時間の無い世界で、また君に会う 第7章 偶然
〜前回までのあらすじ〜
時間の存在に疑問を持つ少年「トキマ」はある日、夜道で「時間をなくしてみませんか?」と書かれた一枚の紙を見つける。
紙に偶然載っていた住所を頼りに埼玉県の川越市に行き、そこで時の鐘を鳴らすと一時的に時間を無くすことができる力を持つ一人の少女"咲季(サキ)"に出会う。
時を無くす力を使って時間が存在しない素晴らしさを伝えようと僕らはライブ配信を始める。
時を無くす力を使って色んな依頼をこなしていくうちに、咲季の時を無くせる時間が徐々に伸びていることにお互いが気づいたのであった。
ある日、ファンが見守る中で時の鐘を鳴らし終えた咲季の手を取りトキマは走り出す。向かった先は池袋。
そこで二人は一日中時間を忘れて遊び、「明日池袋で待ち合わせしよう!」と約束を交わした。
しかし、次の日の朝起きてみると時間が無くなったままであった。
雨の中を傘を忘れるくらいに全力で走り、川越はもちろん待ち合わせの池袋にも向かったが、そこには咲季の姿はなく━━
人の声をかき消すほど激しく冷たい雨の中に僕は一人立ち尽くす。
「おい!危ないだろ!」と車から男の人がクラクションを鳴らして顔を出す。
僕は何も聞こえていなかった。
弓矢のように降り注ぐ雨に打たれ続けていた僕はふと下げていた頭を起こし、どこかへ歩き出す。
雨をまるで降っていないかのように気にせず、ただ何も考えずに歩く。
そしていつの間にか僕は図書館にたどり着いていた。
図書館。それは僕にとって知識の倉庫である。
小さい頃から気になること、分からないことがあっては図書館に行って閉館まで本を読み漁っていた。
今回も何かヒントが見つかると心の中で思ったのかもしれない。
僕はそこで「時間」に関する本を片っ端から読み進めた。
━━徳川家康は機械時計を持っていた。
━━商人の世界にはすでに時間管理が徹底しているところがあった。
━━江戸時代の待ち合わせは時の鐘による時間把握でなんとかしていた。
━━茶屋など場所指定で待ち合わせをしていた。
「場所指定か。時間指定が役に立たない時代だからこそ、場所指定は理に適ってる。」と僕はうなずく。
僕は目をこすりながらもペラペラとページをめくり、本を読み進めた。
開館したら図書館に引きこもって本を読み漁り、閉館になったら読みきれなかった本を借りて帰る、そんな毎日が続いた。
━━━帰る時の僕の指はいつも黒ずんでいた。
ある日。閉館のチャイムがなると僕はいつものように机に乱雑においた本を整理して帰る支度をした。
今は何月何日なのだろうか。
咲季はどこにいるのだろうか。
僕はそんなことを考えながら窓から暗くなった外を見ていた。
「もう閉館ですよ」と机や椅子を整えながら巡回している図書館の職員が僕に声をかける。
「すいません。今出ます!」と本を抱えて帰ろうとする僕。
本を積み上げて席を立った瞬間、あまりにも抱えすぎたのか本がドミノのように崩れ落ちた。
慌てて本をかき集める僕の横で、職員の方も手伝ってくれた。
「はい!」と職員の方は拾ってくれた一冊の本を僕に渡す。
「ありがとうございます。」とちょっと恥ずかしげになる僕。
「毎日来られますね!」
「え…なんで分かったんですか?」と驚く僕。
「毎日開館から閉館までいたらさすがに覚えるよね。」
「あ…確かに…」と僕は上を向きながら頬をかいた。
「へー。時間に関することをずっと調べているのね!」とお姉さんは拾った本をチラッとめくる。
「はい…待ち合わせをした人がいて…」
「その人。見つかるといいわね!」とお姉さんは微笑み最後の一冊を僕に渡す。
「ありがとうございました!」と僕はお辞儀をした。
僕は受付で本を借りた。
「あれ。そういえばさっきのお姉さんの"見つかるといいね"ってどういうことだ…?咲季がいなくなったって話したっけ?」と僕は図書館全体を見渡す。
しかしお姉さんの姿は見当たらなかった。
「まぁいいか。」と僕はたくさんの本を抱えて家に帰った。
家に帰った僕はリビングでテレビを見ながらご飯を食べる。
「明日の天気は晴れです。日の入りの頃は曇っていますが、太陽が真上に来る頃には晴れとなっているでしょう…」
テレビでは明日の天気予報が流れていた。
時間が無くなってからずいぶんと時が経ったのだろう。
電車だけでなく天気予報もまた、時間が無い世界に必死に適応しようとしていた。
「江戸時代に天気予報があったらこんな感じなんだろうな…」と僕は江戸時代の人の気持ちになってテレビを見ていた。
ご飯を食べ終えた僕は部屋に戻り、ふたたび本を読み進める。
ペラペラと本を読み漁っている途中で一つの古い古文書の本を見つけた。
「あれ。おかしいな。こんな本借りたかな…?」と僕は不思議に思いつつも、好奇心から本をめくる。
どうやら岡山県の何かの古文書のようだ。
古文書とは昔の手紙や日記など文字で書かれている古い記録のこと。
歴史はこう言った文書を読み解いて紐解かれていく。
僕らが知っている歴史や教科書に書かれた歴史はこう言った古文書などから偉い人たちが読み解いてくれたものなのである。
しかし僕自身古文書なんて読めるはずもないので、とりあえずパラパラとページを眺めることしかできなかった。
「昔の人たちってどうやってこういうミミズみたいな文字が書かれた文章を書いて理解してたんだろう」とひじを置きながら呟いていると、偶然ある文字を見つけた。
━━"時切稲荷神社"
「トキを切るいなりじんじゃ…?」と首を傾げる。
何かはわからなかったが、直感が僕を動かし、すぐにメモをとった。
「偶然とか直感には何か意味があるから、その時は思うがままに進みなさい!」
ふと父親が昔教えてくれたことを思い出した。
「朝になったら"時切稲荷神社"について聞きに神社に行こう。ジショウおじさんなら何か知ってるかもしれない…!」
次の日。
僕は地元の神社に走った。
ちょうどそこには僕が小さい頃からお世話になっている神主さんがいた。
「ジショウおじさん!ちょっと聞きたいことがあります!」
〜to be continued〜
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