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本当のダメ人間とは『To Leslie トゥ・レスリー』

ずいぶん前に観た映画のレビュー第2弾(第1弾はこちら)なんですけど。

『To Leslie トゥ・レスリー』です。


主演女優のアンドレア・ライズボローがアカデミー賞主演女優賞にノミネートされましたが、それが物議を醸しました。でも、こんな物議でもなかったら日本公開はなかったんじゃない?っていうくらいの小さな作品です。


レスリーはテキサス州の小さな街に暮らす、おそらく低所得のシングルマザーなんですけど、宝くじで2000万円くらい当てて「これで人生が変えられる!」と喜びます。だけど、結局、すベてお酒につぎ込んでアルコール依存症になってしまいます。

家賃が滞って昔から住んでいるアパートを追い出され、すでに独立している息子が手を差し伸べるんですけど、息子のシェアメイトの部屋から金を盗んで酒を飲んだりしちゃって追い出されます。

息子から涙ながらにお願いされたレスリーの古い友人カップルが嫌々ながらも受け入れるのですが、やっぱりレスリーは夜な夜な家を抜け出して酒場で泥酔したりするので、その家も追い出されてしまいます。

たとえば日曜の昼下がりのフジテレビ『ノンフィクション』なんかを観ていると、どうにもこうにもダメな人って出演されているじゃないですか?

 ダメな人(例:45歳ニート)が、ダメがことをして(例:人に世話してもらった仕事を3日目で無断欠勤)、その言い分もダメダメで(例:本当に自分がやるべき仕事ではない気がする)、こんなにダメだらけなことを躊躇もなくカメラに向かって喋れるって、むしろ良い人なんじゃない? むしろピュアなんじゃない?  これこそ天使なんじゃない? って、こちら側がわけのわからない魔法にかけられてしまう、そのくらいダメな人っているじゃないですか?

そのくらいダメな母親、というかダメな人間をアンドレア・ライズボローが匂い立つような上手さで演じているので、オスカーノミネーションも、まあ、当たり前な感じなんですけどね。

でも、観終わってふと思うのは、まず、「ってか父親はどうした?」っていうことと、彼女を取り巻く街というコミュニティの怖さ、冷たさです。

小さな街ですから、レスリーが宝くじを当てた時には街中の人たちが盛り上がります。気のいいレスリーは彼ら彼女らに酒を奢ったり、お金をあげたりします。なのに、その果てに一文無しのアルコール依存症になってしまうと、あいつはひどい母親だと彼女を蔑み、笑うのです。
まあ、確かにひどいはひどいんですけどね、レスリーも笑。
でもダメな人間はレスリー1人ではない、と思ったりもするのです。

「わーこいつダメダメだー!」なんて面白がりながら『ノンフィクション』を観ている私も、日常の中でズルをしたり、ウソをついたり、人の悪口を言ったりする、そういう人間なわけですから、人間のクオリティとしてどっちが低いのかなんて、それこそ神様でもない限りわかったもんじゃありません。

映画の後半は、打って変わってレスリーの再起の物語です。

彼女が再起を果たせたのは、彼女の過去を全く知らない優しい男、それから「やっぱり息子と暮らしたい」というレスリーの強い思いが故です。

まあ、通院もせずにアルコール依存症を克服したり、優しい男がここまでレスリーに優しくする理由がよく解らなかったり、話がちょっと甘すぎる感もあるのですが。

最後に古くから彼女を知る街の人に

「私たちは、あんたに手を差し伸べるタイミングがあったはずなのに、それをしないでいてごめん」

とちゃんと謝らせるあたり、良いハッピーエンドだったと思います。

近頃、アンチやら炎上やらで精神を病んだり、自死を選んでしまう話を耳にしますけどね。
多くの人と仲良くすることは世界平和的に大切だけど、でも、自分の周りにいる99%の他人は結局のところアテにならないという考えも、心のどこかに置いておいた方が生きていきやすい気がします。
病める時も健やかなる時も心から寄り添ってくれる人なんて、所詮、この世に数える程しかないはずでしょうし。
たとえその数がゼロであったとしても、淡々と一人で楽しく生きていける術はあるはずです。

と、高校生の頃から今に至るまで座右の銘が『君は君 我は我也 されど仲よき by 武者小路実篤』である私は思うのですが、どうでしょう笑?

まあ、とりあえず宝くじが当たっても2000万円程度じゃ奢ったりあげたりしちゃダメだよ。大切なことに使うか貯金をして。「奢れ」なんて言ってくる人間は早々に切ったほうが賢明です。

良い映画でした。
みなさんも、ぜひ。
もう公開していないかもしれないけど笑。

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