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時間の無い世界で、また君に会う 第6章 待ち合わせの場所

〜前回までのあらすじ〜

時間の存在に疑問を持つ少年「トキマ」はある日、夜道で「時間をなくしてみませんか?」と書かれた一枚の紙を見つける。

紙に偶然載っていた住所を頼りに埼玉県の川越市に行き、そこで時の鐘を鳴らすと一時的に時間を無くすことができる力を持つ一人の少女"咲季(サキ)"に出会う。

時を無くす力を使って時間が存在しない素晴らしさを伝えようと僕らはライブ配信を始める。

時を無くす力を使って色んな依頼をこなしていくうちに、咲季の時を無くせる時間が徐々に伸びていることにお互いが気づいたのであった。

ある日、ファンが見守る中で時の鐘を鳴らし終えた咲季の手を取りトキマは走り出す。向かった先は池袋。

そこで二人は一日中時間を忘れて遊び、「明日池袋で待ち合わせしよう!」と約束を交わした。

しかし、次の日の朝起きてみると時間が無くなったままであった━━━


僕は勢いよく家を出た。

外では雨粒がアスファルトに当たってポツポツと小さな音を奏でていた。

「なぜ?どうして?」と必死に考えながら雨の中を走る僕の手に傘は無かった。

周りを気にせず、ただひたすらに的に向かって飛ぶ弓矢のように僕は駅を目指して一直線に走る。

途中で黄色や赤色のカラフルな何かを持つ人たちの横を何度も通ったが、僕の目には駅以外は何も見えていなかった。

やっとの思いで駅に着いた僕は電車の時刻表を無意識に探していた。

「━━時刻表がない!」

駅内ではアナウンスが繰り返し流れていた。
時間が無くなっている今、時刻表を設置する意味がないため外したようだ。

「そっか。そういえば時間無くなってるんだった。」と僕は壁に手を置いた。

僕は壁に背をつけて辺りを見渡す

「意外と人いるな。電車来ないのになんでだ?」と僕は不思議に思っていた。

するといつもの聞き慣れたアナウンスと共に電車がやって来る。

「時刻表ないのにどうして…?」と目を丸くする僕。

流れているアナウンスで知ったのだが、どうやら時刻表はないけど、電車はほぼ一定の時間感覚で来ているらしい。

しかも車掌さんの長年の経験から来る感覚に任せて運行しているとか。

「すげぇ…」とボーッとしていると電車が閉まりそうになる。

僕は慌てて電車に飛び込んだ。

いつもならイヤホンをさしてスマホで動画を眺めている僕も、今日ばかりは次の駅が表示される電車内モニターをひたすら眺めていた。

外の世界では次第に雨脚が強まっていた。

それからしばらくして川越駅に着き、僕は勢いよく電車を飛び出した。

大雨の中、僕は咲季の家に向かう。
水溜りを蹴る音が静かな雨の世界に響き渡っていた。

彼女の家にたどり着いた僕は「咲季!」と家のドアを叩いてはみたものの、反応はなかった。

仕方なく裏口に回ってみると、ドアは小さく開いていた。

急いで中に入ったが誰もおらず、ただ薄暗い空間があるだけだった。

僕は川越の町を走り回った。

「おばさん!咲季さん見ませんでしたか?」
「トキマ君おはよう!さーちゃん?今日は見てないわね。どうかしたの?」
「咲季さん、家にいなくて。なので見つけたら教えてください!」

「おじさん!咲季さん見ませんでしたか?」
「おう!トキマか!今日はまだ見てねぇな。どうかしたのか?」
「咲季さん、家にいなくて。なので見つけたら教えてください!」

必死に走って回ったが、情報は何ひとつ得られなかった。

もしかしたら待ち合わせ場所に先に行っているのかもしれないという微かな希望を抱いた僕は急いで池袋に向かう。

洋服屋。
カラオケ。
ボウリング場。
ケバブ屋。
水族館。

昨日咲季と行った場所を全て回ったが、咲季の姿は見当たらなかった。

「どこに行ったんだよ…」と僕はスマホに取り出してLINEを開く。

濡れた画面を拭きながら電話帳から咲季の2文字を探す。

スマホの画面越しに見えた僕の顔はなんだか泣いているようだった。

「ない…」僕はスマホを持つ手を下に降ろす。

「なんで…なんで連絡先交換してなかったんだろう…」と僕は空を見上げた。

この時僕はまだ彼女と連絡先を交換していないことに気づいた。
当たり前のように毎日一緒にいたのであまり気にならなかったのである。

鉛色の空。矢のように降り注ぐ雨。アスファルトを弾く雨音。

「なんだ、雨降ってんじゃん…」
僕はようやく雨が降っていることに気付いた。

〜to be continued〜


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