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「ほんものの泉」奇妙で不思議な5分ショートショート短編 vol.3 (5/7)

「おれは盗みなどしていない」

男はおそるおそる答える。すると、ふたたび声が。

「人のお金を勝手にとるのは盗みです」

どうやら、像の方から聞こえてくる。

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「なんだと。これはおれの敷地内にあるのだから、おれの金だ」

「このお金はあなたのものではありません」

「じゃあ誰の金だというんだ」

「このお金はみんなのものです。お金に限らずこの世にあるものはすべて、みんなのものです。誰かひとりのものではありません。この土地だって、あなたがたが勝手にあなたのものだといっているだけで、本来あなたのものではありません」

「じゃあ、さっきの貧乏くさい親子がひろっていったのはなんなんだ。あれだって、あいつらのものでないのに盗んでいったじゃないか」

「さきほどの親子はとても貧しく、明日食べるものも買えない状態でした。ほんとうに困っている場合は一時的なサポートとしてひろえるシステムになっています」

「そんなシステムを勝手に採用するな。その前に、おまえはいったい誰だ」

「わたしはこの世界では神様と呼ばれているような存在です。この像に宿っています」

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「なんと、このみすぼらしい像にほんものの神がとりついていたのか」

そうだとすると、おとずれた人びとの願いがかなったのも納得がいく。

「ところであなたはすでに十分な富をもっている。それなのになぜ、さらにこの泉からも盗もうとするのです。むしろ、あなたのもっている財産をみんなに配ってしまったらどうですか。なんならわたしがくばってさしあげましょう」

「まてまて。そんなことはしなくていい。余計なお世話だ」

普通なら自分の家に神様がやってきたとあれば、ありがたがるところだろうが、欲ばりな男にとってははた迷惑なだけだった。

「このままでは、泉の金どころか、おれの全財産まであぶないぞ。あのいまいましい像をはやくなんとかしなくては」

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「ほんものの泉」 (6/7)につづく

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