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春よ、来い

 満開の桜を見ることができなかった今年の春。
 旅行先で訪れた岐阜県では、まだ蕾であったり、見頃を終えた葉桜が多く立ち並んでいた。

 辺り一面が桜色で染められている華やかな美しい春ではなかったが、いつもなら見落としていたささやかな春の幸せを感じることができた。

 山々に囲まれた飛騨川のそばの国道を車で走っている時だった。
 四方を山に囲まれちょっぴり閉塞感を抱いていると、少し遠く離れた山の中でポツンと静かに立っている山桜が目に入った。そのときの桜は、スギの木々との対比もあり、とても綺麗な撫子色に彩られていた。僅かばかりの春の歓迎を受けたようで、心がとても温かくなった。

 本音を言えば、辺りが桜で囲まれ、心地よい春風に吹かれながらひらひらと舞う花びらをゆっくり眺めていたかった。そんな春の恒例行事も来年までのおあずけとなってしまった。

 山や木たちはすっかり冬を忘れ、鮮やかな緑色に衣替えし、これからやってくる夏をすでに感じさせている。

 桜のなつかしい声がする。

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