、家のローンを安心して組めるようにできるなどの観点)株主はかけた時間、お金以上のリターンを得られるのか?(リターンを返せている場合、次の挑戦でも株主は縁を繋ぎ、また力になってくれるでしょう)お客様はどうなるのか?(買収先の企業内で、サービスは継続運営できるのか?)そういうことを考えてほしいのです。

こういう多面的な視点で物事を見て、みんなのWINを考え、実現に向かう中で、あなたは気づくはずです。一人の起業家から経営者に自分自身が少しばかり成長していることを。それは何事にも変え難い大きな成長だと思います。それが次のあなたの挑戦でも存分に生かされることでしょう。

(5)おめでとうございます!ただし、M&Aはスタートラインです

M&Aが実際に話としてまとまった。素晴らしいです!おめでとうございます。もし決まらなかったとしても、会社の課題、事業の課題が見えたはずです。事実と向き合いながら、事業を改善するきっかけができたと思って、それも喜んで良いことだと思います。

少なくともここまできているあなたは、会社とは自分だけのものなんかでは決してないということをすごく多面的に理解しているはずです。M&Aというプロセスを通じて、買い手からみた会社を認識できているからです。これができるようになっているあなたには、さらに多くのお金や人を集めて、相手の立場から見て事業に挑戦するだけの力がついているはずです。

そして、買い手企業になれる企業というのは、やはり再現性のある利益を出す力に長けた企業も多いです。そんな企業の仲間入りできるということは、成果の出るやり方を学ぶための絶好の機会だとも言えます。会社統合も起業家としてのあなたの立派なキャリアの一つです。おそらく売った後も事業を伸ばしたという評判は、あなたの連続起業家として、経営者としての信頼残高を高めてくれるはずです。楽しみましょう!

私のPMI(会社統合)体験物語はこんな記事を当時書いています。この経験があったからこそ、次のアメリカでの挑戦でもチャンスをもらえていると言えます。そして自分がもっと事業を伸ばせなかった原因を認識できたかけがえのない財産になっているので、次はその振り返りを生かして、チームを、組織を、事業を作るぞという思いでいます。

最後に。起業家にとってのM&Aとは何なのか?

起業家にとってのM&Aとは何なのか?それは、次なるステップなのではないでしょうか?おそらく起業したばかりのあなたはこう思っていたのではないでしょうか?自分にはなんでもできる。自分がやった方がうまくできる。そしたら起業してやろう。そんなことを思っていませんでしたか?

でも何年か経営する中で、気付いたと思うのです。恐ろしいほどに一人では何もできないこと。少なくとも僕はそうでした。そしてその中で、本当に多くの人たちに助けられました。支援されてきた分、自分も少しでも支援できることを支援したい。そんな思いが、次の今のアメリカでの挑戦の一つの強い原動力にもなっています。

起業家から経営者へ。起業が得意な人もいるでしょう。経営が得意な人もいるでしょう。そして実は自分はサラリーマンとして働いた方が良いということに、経営してみたことで気づいた人もいるでしょう。起業と経営の狭間を乗り越えてきている人というのは、実はとても希少な存在です。それは英語と日本語では言葉の壁があるように、それと同じで起業、物事を始める世界と、それを継続的に発展していける営みにする経営の世界には実はその間に壁があります。

企業価値がついて、ゼロから作った会社が買収されたということはその壁を一定あなたは乗り越えてきたということを意味します。それはとても希少な経験です。次の冒険の旅でもきっと大きなセーブデータとなり、その旅で築き上げてきた信頼残高は売却で得たお金以上の価値を持つでしょう。

そのセーブデータをもとに、次に続く勇者を、起業家を支援してあげてください。僕もそうします!この支援を一緒にやってみたいという方も、お気軽に私のtwitterまでDMください!


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