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『バットマン:ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』発売記念! 過去シリーズ作品と関連作品を一挙おさらい!

DCタイトルの新刊『バットマン:ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』が6月20日頃に発売されます。

本作は、以前ヴィレッジブックスから刊行された『ホワイトナイト』シリーズの続編にあたりますが、これまでの流れを知らない、もしくは読んだけれどもうろ覚えという方もいらっしゃるのではないでしょうか――

そこで今回は、ライター・翻訳者の小池顕久さんに、過去シリーズのあらすじを振り返っていただくと共に、本作を読むにあたっての注目ポイントや関連作についても詳しく解説していただきました!

『バットマン:ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』
ショーン・マーフィー[作・画 ]クレイ・マコーマック[作 ]
シモーネ・ディ・メオ 、ジョージ・カンバダイス[画] 秋友克也[訳]
定価3,850円(10%税込)

※本記事では『バットマン:ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』の内容に一部触れています。本編未読の方は、予めご了承ください。


さて、本作『バットマン:ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』は、2022年末から2023年初頭にかけて刊行された本編全8話に、外伝の『バットマン:ホワイトナイト・プレゼンツ:レッドフード』全2話を加えた、合計10話にて展開された物語です(邦訳版では、外伝も含めた全話を収録しています)。

なお、この『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』は、2017~2018年に刊行された『バットマン:ホワイトナイト』、2019~2020年に刊行された『バットマン:カース・オブ・ホワイトナイト』に続く、『ホワイトナイト』シリーズの3作目で、前2作と同様に、ショーン・マーフィーがライターとアーティストを担当しています。
 
第1作『ホワイトナイト』、第2作『カース・オブ・ホワイトナイト』は、過去に邦訳版がヴィレッジブックスより刊行されていましたが、現在は絶版になっています。
 
シリーズ第3作である『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』は、前2作の展開を踏まえてストーリーが展開されているため、できれば前2作を読んでおいていただきたいところですが、なにぶん邦訳版は入手困難……ということで、今回は『ホワイトナイト』シリーズの各作品の大まかなあらすじを紹介しつつ、各作品における重要な要素(ここを押さえておけば、『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』を読むうえで、理解しやすくなる設定など)について触れていきたいと思います。

文:小池顕久

第1作 『バットマン:ホワイトナイト』(全8号)

『バットマン:ホワイトナイト』
ショーン・マーフィー[作・画 ]秋友克也[訳]
(ヴィレッジブックス刊)

記念すべき第1作となる本作は、作者のショーン・マーフィーが、少年時代にアニメの『バットマン』(1990年代に放映された『バットマン・アニメイテッド』シリーズ)を見ていて着想した話を膨らませたもので、随所にアニメ版バットマンや、それに先駆けて展開されていた実写映画版『バットマン』へのオマージュが盛り込まれています。

以下、あらすじです。

——ヴィジランテ活動を過激に先鋭化させていき、友人であるナイトウイングバットガールからもその暴力性を危惧されているバットマン。ある時、仇敵であるジョーカーと幾度目かの決戦を行ったバットマンは、怒りに駆られて研究中の薬剤をジョーカーの口に大量にねじ込んでしまい……
結果、ジョーカーが“正気”を取り戻してしまいます。

この思わぬ作用で、善良な一市民ジャック・ネイピア(この名前は映画『バットマン』に登場したジョーカーの本名です)となって社会に復帰した彼は、バットマンの向こうを張った「ホワイトナイト」を自称。危険なヴィジランテ活動を続けるバットマンと、彼の破壊的活動から利益を得るゴッサムの上流階級を声高に非難していきます。
 
やがて、ジャックはゴッサムの貧民層の支持を得て市議会議員となる一方、ゴッサム市警と取り引きし、ナイトウィング、バットガールら市井のヴィジランテを隊員に取り込んだ特殊部隊「GTO」を発足させ、バットマンを孤立させます。

