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【おしえて!キャプテン】#15 人の心に潜む悪を知る……あなたの知らないダークヒーローの世界

3/30(水)からディズニー+のMCU新作ドラマ『ムーンナイト』がいよいよ配信開始となります。

ShoPro Booksでは、ドラマにあわせてKindle、コミックシーモアなど複数の電子書籍ストアで「ダークヒーロー」と銘打ったキャンペーンを2022年4月7日まで開催中。ムーンナイトをはじめ、ウルヴァリン、タスクマスター、ゴーストライダーなど、MARVELコミックスのダークヒーローたちの関連コミックスを割引価格で販売しています(※詳細は記事の最後にて)

そこで、今回のキャプテンYこと吉川悠さんによる連載コラムでは、「ダークヒーロー」をテーマに闇を生きるヒーローたちのディープな魅力について語っていただきました!

ダークヒーローの代表といえば……

連載コラムも15回目になりました。今月は「ダークヒーロー」の電子書籍キャンペーン が開催されるということで、闇に生きるヒーロー達の話をしようと思います。題して、「あなたの知らないダークヒーローの世界」です。まずはその元祖にあたるヒーロー達から紹介していきましょう 。

ダークヒーローの代表というと、バットマンの名前がまず思い浮かぶと思います。ですが、ボブ・ケインとビル・フィンガーがバットマンを創造する際には、先行する様々な作品から刺激を受けてきました。

例えば、バットマンの正体が大富豪のプレイボーイ、ブルース・ウェインであるように、ヒーローが正体を隠して弱気な人物を装っているという設定があります 。このような設定は、西欧の大衆向け文化では1905年の歴史冒険小説『紅はこべ』が最初期に確立したと言われています。

さらに1919年に誕生した怪傑ゾロは、大富豪の昼行灯が正体を隠して義賊として活躍するというキャラクターです。幼い日のブルース・ウェインが、両親が殺害される直前に観た映画として『奇傑ゾロ』(1920)が引用されることも多いですね。

パルプ雑誌から生まれたダークヒーロー

そして、バットマンに特に大きな影響を与え、かつ縁が深いのが、20世紀前半に人気を誇ったダークヒーロー、シャドーです。

『The Shadow 1: The Fire of Creation』 

1930年代のアメリカでは、パルプと呼ばれる安価な大衆向け文学がおおいに流行し、後の文化に大きな影響を与えました。シャドーは犯罪物のパルプ雑誌を宣伝するラジオ番組のホストキャラクターとして生まれ、独自に人気が出て、小説、映画、ラジオドラマ、コミックなど様々なメディアで展開されるようになります。

東洋の秘境シャンバラで催眠術を学んできた元・犯罪者が、神出鬼没の怪人シャドーとなり「人の心に潜む悪を誰が知る? このシャドーが知っている!」の決め台詞と高笑いと共に現れ、拳銃で悪人達を抹殺していくという内容でした。どういうキャラクターか知りたい方には、 1994年の映画版が比較的アクセスしやすいかもしれません 。

バットマンの先達としてのシャドー

バットマンの創造者の1人、ビル・フィンガーは最初のバットマンのストーリーを作る際、シャドーの小説をかなり参考にしたと発言しています。そのため、シャドーはバットマンと深い関わりを持つようになりました。

1973年、DCコミックスがシャドーのコミック化権を持っていたとき、『バットマン』#253と#259でバットマンはシャドーと出会います。#253では、バットマンがシャドーに対して「私はあなたの影響を大きく受けたんだ」と言う場面があります。また、#259ではかつてウェイン一家は宝石店にいたところで強盗に出会い、危ないところをシャドーに助けられていたという過去が明かされます。

『Batman』#253 (1973)
『Batman』#259 (1974)

90年代に シャドーのコミックス化権はダークホース社に移るのですが、その際に前述の映画版のコミカライズ版が出ました。これは日本語版が『タイムコップ/シャドー』のタイトルで出版されています。1994年公開の映画『タイムコップ』のコミカライズと同時収録で、 シャドーのコミックス部分は 白黒なのですが、それでも巨匠マイケル・カルータの美しいアートが堪能できる作品です。

 同時期にはTVアニメ版『バットマン』にブルース・ウェインが子供のころ憧れていた銀幕のヒーロー、グレイ・ゴースト(サイモン・トレント)が登場します。このグレイ・ゴーストはシャドーのオマージュキャラと言われており、 日本語版のコミックスでは『リル・ゴッサム』2巻にも登場しています。

