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面白いに決まってる『ビヨンド・ユートピア〜脱北〜』

不謹慎なのは百も承知で言いますが『ビヨンド・ユートピア~脱北~』なんてタイトルのドキュメンタリー映画、つまらないわけがありません。

映画は2つの脱北劇が軸になっています。

ひとつは北朝鮮から川を渡って中国に入ったけど山中で身動きがとれなくなってしまった5人家族。中年夫婦、幼い2人の娘、80代の妻の母の5人が、これまで1000人以上の脱北者の手助けをしてきたソウルの牧師に助けを求めます。

私、北千住で一杯ひっかけてからタクシーで隅田川を超えて南千住のお気に入りの居酒屋へ行くことを友人たちとの間で「脱北」と呼んでるんですけど(ごめんなさい)、本当の脱北は川を渡るのなんて序の口もいいところ、中国で捕まると強制送還されてしまうので早く出国し、中国や北朝鮮の息がかかるベトナムやラオスを抜け、彼らを難民とみなしてくれるタイまでの長い道のりを密入国を繰り返す必要があるんですね。
果たして彼らはタイへたどり着くことができるのか?

もうひとつは、すでに脱北してソウルに住む女性が、いまだ北朝鮮に住む10代の息子を脱北させるという脱出劇。自分を追わせて死と隣合せの脱北を息子にさせる母親の苦しみや覚悟。果たして息子は無事に母親のもとへたどりつけるのか?

この2つの脱出劇に、多くの脱北者や関係者の話がコラージュされていきます。

初めて耳にする驚愕の事実というよりは、なんとなく知っている気になっていた隣国の現状や脱北の事実がリアルな映像とともに克明に描かれていて「自分は本当に知っている気になっていただけなんだなー」とつくづく思い知らされます。

それから「こんな場所をよく撮影できたよなー」「こんな場面でよくカメラ回せたなー」「これ見つかったら逮捕だよなー」「どれだけの時間をかけて映像を確保したんだろう」と、商業映画と違ってどれだけ儲けが出るのか解らないドキュメンタリー映画というものに命と情熱を燃やす制作者に感心させられるばかりの2時間ちょっとでした。

鑑賞中、ふと能登地震の件で叩かれていたれいわ新鮮組の山本太郎さんを思い出したり。それからかつて「自己責任」なんていうイヤな言葉が流行した『イラク日本人人質事件』も。

批判や議論は当然だし必要と思うけど、少なくとも私を含めた世の中の大半の人たちって、いま悲惨な状態にある戦地や被災地に赴く勇気や行動力なんてもんは持ち合わせていないじゃないですか?しかも自費で(まあ、そこに一攫千金のチャンスがあるかもしれないけれど)。

それを棚において「今は行くべき時ではないんだよねー」とか、行けるものなら行きたいけれど行くべきでないからあえて行かないんですよみたいな常識人の態度で(どうせ一生行かないくせに)偉そうにモノ申すのはいかがなものかと思うんですよね。

火事を対岸で見ているだけの人は、見ているだけの人なりの遠慮や奥ゆかしさというものを持ち合わせていたいものです。いいんですけどね。みんなで現場に駆けつけちゃったら大混乱になってしまうので、大半の人は見ているだけでいいんですけど。

でも、それでも現場に駆けつけてしまう、いてもたってもいられなくなってしまう、ごくごく一部の人たちのおかげで、私たちはこんなにも上質で心揺さぶられるドキュメンタリー映画なんていうものが観られたりするわけです。

ま、現場の実情を伝えるのはメディアの仕事なので、山本太郎さんには現場を把握した上でどう世の中を良くしていくのか、その行動を起こしてもらいたいものですけどね。政治家の仕事はそっちだと思うので。

でも、まあ、一番カッコよかったのは高須先生ですけどね。日本中の金持ちがああだったらいいのに。


と、話がそれましたが。

『ビヨンド・ユートピア~脱北~』はとても良かったのであまりネタバレにならないよう書きましたが、ひとつだけ私が好きだったエピソードを書いておきます。

これまで1000人以上の脱北を手助けしてきたソウルの牧師の奥さんは北朝鮮人です。脱北して中国内に身を潜めている時に恋に落ち、牧師は彼女を韓国へ連れて帰るあらゆる手段やルートを考えに考え抜き、その知識がもとになって脱北者の手助けをするようになったそうです。

みなさんも、ぜひ。

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