In Between/ ep2 最初のミーティング

今回は、監督との最初のミーティングまでに与えられた24時間と、ミーティングの内容について書いていこうと思います。

シネマトグラファーとしてどのように脚本を読むのか、監督とどうコミュニケーションをとるのかについて現在自分が考えている方法をここに残しておきたいと考えています。


Whatsappでリナがキャトリンとのグループを立ち上げてくれた。


すぐに自己紹介のために3分だけズームで話すことを提案する。


圧倒的なパワーを持つ女性だった。
ハリウッドで何十年も活躍してきた自信と同時に、優しさも感じた。
ESL(英語を第2言語として話す人)に対する理解を感じたからだ。
同時に、こちらの英語のレベルがわかるとそれに合わせて使用する語彙を増やしてもくれた。


AFIの卒業生であることを教えてくれた。
AFIで多くを学びましたと伝える。
私はAFIでは何も学べなかったわと返される。
次からAFIの卒業生と話すときは慎重にと心にメモを残す。

本番まであと3週間しかないこと。
ロケーションが決まっていないこと。
私がどうストーリーを理解するのか楽しみだと伝えられる。


3週間あれば一緒に問題を解決できると伝える。
まずはストーリーに集中しようと約束して通話を終える。


通話を終えるとすぐに、脚本のPDFを開く。
タイトルは 「In Between」 間に挟まれているという言葉だ。
これが脚本を前進させる重要な要素だと想定する。


脚本を読み終える。
面白い。
脚本家が好きな映画もわかる。
Hell or High water。
オンラインで見つけられるテイラーシェリダンのインタビューはほとんど聞いていたので、トーンや目指す方向性は掴みやすい。


なぜこの脚本が好きなのかについて考える。
キャラクターの葛藤を伝え続けるが、脚本の最後から2ページまでそれを説明をしないという構成が面白い。
メインの3人の登場人物(母親、叔父、娘)たちの関係性が、ストーリーの展開とともに変化していくことが明確だった。
エンディングには、最も難しい2人の関係性が大きく変化する瞬間が描かれている。
最後に、母親と叔父の関係性に挟まれた11歳の娘の葛藤が解決する。
脚本の書き方から、ストーリーテリングについてかなり勉強していて、誠実そうな脚本家だと推測する。
脚本家の名前をインスタグラムで調べ、フォローする。


一番最初にやることは、キャトリンのビジョンについて理解することだ。
そのために、なぜこの脚本を監督したいと思ったのか聞こう。
ストーリーのどの部分が監督をする強い動機になったのか聞こう。
何を伝えたくてこのストーリーを選んだのか聞こう。
映画を見終わった観客にどんな感情を残したいのか聞こう。
最初から最後まで、観客の感情をどう動かしていきたいのか聞こう。
質問しすぎだと言われたら、多分私はこのプロジェクトには合っていないと腹を括ろう。


次に考えるのは、改善のためのフィードバックだ。
シネマトグラファーとしてどんなフィードバックを出すのか、最初のミーティングでどれだけのフィードバックを出すのか、どの順番で話すのか、話し方をどうするのかを整理する。


最も大きな問題は、3日の撮影で脚本が13ページあることだ。
重要なシーンにかけられる時間が分散してしまい、力のない作品になってしまう。
脚本の中から、最も重要な5つのシーンをピックアップする。
最初のミーティングでは、脚本が長いとどういうデメリットがあるのかを伝えるだけにしよう。
同時に、撮影日数を伸ばす方法を検討しよう。
伸ばせないのは、予算の問題か、ロケーションの問題か、役者のスケジュールの問題か把握しよう。
脚本の短縮について提案するのは、キャトリンが前のめりになってからがいいかもしれない。


私がストーリーを見失ったポイントを整理する。
各キャラクターのシーンごとの行動と、動機と、葛藤をリストにする。
リストにできた穴について質問していくことにしよう。


3人の登場人物の誰が主役かわからない。
あえてそうしているのか、それとも主役がいるのかもきこう。
多視点なのか、一視点なのかで、撮影方法と観客に与える効果が異なることも伝えよう。


星空の元歩くシーンがある。
VFXの予算があるか確認しないといけない。


車の中での会話シーンが長く続く。
会話シーンを分解して、キャラクターの動機がどう変わるのか整理して撮り方を考えよう。
これは初回のミーティングで話す内容ではないかもしれない。


いくつか問題点はあるけれど、面白い核になるストーリーがあるから安心だ。


3週間の使い方を整理する。
予算の確認、クルー集め、撮影・照明の機材リスト作成、ショットリスト作成、照明プランの作成、ロケハン、ルックブック作成、ルックテストまでできればいい。