『バットマン:リル・ゴッサム2』
(ダスティン・グエン作・画/デレク・フライドルフス作)

DCコミックスのヒーロー&ヴィランが愛らしいキャラクターになって大集合。「祝日」をテーマに繰り広げられる、愉快で心温まるエピソードを収録。

2011年からダイナマイト社が シャドーのコミックス化権を獲得するのですが、2017年にはDCと共同で 『バットマン/ザ・シャドー:マーダー・ジーニアス』とその続編『ザ・シャドー/バットマン』が出版されます。こちらでもシャドーはバットマンを後継者と考えていたという内容になっており、出版社を越えてダークヒーローの系譜が続いていることが感じられます。

『Batman/Shadow: The Murder Geniuses』
『The Shadow/Batman』

イギリスのダークヒーロー、ナイトレイブン

70年代から90年代にかけて、イギリスにはマーベルUKという、マーベルの英国部門がありました。1980年ごろ、アメリカのヒーローコミックの再録タイトルが英国で伸び悩んでいたとき、編集者のデズ・スキンはイギリス人の好みに合わせた独自のコミックの製作に乗り出しました。当時アメリカでは流行らなくなっていた、パルプ雑誌の暗くて不吉なヒーロー(要はシャドーみたいなヒーロー)が好きだったスキンは、1930年代を舞台に悪と戦う闇の仕置人のコミックを企画します。

こうして生まれたのが、トレンチコートと帽子を身につけ、二丁拳銃を使いこなす仮面のヒーロー、ナイトレイブンでした。ギャング達を倒してその額に焼き印を残し、「邪悪の翼を広げ蔓延る悪を、誅するはこのナイトレイブン!」と書き残したメモを置いていくという、まるでシャドーみたいなヒーローです。

『Night Raven: From the Marvel UK Vaults』

当時のマーベルUKを含むイギリスのコミック雑誌の主なフォーマットは、複数の話が掲載されている週刊誌でした。しかし日本の週刊漫画雑誌より薄く、1タイトルあたり週2~3ページの連載というタイトルも大変多かったのです。その結果、ナイトレイブンの正体や背景などを語る余裕はほぼなく、1ページに10コマ近くを詰め込むハイスピードな展開になりました。

この頃のナイトレイブンはコミックスとしては60ページ分程度しか出版されなかったのですが、その後、 彼が様々な事件を解決し、犯罪者を殺していく短編小説がマーベルUKの様々な雑誌に収録されることになりました。そのため、現在出ている単行本も内容の7割くらいが小説になっていて、読むのはやや大変です……。

アラン・ムーアの『V フォー・ヴェンデッタ』

 さて、ナイトレイブンの誕生から2年もほど経った1982年ごろのことです。スキンは、新しい雑誌のために同じイメージのキャラクターのコミックを企画したいと考え、ナイトレイブンのコミックを担当していたアーティストと、新進気鋭のライターを組ませることにしました。1930年代の資料を集めることにうんざりしていたアーティストの要望もあり、舞台は近未来のファシスト政権に支配されたイギリスとなります。こうして生まれたコミックが、 あの『V フォー・ヴェンデッタ』だったとスキンは語っています。

『V フォー・ヴェンデッタ』
(アラン・ムーア作/デヴィッド・ロイド画)

西暦のロンドンを舞台に繰り広げられるアラン・ムーアの初期の代表作。独裁政権の支配する全体主義国家と化したイギリスで、仮面をつけた謎の男”V”が国家の転覆を狙い暗躍する。

『V フォー・ヴェンデッタ』についてはもはや説明をするまでもありませんが、アラン・ムーアの初期の代表作の一つで、2006年の映画版から、Vがかぶっていたガイ・フォークスの仮面がネットミームとなり、ハッカー集団アノニマスのシンボルとなったことでもよく知られています。 流れの元をたどると、ナイトレイブンそしてシャドーといったダークヒーロー達にたどり着くというのは、かなり興味深いと思います。

ちなみにアラン・ムーア は、『V』と同時期にナイトレイブンの小説を執筆しています。 彼の手によって、常人のパルプヒーローだったナイトレイブンは呪われた不死者に生まれ変わります。さらにその小説の中では、山高帽とトレンチコートを着たナイトレイブンが極寒の南極大陸を彷徨う光景も描かれています。それぞれ、『スワンプシング』でアラン・ムーアが行った キャラクターの大改変と、『ウォッチメン』のロールシャッハを連想させますね。

