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時間の無い世界で、また君に会う 第4章 走り出す二人

〜前回までのあらすじ〜

時間の存在に疑問を持つ少年「トキマ」。

時間に対して考えている時に道端で「時間をなくしてみませんか?」と書かれた一枚の紙を見つける。

その紙に書かれたことが気になったトキマは、偶然載っていた住所を頼りに埼玉県の川越市に行き、そこで一人の少女"咲季(サキ)"に出会う。

彼女は時の鐘を鳴らすと一時的に時間を無くすことができる力があった。

時を無くす力を使って時間が存在しない素晴らしさを伝えようと、僕らはライブ配信を始めた。

時を無くす力を使って色んな依頼をこなしていくうちに、咲季の時を無くせる時間が徐々に伸びていることにお互いが気づいたのであった。


ミンミンゼミが元気に鳴くムシムシした日。

うちわをパタパタと仰ぎながら時の鐘の横にある彼女の家に向かうと、見世物でも開かれているかのように人だかりができていた。

僕はとっさに物陰に隠れて耳を澄ます。

「ここが時無し屋が撮影してるところだってよ!」

「これが動画に出てきた時の鐘ってやつか〜」

「もしかしたら動画の女の子見れるかもよ!」

どうやら僕たちの動画を見て、実際に見物しに来てくれていた人たちだった。

「嬉しいけど、見つかったら大変だな…」と僕は人だかりの中を中央突破せず、あえて遠回りをした。

まさに急がば回れである。

危険な近道よりも遠くても安全な道を通った方が逆に早いということざわである。

江戸時代の頃。西から東に出るには琵琶湖を横切る道が最短コースだったけど、琵琶湖の横にそびえる比叡山からの突風と荒波で危険で難しい道であった。

それなら琵琶湖の南にかかる瀬田橋を遠回りしてでも渡った方が、安全であり、なんなら早く着くのだ。

ここから急がば回れということわざが生まれたのである。

先人が失敗によって得た”先人の知恵”はこんな時にも役に立つのであった。

おそるおそる周りに目を配りながら彼女の家の裏口に着いた。

僕は静かにノックし、彼女は静かにドアを開けてくれた。

「外やばいね。朝からあんな感じなの?」と僕は外の人だかりを見る。

「うん。朝から。だから買い物にも出かけられなかった…」
彼女の横には買い物に行くためのカゴがしょんぼりしたように横たわっていた。

「有名人になるのってこういうことなんだろうな!」と僕は頭をかく。

「そうだね。私も嫌じゃないんだけどね…」と彼女はスマホを持つ手を静かに下ろした。

「ちょっと見せて!」僕は彼女からスマホを借りて覗く。

「魔女!」

「化物!」

誹謗中傷の嵐だった。

この時僕は初めて有名になることのデメリットを痛感した。

ファンはファンでこちらのプライベートを全く気にせず騒ぎ、アンチはアンチで匿名をいいことに悪口をゴミのように投げつけてくるのである。

「こ、こんなの気にするなよ…」と僕は頑張って笑って見せる僕。

「あんまり気にしてなかったよ。でも最近は毎日のようにこういうコメントが届くの。」

「一番苦しかったのはこれ…」と彼女はスマホをスクロールして僕に見せる。

「あんたのせいでうちの子が学校に遅刻した!」

それはどこかのお母さんからのコメントだった。

「私が時を無くすことによって、どこかに困る人がいるってことだよね…」と彼女はスマホの画面を消した。

「そうだね…でもそのお母さんだって時間に縛られているからそう言ってるだけだよ!」と僕は彼女の目を見る。

「そうかもしれないけど…そうかもしれないけど…」と彼女はなにか言いたげだった。

「僕らのことを応援してくれてる人たちがいる一方で、悪口や批判ばかりする人たちがいるように万人に理解してもらうことなんてできない。僕らはどこかで割り切らないといけないんだ…」

一瞬静かな時間が流れた。
静かな空間にはミンミンゼミの泣き声と時計の針の音だけが響いていた。

僕はふと時計を見る。

「あ!もう時の鐘を鳴らす時間だ!」と僕は彼女に伝える。

「え!やばい!急がないと!」と彼女は急いで支度をする。

僕らは時の鐘をドタバタと駆け上がった。

「「セーフ」」

彼女は時の鐘の前に立つと深呼吸をして息を整える。

時の鐘の下には大勢のファンの方が固唾を飲んでその時を見守っている。

時間は12時ちょうど。彼女は鐘を鳴らした。

いつも聞いているはずの鐘の音は、今日はなんだかいつもよりも大きく聞こえた。

鐘を鳴らし終えて戻ってくる彼女の顔には迷いがあった。

それを見た僕は彼女の手をとって走り出していた。

「行こう!」

━━静かな空間には風の音だけが残っていた。

〜to be continued〜


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