時間の無い世界で、また君に会う 第10章 古い地図
〜前回までのあらすじ〜
時間の存在に疑問を持つ少年「トキマ」はある日、夜道で「時間をなくしてみませんか?」と書かれた一枚の紙を見つける。
紙に偶然載っていた住所を頼りに埼玉県の川越市に行き、そこで時の鐘を鳴らすと一時的に時間を無くすことができる力を持つ一人の少女"咲季(サキ)"に出会う。
ある日、咲季と池袋で遊んだ帰りに「次の日も会おう!」と待ち合わせをするが、起きてみると時間がなくなったままで、咲季はどこにもいなかった。
━━━咲季を見つける唯一の可能性と言えるのが「時切稲荷神社」!
地元の神社の神主ジショウおじさんに時切稲荷神社について詳しく聞いた僕は、急いで岡山県に向かう。
時間に縛られない自由なタクシーとおじさんに出会い、大切なことを学びながら、ついに岡山県に到着する。
僕はスマホで時切稲荷神社への最短ルートを検索した。
時切稲荷神社までは約40km。
1日20kmペースで歩ければ2日で着く計算だ。
ちなみに1日20kmというのは現代人にとっては長く感じるが、"歩き"が交通手段として当たり前だった江戸時代の人にとっては短い。
当時の日本人は40km歩くこともよくあったほどだ。
「意外と距離あるな〜」と僕は呟くと、進む先に視線を移す。
時間はおそらく正午過ぎ。
お昼ご飯を食べようとサラリーマンたちが歩いていた。
「今がお昼だってなんで分かるんだろう…」と僕は不思議に思いながら見ていた。
サラリーマンたちを見ていると突然、僕のお腹からグーと音が鳴る。
「なるほど…そういうことか!」と僕はお腹を抑えながら笑う。
「体内時計か。」
人体にはお腹が空いてくるお昼くらいになると鳴り出す不思議な時計が備わっている。
つまり時間が分からなくてもお腹が鳴ればお昼時というわけだ。
「人って時間が無くても生きていけるじゃん…」と僕は近くのコンビニで買ったおにぎりを頬張る。
おにぎりを頬に詰め込んだ僕は歩き始めた。
駅から離れると大きな建物が減っていった。
見上げる建物ばかりの東京に慣れていた僕は新鮮さを感じていた。
歩きながら、道を間違えていないか適度にスマホを確認した。
「次はここの道か…」と顔を上げると古い石畳の道が広がっていた。
石畳は昔流行っていた石を敷き詰めまくった道のこと。
今でも箱根の山道には石畳が当時と変わらない姿で敷かれている。
「ここは昔はどんな道だったんだろう…」と僕は想像を膨らませながら、つまづかないように慎重に足を運ぶ。
「あ…!」
僕は石と石の隙間に爪先を挟んで転んだ。
アスファルトの道を歩き慣れている現代の僕らには石のデコボコした道を歩くのは至難の技なのである。
石畳をなんとか歩き切った僕は黙々と道なりに歩き続けた。
歩いていると時々見える古い建物やお寺は僕を江戸時代にいるかのように感じさせ、この旅の雰囲気を一層引き立てた。
「おお!すげぇ!」
歴史を感じるものを見つけるたびに、僕は目を輝かせる。
パシャリ。パシャリ。
僕は、通り道で見つけた歴史っぽいものや綺麗な風景をスマホの写真で撮った。
歩き続けていると一件のシャッターが閉まったお店を見つける。
「なんのお店だろう…?」とお店に近づく。
そのシャッターには一枚の張り紙がしてあった。
「江戸時代にお店を開いてから200年もの間ありがとうございました。諸事情によりこの度お店を閉めることになりました…」
それは時計の修理や販売をするお店の閉店の挨拶だった。
「諸事情…これって俺らの…」
僕は張り紙を前に立ち尽くす。
言葉が出なかった僕は逃げるように先に進んだ。
空が鉛色で覆われた頃。あたり一面がこげ茶色の田んぼを横切った。
田植えは暖かい場所から始まっていき、ここ岡山はだいたい4~5月あたりには始まる。
この田んぼはまだ田植えをしていないまっさらの状態だった。
そんな田んぼの奥におじいさんとおばあさんが見えた。
田んぼの真ん中で何か会話をしているようだ。
おじいさんの大きな声の後におばあさんの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
田んぼにいるおじいさんとおばあさんはまるで時間を全く気にせず生きているようだった。
二人の和やかな雰囲気を眺めていると、ちょうどおじいさんたちの上の空の隙間から光が差し込む。
「眩しいや…」
僕はそういうと鉛色の道を歩き出した。
しばらく歩いていると徐々に民家が無くなっていき、木々が増えてくる。
山に入ったのだ。
空はゴロゴロと唸りを上げている。
「雨が降る前に山を抜けないと…」
僕はスマホを片手に早歩きで歩く。
ポツ。ポツ。
スマホの画面に雨粒が落ちてくる。
━━雨だ!
僕は急いで雨を凌げる場所を探して走る。
僕は走っている途中に草が生い茂っている洞窟を見つける。
「あ!あった!ラッキー!」と僕は洞窟へ飛び込む。
僕は濡れた服をすぐさま脱いで、予備の服に着替えた。
濡れた服を絞るとポシャポシャと大量の雨水が出てきた。
僕は絞った服を石の上に置く。
火を付ける道具がなかったので、スマホのライト機能を使って洞窟に光を灯した。
「広くは…ないな。」
そこは人がギリギリ一人入れるくらいの小さな洞窟だった。
「今日はここで休むしかないな。明日には着くだろうし、今日はゆっくり休もう。」
僕は猫のように身体を丸めながら眠る。
激しい雨の音が静かな洞窟の中に響き渡った。
朝。
洞窟に差し込んだ光が目に当たり、僕は目を覚ます。
「まぶしいな…」と目を開く僕。
雨で濡れたつぼみの隙間からピンクの花が顔を出そうとしていたのがうっすらと見えた。
「なんの花が咲くんだろう…?」
寝ぼけている僕は目をこすりながら起き上がった。
洞窟の外は昨日の大雨が嘘のように外はこれでもかというくらいに晴れていた。
「よし!行こう!」
僕は洞窟の外に出て再びスマホで時切稲荷神社の場所を調べようとする。
「あれ…?」
スマホを押しても反応がない。
ポチポチといくら押してもずっと真っ暗のままだった。
昨日の雨で壊れたのか、電池が無くなったのか。
どちらにしてもスマホが使えなくなってしまった。
「どうしよう…これじゃあ時切稲荷神社に行けない…」
とりあえず人を見つけて場所を教えてもらおうと思ったがここが山奥だということを思い出す。
「来た道を戻るしかないか。」と僕は昨日の濡れた服を畳んでしまおうとすると、ズボンのポケットから1枚の紙がひらりひらりと落ちる。
「あ!」
ひらりと落ちたのはジショウおじさんからもらった古い時切稲荷神社への地図だった。
明らかに江戸時代とかそれくらいの時期の古い地図で、どこがどこで、どうやっていけばいいか見ても全くわからない。
「昔はこんな地図を使うしかなかったんだよな…」と今がどれほど便利が痛感した。
「ないよりはマシか。それに戻ってる時間なんてないしな。」
僕はその古い地図を拾い、静かに立ち上がって洞窟を出る。
〜to be continued〜
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