見出し画像

時間の無い世界で、また君に会う 第1章 時を無くす少女

〜前回までのあらすじ〜

時間の存在に疑問を持つ少年「トキマ」。

彼はたまたま遅刻に追われて乗った満員電車で時間の歴史を調べた。

しかし、それでも時間の必要性にまだ納得できないトキマはずっと考えていた。

そんな時に道端で「時間をなくしてみませんか?」と書かれた一枚の紙を見つける。

その紙に書かれたことが気になり、偶然載っていた住所を頼りに埼玉県の川越市へ。

住所通りの古い建物に着いたトキマは突然後ろから「なんのよう?」と声をかけられる。

それは桜のように優しく透き通った女の子の声だった。


肩をブルっと震わせた僕は慎重に後ろを振り返る。

「あの…この紙をみて来ました…」と恐る恐る手に持っていた紙を見せた。

「あー。時無しの依頼ね。とりあえず上がって!」

僕はその女の子に案内されるままに、居間に行く。

とても広い畳の部屋だった。

「畳のいい匂いだ!」そういって一呼吸した。

「今時の男の子は畳の匂いが好きなの?」と女の子は物珍しそうに言う。

「あ。いえ。そういうわけでは…」
僕は視線を下に下げながら言う。

「何か飲む?」

「あ、なんでも構いません!」

静かな空間には冷蔵庫を開ける音、飲み物を注ぐ音、氷を入れる音が響き渡った。

「あ〜。そういえば名前なんていうの?」

「時間と書いてトキマです!」

「私は咲季(サキ)!よろしくね。」そう言って僕の目の前に氷がたくさん入った麦茶を出した。

コップの周りには大雨のような水滴がびっしりと付いていた。

ここまでほとんど走りっぱなしの僕は思わず手にとって一気に飲み干す。

「真夏に飲むキンキンに冷えた麦茶は美味しい!」

「でしょ?私、真夏に冷えた麦茶を飲んだ時が一番幸せかも!」

確かにその気持ちわかると僕は彼女をみてうなずいた。

「まさか本当に依頼しに来る人がいるとは思わなかったよ」

麦茶を飲みながらそう言っている彼女はなんだか嬉しそうだった。


「ところで君〜なんで時間をなくしたいなんて思ったの?もしかして遅刻の常習犯とか?」

「違いますっ!」

思わず口に含んでいた溶けた氷を飲み込んでしまった僕は、胸を叩きながらそう言った。

「ごめんごめん。冗談!」と彼女は微笑む。

「毎日満員電車に乗ったり、社会人や学生が走っている姿をみてたら、時間に縛られてるのってなんか変だなって思ったんです。」と僕は打ち明ける。

「それで時間をなくしたいと思ったんだ〜」と彼女はコップを加えながら僕の方を見る。

「江戸時代より前って今みたいに時間を強く意識してなかったんですよね。日がでてきたら朝か〜とか。日が沈んだら帰ろうとか!」

「そうだね。いつの間にか時間を意識しながら人は生きるようになったんだよね…」と彼女は目線を下に向ける。

畳の空間に一抹の沈黙の時間が流れた。

そんな空気に気づいたのか、彼女は「やっぱ、遅刻常習犯だったんだね!」と腕を机に置いて食い入るように聞いてきた。

「だから違いますっ!」顔を赤めながら僕は言う。


しばらく話していると、彼女は「来て!」といって立ち上がった。

僕は彼女と一緒に建物の裏口から外に出る。

「実はね。私の家系って元を辿ると時間を管理していた漏刻博士なの。」と彼女は自分の祖先の話を始める。

漏刻博士(ろうこくはかせ)とは、大昔の日本に存在していた役人で、当時の時計だった水時計を見守って時間を把握し、その時間を知らせていたという話を彼女から教えてもらった。

つまり彼女の祖先は古代の時間管理人だったというわけだ。

そんな歴史話を熱心に聞いていたら時の鐘の裏側に着いていた。

「今から登るよ!」と笑顔で時の鐘を見上げる彼女。

「え?登るの?」と困惑しながら時の鐘を見上げる僕。

「当たり前じゃない!いいから行くよ。」と彼女は階段を登り出した。

そう言われた僕も彼女の後について登る。

昔のままの古い階段なのか、足を踏み込むたびにギシギシと鈍い音がした。

「トキマ、足下気をつけてね!余所見してると落下するわよ!」と冗談っぽく言う彼女。

「バカにするな〜!」と僕は頬を膨らませながら歩く。

必死に登りきって鐘の上に立った僕は驚いた。

辺り一面に広がる川越の古い街並みは、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのように錯覚するほどだったのだ。

そして太陽が沈みかけ、夕焼けが空に描かれていた。

「━━なんて綺麗なんだ!」

昔の人たちがきっと見たであろう同じ景色を見れていることに感動した僕は立ち尽くしてしまう。

「ト…キマ…トキマ!トキマ!」と小さく彼女の声が聞こえた。

「なにぼーっとしてるの」と僕の頬をつねる彼女の声はとても大きく聞こえた。

「痛い!痛い!ごめんって。」と僕は頬を手で抑える。

我にかえった僕は彼女に視線をむけた。

「この時の鐘は昔から変わらず今も鳴らされてるの」

「ああ知ってるよ。午前6時、正午、午後3時、午後6時と1日に4回なってるんだよね。でもそれが時をなくすのとなんの関係があるの?」

そう言いながら僕はスマホの時計をみると午後5時59分だった。

「まぁ見てて!」

大きく一呼吸した彼女は勢いよく時の鐘を鳴らす。

鐘の音は綺麗に夕焼けで塗られた川越をゆっくり包み込むように広がっていく。

それはちょうど午後6時だった。


鐘を鳴らし終えた彼女はイタズラをする子供のように近づいて、僕のポッケのスマホを指差し、時間を確認するようにいう。

「確認も何もさっきから5分たったくらいでしょ!」と僕はスマホを取り出す。

僕は唖然とした。

「え…!?時間が進んでない…!?」とスマホを見たまま固まる僕。

18時を過ぎてしばらく時間がたったはずなのに時計が18時のまま動いていないのだ。

川越の街並みを覗いてみたが、みんな変わらず普通に生活している。

「時間は…別に止まっていないな…」と安心する僕。

「時間を止めることは私にはできないよ。でも…」と意味ありげに彼女は言う。

目の前に起きた不思議な現象に動揺していた僕はある文言を思い出す。

「時間を無くしてみませんか?」
それは僕が拾った時の紙に書かれていた文言だった。

「あ…!」と僕は気付き、スマホを再び見ると時間表示が跡形もなく消えていた。

━━時間が無くなってる…!

それに気づいた僕の前にはひまわりのように笑う彼女が立っていた。

彼女は時間をなくすことができるのであった。

〜to be continued〜


【続きはこちら!】


サポートも嬉しいですが、読んだ感想と一緒にこのnoteを拡散していただけるとめっちゃ嬉しいです!