見出し画像

【連載第2回】『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』大研究 「星条旗を背負う者」

ドラマシリーズ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』。アメコミライターの傭兵ペンギン氏に、このドラマを解説していただくのが本コラムです。連載第2回目の今回は、エピソード2「星条旗を背負う者」でほのめかされた今後の展開について解説してもらいましょう!

※この記事ではドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第2話の内容に触れています。未視聴の方はご注意ください。

文:傭兵ペンギン​

役者は揃った!

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の第2話「星条旗を背負う者」。ついにファルコンとウィンター・ソルジャーが合流し、一気にバディものっぽい雰囲気になった今回のエピソード。

第1話から直接つながる形でそのタイトルの通り、新たに星条旗を背負う新キャプテン・アメリカことジョン・ウォーカーが登場しましたが、彼だけではなくかつて星条旗を背負ったイザイアというキャラクターも登場しましたね。個人的に彼の登場は予想外だったので驚きでした。

一方、フラッグ・スマッシャーたちのことの背景も徐々に見えてきて、一瞬でしたがリーダー格(?)っぽい女性の名前がカリ・モジェントハウであることがわかりましたね。これは第1回で紹介した元ネタのフラッグ・スマッシャーの本名カール・モジェントハウのもじりでしょう。

そして最後にはジモも姿を表し、予告で出てきていて今のところのメインとなりそうなキャラクターたちはほとんど出揃ってきた感じがしますよね。一体どんなストーリーが展開されていくのでしょうか……!

新キャプテン・アメリカ登場!

新キャプテン・アメリカのジョン・ウォーカーは第1回で紹介した設定をある程度踏襲しながらも、華麗な軍歴を持ったアメリカの英雄で、どうやら今のところ(?)キャプテン・アメリカのようなパワーを持った超人ではなく、身体能力に優れた常人ということの様子。

コミックでもジョン・ウォーカーは「原子力爆弾を持ってワシントン記念塔に立てこもったテロリストを倒す」という活躍をしたことをきっかけに注目を集め、キャプテン・アメリカに任命されています。そのあたりも、まぁ似ていると言えば似ている設定ですね。

キャプテン・アメリカに任命された愛国者であるジョン・ウォーカーは、ヒーローとしては未熟ながらも彼なりになんとかその責務を果たそうと奮闘していく……というコミックでの設定は、ドラマ版のキャラクター像とこれから大きく重なっていきそうな気がしています。

その辺はスティーブ・ロジャースがキャプテン・アメリカを辞めさせられてしまう『キャプテン・アメリカ』332号(1987年)から始まるストーリーで、スティーブの物語と並行するような形で展開されていきます。今のところ、単行本形式では『Captain America: The Captain』(未邦訳)という形で一冊にまとめられていますので、気になる方はぜひチェックしてみてください!

その中ではジョン・ウォーカーが取材を受けたり、ロッカーで着替えたりとか直接的ではないにせよビジュアル面などで影響を与えたであろうシーンもわりと登場してきており、これからもちょいちょい引用されていくのかも。とにかく、このシリーズで描かれている重責に苦悩していくジョン・ウォーカーはすごくいいキャラクターなんですよ。

ちなみにドラマではジョン・ウォーカーがシールドを投げる練習をしている映像が登場しましたが、コミックではシールドの投げ方をヴィランのタスクマスターから教わったという設定になっています。タスクマスターは戦った相手の動きを記憶し再現することができ、キャップとももちろん戦っているので教えることができるというわけ(当時は捕まっていて減刑の見返りとしてトレーニングを引き受けたというお話)。タスクマスターはアメリカでは公開が7月まで延びてしまった映画『ブラック・ウィドウ』のヴィランのはずではありますが、ドラマでそういうネタが使われるかな……?

新キャプテン・アメリカのバッキー的な相棒キャラ「バトルスター」?

そしてそんなジョン・ウォーカーの相棒として登場したバトルスターことホスキンス。コミックでも同名のキャラクターが新キャプテン・アメリカの相棒として登場します。

レマー・ホスキンスはジョン・ウォーカーの軍人時代の友人で退役後、彼と他の仲間たちと一緒にパワーブローカーから超人的な力を与えられてレスラーとなった人物。当時、彼はボールド・アーバン・コマンドー(頭文字をとるとBUC、バックとなるのでバッキーズとも名乗っていた)というユニットでキャプテン・アメリカのマスクを被りながら、ジョン・ウォーカーことスーパー・パトリオットのヒーローとしての活動をサポートするため敵を装って戦うなどしていました。

その後、ジョン・ウォーカーがキャプテン・アメリカになるとボールド・アーバン・コマンドーの中でレマーだけが活動を続けることを許され(ちなみに他のメンバーは後にヴィランとして登場)、新たな「バッキー」としてジョンの活動を支えていきます。

しかし、彼はすぐに「バック」という名前が黒人男性に対しての差別的な言葉であるということを知り、名前を「バトルスター」に変更し、コスチュームもバッキー風ではなく独自のものに。その時のデザインと名前がドラマ版の元となっているようですね。

実はこの名前の変更の流れは現実に起こったことで、当時のマーベルにいたライターでアフリカ系アメリカ人のドウェイン・マクダフィーが問題に気づいて指摘し、すぐに変更になりました。(すでに修正する方向で動いていたものの)抗議の手紙もかなり来て、危うく大問題になるところだったのそうです。その経緯はこちらのインタビューでまとめられています。

彼のバッキー/バトルスターとしての活躍も先述の『Captain America: The Captain』(未邦訳)に収録されているので気になる方はぜひチェックしてみてください。

ちなみにバトルスターはジョン・ウォーカーがキャプテン・アメリカを辞めた後は、U.S.エージェントとは組まずにヒーローとして独自に活動を続けています。ドラマでの活躍にも期待したいですね!