他方、ジョーカーの再来を自称する「ネオジョーカー」が、ジャックの策略を逆手に取ってゴッサム市内で破壊活動を開始。やむを得ずジャックは、バットマンと協力することで、ネオジョーカーの打倒を目論むのですが、その彼の内で、消えたはずのジョーカーの人格が目覚めようとしていました……。

……と、いうのが中盤あたりまでのあらすじ。物語はジャックとその忠実な相棒ハーレイ・クインがバットマン(ジョーカーは信用しないがジャックは多少受け入れつつある)と手を組み、ネオジョーカーの陰謀に立ち向かっていく一方、ジャック自身は内なる狂気とも戦っていきます。

本作で重要なのは、なんと言っても主役の一人であるジャック・ネイピアでしょう。法を逸脱して独善的なヴィジランテ活動を行うバットマンに対し、大衆(主にバットマンのヴィジランテ活動で住処を破壊されたりしている貧民層)を味方に付け、あくまで法に則る形でバットマンを追い詰めていくその姿は非常にカッコよく、彼の存在が『ホワイトナイト』シリーズを長寿人気シリーズに押し上げたといっても過言ではありません。
 
なにしろジャックは、第1作ラストで華麗に退場しながら、続編『カース・オブ・ホワイトナイト』でもここぞという場面で再登場。同作で今度こそ退場したか……と思わせておいて、本作『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』でも、意外な形で再登場を果たすという、「人気が高すぎて、幾度退場させても、たちまち復活するキャラクター」と化しているのです(『ホワイトナイト』シリーズでは、ショーン・マーフィーは「一度退場させたキャラクターは、復活させない」というルールを設定しているのですが、ジャックだけはそのルールが適用されずにいます。)

『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』に登場する“ジャック・ネイピア”。
果たして彼の正体は……?   

さらに、本書において地味ながら重要なのが、ジャックがゴッサム市警内に設立させたGTO(Gotham Terrorist Oppression unit/ゴッサム・テロリスト制圧班)。ゴッサム市警内に設立されたこの特務部隊には、ナイトウイング、バットガールといったヴィジランテが協力し、強力な武装でスーパーヴィラン(本作では「スーパークリミナル」と呼称)に立ち向かいます。

元々はジャックがバットマン・ファミリーの勢力を削ぐために設立したGTOですが、シリーズの発展と共に、一段と凶悪なスーパークリミナルが現れたことで、今や街の治安に欠かせない存在となっていきます(最終的にバットマンがGTOとの共闘に同意したことで、無数のバットモービルも配備されています)。

また『ホワイトナイト』作中では、かつてのバットマンの相棒で、過去に失踪したロビン(ジェイソン・トッド)の帰趨が、物語の柱の一つとなっています。このジェイソンは、次作『カース・オブ・ホワイトナイト』のラストで生存していたことが判明。本作『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』でようやくメインのキャラクターとして活躍し、外伝『バットマン:ホワイトナイト・プレゼンツ:レッドフード』の主役も務めます。

ロビン時代に心に傷を負ったジェイソンが、
新たな姿「レッドフード」として再起していく流れも、
本作の物語のポイントとなっています。

ちなみに『ホワイトナイト』シリーズでは、ジェイソンが初代のロビンで、ディック・グレイソン(現ナイトウイング)2代目ロビンという順番になっています(インタビューによれば、元々はディックが初代ロビンという想定だったのが、設定上のミスでジェイソンが初代でないと時系列的におかしくなってしまったため、彼が初代になったそうです……)。

第2作 『バットマン:カース・オブ・ホワイトナイト』(全8号)

『バットマン:カース・オブ・ホワイトナイト』
ショーン・マーフィー[作・画 ]クラウス・ジャンセン[画]
秋友克也[訳](ヴィレッジブックス刊)

『ホワイトナイト』の大好評を受け、刊行されたシリーズ第2作です。 

以下、あらすじです。

——ネオジョーカーによる大規模なテロ活動が阻止され、平静を取り戻したゴッサムシティ。しかし、今やジャック・ネイピアの肉体を完全に乗っ取ったジョーカーは、ブルース・ウェインに積年の恨みを抱くアズラエル(ジャン=ポール・ヴァレー)と手を組み、街に新たな混沌をもたらそうと目論みます。
 