イギリスコミックの怪人たち

マーベルUKの話が出たので、イギリス固有のコミックスのダークヒーローも少しだけ紹介しようと思います。

1960年代には子供向けの週刊漫画雑誌が各種出ていたのですが、その誌面にはイギリス固有のヒーロー、といってもアメリカのヒーローとはひと味違う、「怪人」としか言いようのないキャラが多く見られました 。

1965年に登場した犯罪の帝王スパイダーは、外骨格やウェブ発射ガンなどを駆使する大怪盗です。世界最大の犯罪者となるため、個性豊かな仲間を集め、狂気の科学者ドクター・ミステリオソやアトランティスの征服者アンドロイド・エンペラーといった怪人と戦います。ちなみに途中からスーパーマンの創作者であるジェリー・シーゲルが原作を担当しています。

『The Spider's Syndicate of Crime』

1966年に始まった『ハウス・オブ・ドルマン』は、天才科学者かつ腹話術師のドルマンが様々なパペット人形と共に犯罪者やスパイを相手に戦います。ホラー映画『パペットマスター』シリーズをインスパイアしたと言われてます 。

『House of Dolmann』

1969年に登場したジャヌス・スタークは生まれつき異常に体が柔らかく、鉄格子や通風口も無理矢理通ることができます。その能力を活かし、19世紀のロンドンで脱出芸人かつ探偵として活躍します。

『Janus Stark』

正直、どれも本当に気持ちが悪いダークヒーローです。こうした不気味な怪人たちを、白黒の美しいアートで、かつ少ないページ数でスピーディーに描く、クラシックなUKコミックには病みつきになる魅力があります。

純白の復讐鬼、マザーパニック

さて、近年生まれたダークヒーローの中でオススメしたいのが、マザー・パニックです。

『Mother Panic (2016-2017) 』#1

主人公はゴッサムの大富豪の跡継ぎのヴァイオレット・ペイジ。彼女は子供のころ壮絶な虐待を受けた過去があり、自衛のために父親を殺してしまいました。その結果、彼女を疎んじた 兄によって学校を装った人体実験施設に入れられてしまうのです。そこでサイバネティクス手術と戦闘訓練を受けたヴァイオレットは学校を焼いて脱走 。そして自分をもてあそんだゴッサムの病んだ金持ち達を血祭りにあげる純白のヴィジランテ、マザー・パニックとなります。

連載コラム第9回で紹介した「グリム&グリッティ」への反発からか、新しいダークヒーローはそうそう出てこないのかな……と思っていたところに久々に登場した新ヒーローでした。

キャラクターの設定として非常に面白いのが、表の顔としての彼女はいわゆるお騒がせセレブなところです。バットマンの表の顔、ブルース・ウェインは大金持ちで独身のプレイボーイで昼行灯を装ってますが、現実のゴシップで話題になるセレブはもっと行儀の悪いタイプが目立ちますよね。意外と新しいコンセプトだと思います。ちなみに彼女の冒険には、バットマンやバットウーマンも登場します。

また、ヴァイオレットはトラウマに悩まされているだけではなく、肉体のサイバネティクスにも欠陥を抱えています。心身両方に痛みを抱えながら、容赦なく悪人に暴力をふるう、まさにダークヒーローと言えると思います。

著者私物原画画像より

シャドーの決め台詞「人の心に潜む悪を誰が知る? このシャドーが知っている!」の言葉の通り、人の心には暗い部分があるものです。その暗い部分に呼応するダークヒーローは今後も読者を魅了しつづけることでしょう。心の闇とヒーロー性をいかに両立するか、ダークヒーローたちに問われ続けるテーマになりそうです。

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今回ご紹介した本

 ◆筆者プロフィール
吉川 悠
翻訳家、ライター。アメコミ関連の記事執筆を行いながらコミック及びアナログゲーム翻訳を手がける。訳書近刊に『コズミック・ゴーストライダー:ベビーサノス・マスト・ダイ』『スパイダーマン:スパイダーアイランド』(いずれも小社刊)など。Twitterでは「キャプテンY」の名義で活動中(ID:@Captain_Y1)。