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12,000km先の海辺でひと仕事

日本から直線距離で12,000km先。南半球にあるその国は「モザンビーク」。アフリカ南部に位置する南北1700kmもの長い海外線を持つ国だ。

2019年12月にモザンビークに到着してつかの間、急きょコロナウイルス感染拡大の影響で全世界の青年海外協力隊員の帰国が決まった。私の場合は3月19日に帰国が決まり、翌日にはドーハ経由で日本に帰ってきた。

置いてきた荷物は半分以上。気づけば時はあっという間に滞在期間以上の月日が経っていた。忘れないうちにとりとめのない一日を書き残しておこう。

所属はマプト市役所。

日本のODAで建設された公設水産市場で広報担当として赴任した。魚市場の運営をマプト市が担っている。どんな仕事ができるのか。はじめはワクワク・意気揚々で仕事場に乗り込んだ。

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そんな高揚感も一時的なもの。何もできずにいた自分しかいなかった。苦し紛れに同僚の作業について回るくらいしかできなかった。

とある日には、午後の昼下がりに仕事場のデスクトップPCになぜか大量にインストールされた洋画集を同僚と鑑賞しまくる意味深な日もあった。ちなみに2週間くらいたった後に、PCが突如起動しなくなり、その鑑賞生活も終わったのは個人的にはホッとしたのも事実。

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(注)作業場の一室。毎日清掃が入り常に清潔に保たれている。写真中のエアコンは塩害で故障していた。ドアを開くと一面の海が広がる職場だった。

ちなみに動画をウトウトしながら視聴する彼らも、やるべきことが(一応)終わっていたから視聴できたのだ。何もしていないわけではない。眠くなるのもそのはずで、彼らの朝は早い。

5時過ぎには自宅を出て、3~4つのシャパ(乗合バン)を乗り継いで片道2~3時間かけて職場にやってくる。往復のシャパは首都で仕事をする通勤客でごった返し、日本の“痛勤”並みだ。そして炎天下の中、市場内外の清掃などを9時までには終えて一息つくのが彼らのルーティンだった。

仕事のあとのもうひと仕事

さて、私も何もできず1日が過ぎる日が続き、そろそろ発狂しそうな状況だった。見かねた同僚が「仕事終わりに俺に連いてこないか?」と言って連れて行ってもらったのが、「Pescador」日本語で言えば「漁師」(のまち)だった。

Pescadorは正式には”Mercado dos Pescadores”(漁師の市場)には市内からシャパに乗って10分程度。シャパは走行区間によって差異はあるものの、日本円にしておよそ15円。3×3列シートを改造して、4×3列シートに助手席入れて13人定員のバンに18~20名を突っ込むのは日常茶飯事だ。車を降りて、海岸線に出ると見えてきた景色がこれだ。

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なんだか人だかりができている。同僚に聞くと、漁師が魚を獲ったあとに、仲買人たちがお魚を買っているところらしい。干満の差が大きいので、漁師が潮位を見計らって、沖合50m~100mくらいの場所から船を降りて、お魚を砂浜まで持ってきていた。

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ところで、モザンビーク漁業法では、第4条に漁業の種類が定義されている。「自家漁業(pesca artesanal)は、モーターや大型漁船を使用しない、家内制漁業」を指すそうだ。モザンビーク全体の漁業に占める構成比の9割近くがこの分類にあたる。

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国の法律でも小規模漁業は税制面でも保護されている印象で、ライセンス更新料はわずか680円ほどだ。一方で大規模漁業の場合は、一隻当たり最大で200万近くの更新料がかかる。マプト近郊で登録されている漁船数は1,000隻ほど。うち半数以上が非動力の手漕ぎもしくは帆船型の小舟である。

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魚の売り買いを横目にさらに海岸線を歩いていくと、路面店が30店程度ある市場にたどり着く。そこで私たちマプト市役所職員はあることを毎日するのである…

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魚や貝を売る人たちはもちろんタダで商売はできない。行政は、この紙で利用料を徴収する仕事をしている。一日5MT(メティカル)を支払う必要がある。TAXA(タッシャ)とは“税”を指す。

みな正直に支払うかというと、そうでもない。“そもそも店前にいない!!”、“どこかで油を売っているw” はたまた「いま小銭がないんだよねぇ」、「ごめん、いま細かいお金なくてさ」.....みんな適当に言い訳して、何とかごまかそうと必死だ。

30店舗ある販売業者から一人一人徴収するために、何周もするがそれでも徴収率は7割いくかいかないか。この業務は基本毎日、行政職員がマニュアルで対応している。

今日はもう徴収しきったかな….というころあいを見て、同僚は私を一服しに近くの屋台に誘う。そこで必ずコーラを飲むのが彼と私のおなじみの流れになった。

時計を見ると16時半を過ぎるか、過ぎないか。彼はこのあと、2時間半かけて家に戻り、翌朝5時すぎには家を発つ。そんな毎日を2020年の2月、彼らは過ごしていた。スマートフォンなんて持っていない彼とやりとりすることはもうできない。コロナ禍で様相は変わっていると思うが、彼はいまも元気なのだろうか。

【参考資料】

BOLETIM DA REPÚBLICA(Segunda-feira, 1 de Outubro de 2018)
República de Moçambique, Ministério do Mar, Águas Interiores e Pescas

Direcção de Estudos, Planificação e Infra-Estruturas
Relatório de actualização de informação da actividade da Pesca Artesanal na Cidade e província de Maputo

【マプト市公設水産市場】

広報担当として唯一できた仕事は、facebookページでのコンテンツ発信だった。このページは初代隊員が作成後、2代目である私がその運用を引き継いだ。扱う魚種は15~20種類。穴子や舌ヒラメ、イセエビ、ハマグリなど日本でおなじみのお魚も多い。