やがてアズラエルによって、バットマンの盟友ゴードン本部長が襲われ、さらにジョーカーによって、300年前に起きたウェイン家に関わる重大な秘密が暴かれてしまいます。「長年、ゴッサムシティを守ってきたウェイン家の子孫」というアイデンティティを崩され、その上、ゴッサムの上流階級がウェイン・コーポレーションの関与する「バットマン損害基金」により私腹を肥やしていたことを知らされたブルースは、己を見失いかけます。
 
しかし、ジャックの元相棒であるハーレイ・クインの助言で立ち直ったブルースは、バットマンの正体、ウェイン家の資産、そしてウェイン・コーポレーションという「ブルース・ウェインを成立させてきたもの」すべてを投げ捨てることを決意。身一つとなってアズラエルとの最終決戦に赴くのでした……。 

この第2作は、バットマン(ブルース・ウェイン)がバットマンを引退し、ジャン=ポール・ヴァレーが新バットマンとなるという、1990年代の名作コミック『ナイトフォール』を解体し、ブルース・ウェインのアイデンティティがひたすらに揺さぶられるという物語に再構成した物語です。
 
第1作の好評を受けて作られた作品ということもあってか、「これで最後! 派手にいこう!」とばかりに、スーパークリミナルやバットマンの仲間たちが次々に退場していくという、中々にバイオレンス濃度の高い作品で、そのあたりも『ナイトフォール』が描かれた1990年代のコミックの殺伐とした雰囲気を彷彿とさせます。
 
アズラエル自身も本作のラストで退場するのですが、彼の強烈な存在感は、『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』の時代にも影響を残し、彼を信奉する「サンズ・オブ・アズラエル」というカルト集団を誕生させています。

アズラエルのコスチュームに倣い、顔を赤く塗ったサンズ・オブ・アズラエルのメンバー。
このほか本作には、ジョーカーを崇拝する「ジョーカーズ」など、
過去の世代に影響を受けた若者たちが登場する。   

そして、ジャック・ネイピアもまた、本作で劇的な退場を遂げるのですが……これがまたも大変な人気を博し、第3作の製作が決定したことで、ジャックも帰還を余儀なくされるのでした。

『バットマン:ホワイトナイト・プレゼンツ:フォン・フリーズ』(全1号)

『Batman: White Knight Presents Von Freeze』(2019)
ショーン・マーフィー[作]クラウス・ジャンセン[画]

こちらは『カース・オブ・ホワイトナイト』の外伝として、同作の第4号と5号の刊行の合間にリリースされた特別号です。
 
内容的には、『ホワイトナイト』シリーズで、ブルース・ウェインの協力者だったミスター・フリーズの過去を描いた物語になっており、『カース・オブ・ホワイトナイト』の後半で、フリーズの元を訪れたバットマンにフリーズが語った話……という体裁をとっています。なお、これら外伝作品は、ショーン・マーフィー以外の作家も参加するのが恒例となっています。

『バットマン:ホワイトナイト・プレゼンツ:ハーレイ・クイン』(全6号)

『Batman White Knight Presents Harley Quinn』(2021)
カタナ・コリンズ[作]マッテオ・スカレラ[画]

『カース・オブ・ホワイトナイト』の好評を受けて、第3作『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』の製作が決定。その完成を待つ合間に刊行された
スピンオフ・シリーズです。
 
物語的には、『カース・オブ・ホワイトナイト』の2年後、ジョーカーとの間にもうけた双子の赤ん坊(『カース・オブ・ホワイトナイト』作中で出産)の子育てに追われるハーレイ・クインが、"黄金時代(ゴールデンエイジ)" の俳優を狙った連続殺人事件に挑む……といった内容で、『ホワイトナイト』、『カース・オブ・ホワイトナイト』で第3の主役として活躍してきたハーレイ・クインが堂々の主役を張るシリーズです。
 