知られざる黒人キャプテン・アメリカ

バッキーが協力を仰ぎに行くと登場する謎の老人イザイア。スティーブ・ロジャースの次のキャプテン・アメリカを引き継ぎながらも歴史から消されていた黒人ヒーローで、知らない人にはかなり衝撃的なキャラクターだったのではないでしょうか。

このキャラクターのベースとなっているコミックのイザイア・ブラッドリーは、第二次世界大戦中、スティーブ・ロジャース=キャプテン・アメリカに使われた超人血清を再現するための行われた黒人兵士への実験に半ば強制的に参加させられた人物の一人。

非人道的な実験が繰り返され、集められた黒人兵士300人が次々と死んでいく中、わずかに残った仲間たちと共に秘密作戦に従事して人知れず活躍。そして最終的にドイツの超人血清の研究を行っていた強制収容所を襲撃する特攻作戦に送り込まれ、作戦は見事成功するも、その際にキャプテン・アメリカの予備のコスチュームと盾を持って行ったことで最終的に軍法会議にかけられ、刑務所に入れられた上に、1960年代に後に釈放された際に戦時中に行ったことは秘密にするよう強いられ、歴史の闇に葬り去られてしまったというキャラクター。

そんな彼の秘密を2000年代に入ってその歴史をようやくスティーブ・ロジャース=キャプテン・アメリカが知ることとなる……というのがイザイアが初登場したコミック『Truth: Red, White & Black』(未邦訳)のストーリー。

これは実際にアメリカでアフリカ系アメリカ人に対して行われた非倫理的人体実験である「タスキギー梅毒実験」から着想を得て作られたシリーズで、超人となった男たちが常人とはかけ離れた見た目になって挙げ句に血清の様々な副作用で死んでいき、さらに戦争を生き延びたイザイアも後遺症でアルツハイマーのような症状を発症して喋れなくなってしまったりと、本当に重い展開の続く物語となっています。

単なる悲劇というわけではなく、ヒトラーと対峙するカッコいい場面や、戦後歴史の闇には葬られつつも黒人コミュニティでは英雄として知られた存在であったということもわかるエンディングにはグッと来るものがあります。ストーリーもさることながらカイル・ベイカーによる独特なスタイルのアートもまた素晴らしく、ぜひこの機会に読んでおいて欲しい名作です。

とにかくドラマでこのキャラクターをわざわざ出し、その存在が隠されていたことを同じアフリカ系アメリカ人であるファルコンが怒りを顕にするというシーンを入れ、さらにその直後に警察官に囲まれてしまうといった場面を見るに、今も問題となっている人種差別問題をしっかり描いていくというシリーズのテーマが見えてきます。

ちなみにコミックでのイザイアの歴史はここで終わりというわけではなく、後に彼の超人血清を再現しようと彼のDNAを使ってヒーロー「ジョサイアX」が生まれる他、おそらく今回のドラマにも一瞬だけ登場していた、孫のエリも後にヒーロー「パトリオット」として活躍することとなります。

実はこのパトリオット、ドラマ『ワンダヴィジョン』に登場したワンダとヴィジョンの息子であるビリーとトミーや、ドラマ『ホークアイ』の主人公となるケイト・ビショップが所属する若きヒーローチーム「ヤングアベンジャーズ」の一員となる人物。これだけキャラクターが揃ってくるとマーベル・スタジオはいずれヤングアベンジャーズも映像化するのではという気がしてきますね。

エリことパトリオットに関しては、『ウエスト・コースト・アベンジャーズ:あぶない!? 新チーム誕生』に収録されている『Young Avengers』誌のおまけエピソードにちょっとだけ登場します。ケイト・ビショップのエピソードであるのでメインの登場ではないですが、彼の出てくる話を日本語で読みたいという方は、まずここからチェックするのもありかもしれません。

果たして第3話はどうなるのか。もちろんジモがどう物語に絡んでくるかが重要にはなるかと思いますが、イザイアやエリが再登場するかどうかも気になるところ。次回までコミックを読みながら、楽しみに待機しておきましょう!

↑マーベルのキャラクターをもっと知りたい人にオススメの大辞典! 『マーベル・エンサイクロペディア』

↑5月中旬に邦訳版が発売予定! コミック『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』

傭兵ペンギン
ライター/翻訳者。映画、アメコミ、ゲーム関連の執筆、インタビューと翻訳を手掛ける。『ゴリアテ・ガールズ』(ComiXology刊)、『マーベル・エンサイクロペディア』などを翻訳。