【おしえて!キャプテン】#22 限定した色の世界で描き出されるスーパーヒーローたち
今月9月15日に日本語版が発売となった『カーネイジ:ブラック、ホワイト&ブラッド』。
本作は、白・黒・血のような赤の3色に色数を限定して描くというコンセプトのもとに制作されたアンソロジー企画「ブラック、ホワイト&ブラッド」の第2弾として発表された作品ですが、実は最近、DCやマーベルから同じように色数を限定したアンソロジーが次々と出版されているのです。
そこで、今回はこの「カラーを限定したアンソロジー企画」について、キャプテンYことアメコミ翻訳者・ライターの吉川悠さんに詳しく解説していただきました!
「無人島に、どのコミックを持っていく?」
今月、『ウルヴァリン:ブラック、ホワイト&ブラッド』に続く「ブラック、ホワイト&ブラッド」シリーズの第2弾『カーネイジ:ブラック、ホワイト&ブラッド』が刊行されました。この機会に「カラーを限定したヒーローコミック」についてご紹介しようと思います。
通常はフルカラーのスーパーヒーロー・コミックスで、あえて色数を抑えて描いたアンソロジーの流れの先駆けとなったのが1996年の『バットマン:ブラック&ホワイト』と言っていいでしょう。
『バットマン:ブラック&ホワイト』は、ニール・ゲイマン、ジョー・キューバート、フランク・ミラー、ジム・リー、メビウス、大友克洋……と当時の最高峰のアーティストを集めて制作されたバットマンのアンソロジー集です。
その前書きでアンソロジー誕生に至るエピソードが紹介されていたのですが、企画を担当したDC編集者(当時)のマーク・チアレロが、あるとき有名アーティストたちと会食していた際、「無人島にコミックをひとまとめ持っていくとしたら、どのタイトルを持っていく?」という話題が出たのだそうです。そのとき全員の意見が一致したのが、ウォーレン社の白黒のホラーアンソロジー雑誌『クリーピー』。「1タイトルのもとに、これほど多くの輝かしいアーティストたちが揃った例があっただろうか」というのが、その理由です。
この件が印象に残ったチアレロは、「白黒のコミックは売れない」「アンソロジーは売れない」という周囲の反対をくぐり抜けて、当時の最高のクリエイター陣を集めてバットマンの短編を任せる、白黒のアンソロジー企画を通しました。
ここで、この誕生エピソードの興味深いところとしては、アメリカン・コミック全体で見ると、白黒の作品もアンソロジーまったく珍しくないのですが、スーパーヒーロージャンルにおいては盛り上がらない形式と認識されているところでしょうか。70年代には、マーベルも『クリーピー』と同じような白黒の雑誌形式のコミックも出版していたんですが……。
ちなみに企画者のマーク・チアレロですが、『DC:ニュー・フロンティア』や『バットマン:ハッシュ』といった永遠の定番コミックから、『バットマン:エゴ』、アーティスト一人にDCキャラクターを自由に描かせる『ソロ』、古き良き日曜版漫画へのオマージュである『ウェンズデー・コミックス』など、ヒーローコミックの表現の幅を押し広げてきた数々の企画を手がけてきた伝説の編集者でした。
そんなチアレロが周囲の反対をおして1996年に刊行したミニシリーズ『バットマン:ブラック&ホワイト』は結果的に成功し、その後は『バットマン:ゴッサム・ナイツ』誌での併録連載などを経て、2014年までかけて単行本4冊分が刊行されました。当時のトップクリエイターや意外なゲストが、バットマンの本誌の流れからは独立したセッティングで腕をふるった珠玉のアンソロジーが完成したのです。初期の参加クリエイターとして日本から大友克洋が参加したことで、当時は日本でも話題になりました。
“白と黒”のルネッサンス
さて、その後2020年に、ブラック&ホワイトが新たなブームとなって帰ってきました。
DCがデジタル先行のコミックとして突如『ハーレイ・クイン:ブラック+ホワイト+レッド』を発表したのです。
内容は、今までハーレイに関わってきたクリエイターたちや業界トップの人気クリエイターたちが彼女をテーマに白・黒・赤で競作するという、『バットマン:ブラック&ホワイト』の精神を継ぐもの。これを皮切りにDCもマーベルも急に、トップクリエイター達による色数を限定したアンソロジーコミックを次々と出版しはじめます。
現在までに、DCからは下記の4タイトル。
マーベルからは下記のようなタイトルが刊行されています。
DCと時を同じくして、マーベルまでもが急に黒・白・赤でウルヴァリンの様々な冒険を描くアンソロジーを出してきたのは笑ってしまいましたが、後追い企画でもなんでも、我々読者は一切損はしていません。むしろこうして扱われるキャラクターが増えることで、より幅広いストーリーとアートを楽しめます。
今後も定期的にこういう企画を立ててもらい、スーパーヒーローをテーマにして、その時代その時代の旬のクリエイターたちに自由に筆を振るってもらいたいですね。
今回ご紹介した本
◆筆者プロフィール
吉川 悠
翻訳家、ライター。アメコミ関連の記事執筆を行いながらコミック及びアナログゲーム翻訳を手がける。訳書近刊に『コズミック・ゴーストライダー:ベビーサノス・マスト・ダイ』『スパイダーマン:スパイダーアイランド』(いずれも小社刊)など。Twitterでは「キャプテンY」の名義で活動中(ID:@Captain_Y1)。
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