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メルボルン生け花フェスティバルCEO放談(8):成功の秘訣(中)

「成功の秘訣」として、総括的な話をしてみたいと思います。先に公開した2019年度の開会の挨拶をもう少し掘り下げた内容になります。


メルボルン生け花フェスティバルの目標

メルボルン生け花フェスティバルの目標は、一言で言って「生け花人口の拡大」。もっと多くの人に生け花の魅力を伝えたい、ということ。

もちろんメルボルンでも従来からそのような努力は続けられてきました。しかし、生け花展を開催しても、見に来てくれる方は限られているようです。日本に興味のある方々、つまりすでに生け花にある程度関心のある方々が主なのです。この状況は戦後メルボルンに生け花が伝えられて以来、あまり変わっていないのではないでしょうか。

メルボルンの人口は約500万(東京の半分)。しかし、実際に生け花を指導している先生はおそらく10人から20人くらいでしょう。都市の人口からして生け花人口が少なすぎるのです(それは同時に潜在的に巨大なマーケットがあるということでもあります)。

さらに、日本でさえ生け花人口が激減しています。1996年には450万人、それが2016年には200万人ということです。このままでは生け花はどうなるのか心配ですが、海外においてはなおのこと。特に若い方で生け花をやろうという方がほとんどいません。

こうした状況を変えたい!これがこのフェスティバルのミッションです。

なぜか?生け花にどんな意義があるのでしょう?

環境保護の立場から生け花をPRしたい

1)環境保護の立場から:自然破壊、温暖化が進むなか、生け花が危機的状況にある人類に、ある種の示唆を与えるかもしれない。

「生け花が地球を救う」と主張するつもりはありません。詳述はできませんが、生け花が本来的に(ことに近代化以前)もっている自然観は、西洋文化に典型的な自然を客体視する態度(自然=資源)とは異なります。ここを明らかにし、生け花を深く理解してもらうことで、自然に対する態度の見直しへの示唆が可能かもしれません。

ただ、この点を主張する際には注意が必要です。

日本の伝統的な「自然と共生する態度」から新しい時代の方向への示唆を得ようというのは、有効だとは思います。例えば、梅原猛さんの以下の主張。実に興味深いものがあります。
https://youtu.be/OYPTKnSNDdc
しかし、このような主張は日本国内でならともかく、国際的な学術会議などでは、本当に注意が必要です。それほど明瞭に割り切れるものではないからです。簡単に揚げ足を取られかねません。ですから私の説明も歯切れの悪いものになっています。

しかし、私の生徒に対しては、ズバリと言わないといけません。「生け花の発展は地球を救うんだ!」「手遅れになる前に、生け花をひろめよう!」と。

生け花の歴史をみると、社会が変化するとそれに呼応するように生け花が変化してきた、と言えるでしょう。社会変化が先行し、生け花に変化をもたらすということ。江戸時代の生花(せいか)の展開、戦前の自由花の提唱などいずれもそうです。

しかし、環境問題が危機的状況にある今日、生け花が社会文化の価値観を先導するような役割を果たすべきではないでしょうか?生け花が社会を変えられないか?

これは巨大な提言ですね。

日本の生け花は一般的に家元制度に基づいているせいでしょうか、何名かのお家元のお言葉を拝読することはありますが、主な関心は流派という家内企業のためにということになりやすいような印象を受けます。地球規模で生け花の課題を考えよう、生け花の大きな夢を語ろうなどという方がもっと出てくると面白いと思うのですが。

生け花でお友達の輪を広め、世界平和に貢献しましょうなどという方もあるようです。それも悪くないでしょうが、私にはあまり響いてきません。それはおそらく私が現代芸術家の間で学んできたからかもしれません。現代社会の課題、文化状況を哲学的に語る彼らの中にあって、生け花が伝統文化としてのあり方の中に留まる必要はないのではないかと思うようになってきました。

生け花にもっと大きいものを期待していいのではないかと思っています。そうでないと燃えないでしょう。わずかばかりの金、名声などというスケールの小さいもののために情熱が持てますか?

とはいえ、このような考え方は、要注意でしょう。こんなことを考えているのは、このフェスティバルに関わっている人たちの中でも、私一人くらいのものでしょうし、多くの方から共感が得られるとも思っていません。

ですから、こうした思いは内に秘め、やれることを探っていくしかないのです。周囲の方に受け入れられる範囲内で、メンバーを鼓舞していくしかないのです。

生け花の癒し効果

2)生け花の癒し効果への注目:鬱を抱えたご婦人がちょっとしたことがきっかけで生け花に触れた。そこから生きる力を得た、という例が私たちの身近で起こっています。

生け花をもっと多くの方に伝えたい、花の力でもっと多くの方々の人生を明るいものに!

以上のような目標を掲げると、「では、メルボルン生け花フェスティバルはどうあればいいのか?」ということが少しはっきりしてきます。

従来の生け花展では生け花人口の拡大という点に関し、十分な成果を上げてこなかったのですから、誰もやってこなかったことでも、もっと思い切ってやってみよう、ということがひとつ。「生け花にこんな側面があったのか」と思っていただけるようなことを、なんでもやってみよう。当たり外れがあって当然。とにかくやる。

より広範囲の方々にアピールしよう!

生け花に関心がないばかりか、日本と違い「生け花とは何か」知らない方も多いのが現状。こうした方々にどのようにアプローチしたらいいのか?取り組んでみたのは以下のようなこと。

子供向け生け花ワークショップ、安価なワークショップ(未体験者にも生ける楽しさを感じてもらえないか)、国際的な音楽家とのコラボ・パフォーマンス(生け花に関心はない、しかし、豪州最高のコンサート会場へは出かけるという富裕層へのアピール)、さらに次回からは生け花ディナーショーも計画しています。新規の顧客開発を狙っています。まるでビジネスのような語り口ですが、そういう側面もある!と割り切っていいでしょう。

生け花をより深く理解してもらおう!

デモ、トーク、コンクールなどは、いずれも単に生け花展を見てもらうだけでは十分に伝わらない生け花の奥深い魅力をアピールすることを目指しています。

さらに国際いけ花学会とコンフェレンスを共催しています。今回は私が自由花の誕生には西洋モダニズムの影響があったけれども、要は自由花とは生け花古来のあり方を再確認したものだったのではないかというような話をしました。学問的にも生け花を紹介したいのです。

また、現在、生け花の癒し効果についてメルボルン生け花フェスティバル協賛で(当方が費用を負担して)研究を進めています。近いうちに研究発表ということになるかもしれません。

もう一つの最大の難題

さて、メルボルン生け花フェスティバルの大きな課題がもうひとつあります。最大の課題だったでしょう。どうしたら州外、海外(特に日本!)の方から出展していただけるか?

これは先例も少なく、大きな難問でした。

それは、メルボルン生け花フェスティバルがローカル・イベントである限り、実現困難です。国際イベントとなって初めて可能性が出てくることでしょう。これについてはまた次の機会とします。

実は、数年かかりましたが、この難題も解決していくことになります。

見出し画像:メルボルン生け花フェスティバルでの生け花ワークショップ。このイベントもまた全ての回が満席となった。

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