『カース・オブ・ホワイトナイト』のラストで、刑務所に収監されたブルース・ウェインもそこそこ登場し、あの手この手で獄中からハーレイを援助。やがてハーレイはバットマンに代わるゴッサムの新たな守護者を任じる……という「新たなヒーローの誕生」を描いた話ではありますが、第3作『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』が「『カース・オブ・ホワイトナイト』の12年後」と、一気に時代が飛んだため、守護者となったハーレイの活躍は今のところコミックでは描かれていません——が、同作に登場したハーレイの新コスチュームや、彼女の"秘密基地”は、『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』にも登場しています。

『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』でのハーレイは、ゴッサムの守護者は引退しつつも、
重大事件にはコスチュームを着てブルースに協力する。

第3作 『バットマン:ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』(全8号)

『バットマン:ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』
ショーン・マーフィー[作・画 ]クレイ・マコーマック[作 ]
シモーネ・ディ・メオ 、ジョージ・カンバダイス[画] 秋友克也[訳]

本作。「バットマン(ブルース・ウェイン)が引退した未来世界」を舞台としたアニメシリーズ『バットマン・ビヨンド』(邦題『バットマン・ザ・フューチャー』)をモチーフとした作品で、同作の主人公の新バットマン(テリー・マクギニス)や、彼の仇敵デレク・パワーズが重要なキャラクターとして登場しています。

新バットマンのデザインやその機能(両手の伸縮自在の爪や、滑空用の翼など)も、
アニメ『バットマン・ビヨンド』を踏襲。同作のファンならニヤリとできるシーンも続出!?

『バットマン:ホワイトナイト・プレゼンツ:レッドフード』(全2号)

『Batman: White Knight Presents: Red Hood』 (2022)
ショーン・マーフィー、クレイ・マコーマック[作]
シモーネ・ディ・メオ、ジョージ・カンバダイス[画]

ブルース・ウェインの元を離れ、放浪していたジェイソン・トッド。久々にゴッサムシティの下町に帰還した彼が、「ロビン」を名乗り自警団活動を行う少女と遭遇したことをきっかけに、己の過去に向き合う物語。

『バットマン:ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』作中では12年の間、
ブルースを避けてきたジェイソン。
レッドフードとして復帰したことで、彼の心に去来するものは……?

『バットマン:ホワイトナイト・プレゼンツ:ジェネレーション・ジョーカー』(全6号)

『Batman: White Knight Presents Generation Joker』(2024)
ショーン・マーフィー、カタナ・コリンズ、クレイ・マコーマック[作]
ミルカ・アンドルフォ[画]

『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』の完結後、さらなる続編の製作が決定したのを受けてリリースされた、第3作と第4作の間を舞台に展開するストーリー。

ジョーカーの血を引く双子、ブライス&ジャッキーが主役で、彼女らと
"ジャック・ネイピア"との新たな絆を描く一方で、ハーレイ・クインの過去のエピソードも挿入され、ジャック・ネイピアとその家族の物語として構成されています。

『バットマン:ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』作中より、
ジャックとハーレイの娘のジャッキー。まだ12歳ながら大人びた容姿で、
危険なストリートも平気でうろつきます。 


さて、来たるべきショーン・マーフィーによる『ホワイトナイト』4作目は、『ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』のラストを読む限りは、ゴッサムシティを飛び出して、さらなる世界観の広がりを見せることになりそうです。

そのリリースを楽しみに待ちつつ、まずは本作『バットマン:ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』の物語を楽しもうではありませんか。

『バットマン:ビヨンド・ザ・ホワイトナイト』
ショーン・マーフィー[作・画 ]クレイ・マコーマック[作 ]
シモーネ・ディ・メオ 、ジョージ・カンバダイス[画] 秋友克也[訳]


小池顕久

編集者、ライター、翻訳家。『トランスフォーマー』『スパイダーマン:クローン・サーガ』他のコミックの翻訳、単行本『石川賢マンガ大全』(双葉社)の構成・編集・執筆を担当。

@AtomJaw

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