LAにいる1st ACとガッファーとキーグリップのリストを作成する。
予算に応じてどの人に声をかけるかを決めよう。
AFIの同級生たちにもクルーを紹介してもらうために、メッセージを送る。
すぐに返事をくれる。
仲間たちに感謝をする。


残りの時間で、キャトリンのキャリアを調べる。
10代の頃からアクターズスタジオのメンバーだ。
子役のベンアフレックが登場するテレビ映画でエミー賞と全米監督協会賞を受賞している。
1988年のコメディー長編映画を監督して以来一度も監督作はない。
今回が36年ぶりの監督作品かもしれない。
最後の長編のSticky FingersのトレイラーをYoutubeで見つける。
根強いファンがいる作品のようだ。
彼女のWEBサイトをすべて見る。
彼女の演技コーチについて、ダレンアロノフスキーが推薦コメントを書いている。
彼女の演技への考え方も詳しく書いてある。


監督としての才能があり、最新の技術は知らないかもしれず、その場で見つける自由な演技を尊重するタイプの監督だと想定する。
ストーリーを重視する人だと言うことが文面から明らかだ。


24時間が経つ。


東京の朝9時、ロサンゼルスの夕方5時。
キャトリンとのミーティングが始まる。


アイスブレイクとして、彼女のWEBサイトのポートフォリオ写真の話をする。
14歳の時にどうやってアクターズスタジオに所属したのかについて聞く。


今度は私の番だ。
どうやって撮影を勉強したのかと聞かれる。
Youtubeで勉強をしたと言う。
空いている時間に自分のプロジェクトを撮影してポートフォリオを作ったと言う。
スタジオライティングや、グリップ機材などわからないことがあると、別のシネマトグラファーの現場へアシスタントとして参加してメモを取って勉強したと言う。
私の話を半信半疑で聞いている。


どうやって英語を勉強したのかと聞かれる。
それもYoutubeで勉強したのだと言う。
運転もYoutubeで勉強をして免許を取ったのだというと、大笑いされる。


会話はまだ慎重に進めていく。


脚本の感想を伝える。
各キャラクターごとにどのようなストーリーだったのかの理解をまとめる。
何度か頷いてくれる。
大きくは失敗していないようだ。


どう撮影するかを聞かれる。
答えるにはまだ早い。
なぜこの脚本を監督したいと思ったのかを先に教えて欲しいと聞く。
彼女のビジョンを理解するための質問を続けていく。


1時間ほど後には、ストーリーの全体像が見えてくる。
キャラクターごとの動機の整理を行なう。
自分がストーリーを見失った点について質問をする。


キャトリンの目の色が変わる。
組んでいた腕を初めて解く。
メモをとり始める。


次に、キャラクターの行動の裏にある動機について考えを共有する。
キャトリンのビジョンを伝えるために、効果的だと思うアイデアを伝える。
今度は彼女が私の話を聞いてメモをとる番になる。


その都度、頷いたり、それは違うと説明をする。
どちらにしても強いパッションが込められる。
慎重な会話だったのが、お互いの質問と回答の応酬合戦になる。
2時間があっという間に過ぎ去る。


プレプロダクションの方法について質問をする。
ありとあらゆる準備をして、撮影当日にはそれを全部忘れてその場に反応していくのが私のスタイルなのと言う。
楽しそうなスタイルだ。


ロジスティクスについて話を移す。
3週間のスケジュールの仮のアイデアを軽く説明する。


脚本を短縮させることは可能かを聞く。
私たちは12時間以上働く必要があるわねとはぐらかされる。
プロデューサーにユニオンルールに則るのか確認しないといけない。


最後に、すでにリールを見ていてくれて照明が好きだと伝えてくれる。
あなたのリールが一番コマーシャルっぽくなかったわねと彼女が言う。
気に入ってくれた照明もYoutubeで学んだのだという。
笑ってくれる。
Youtubeのセールスマンになった気分になる。


通話が終わる。


背中に汗が溜まっていたことに気づく。
グループチャットでリナにキャトリンとの打ち合わせが終わったことを伝える。


翌日、キャトリンがグループチャットに書き込む。


Shota is on board - thank you... !


初めてハリウッド映画のオファーを受けた。
プロデューサーとのミーティングがセッティングされた。
彼に最初に伝えるのは、米国で働くビザを持っていないということだ。


プロデューサーのポールから連絡が来ていた。
キャットとのグレーディングについて進捗を聞いている。


用意したカラリストのビジョンが気に入らないとキャットに断られ別のカラリストで進める話をする。


いつものように30秒で返事が返ってくる。
いつものように冷静な返事をくれる。


近況について話をする。
ポールも私もキャットと働くエネルギーの塊のような時間が懐かしいという。


ここまで、読んでいただきありがとうございます!

あなたにフォローやライクをしてもらうと次のエピソードを書くモチベーションになるので、よろしくお願いします。


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