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やんちゃで可愛い『バビロン』 (映画感想文)

ネタバレします!
嫌な人は即退散を!




私は映画好きとして今の時期が一年で一番楽しいです。
3月に発表される米アカデミー賞のノミネート作が次々と公開されるから。主要な作品を発表までに観て自分なりに予想をたてたりなんかします。

その一方で「アカデミー賞最有力!」などと煽っているわりにはそうでもない、映画会社の思惑通りにはアカデミー賞に絡めなかったのかな?というような作品も、毎年、必ずあって、そんな映画を「何がダメだったのかしらー?」なんて、興味本位で映画館へ足を運ぶのも、また、乙なものです。

『バビロン』も、サイトには「本年度の賞レースの主役との呼び声高い、未来に語り継がれる新時代の名作が誕生した!」なんて書いてありますけどね。アカデミー賞は『作曲賞』『美術賞』『衣装デザイン賞』という、主要ではない3部門のノミネートのみ。

「賞レースの主役だなんて、バビロンちゃんってば、ちょっと言い過ぎよ?ふふふ…」

思わずお姉さんぶって、意地悪のひとつも言いたくなってしまうというものです。

ま、このイキってる感じが可愛いんですけどね。
映画自体もバビロンちゃんってば、とーってもイキってるんです。

舞台は1920年代のハリウッド。
無声映画スターのブラッド・ピット。女優を夢見るマーゴット・ロビー。そんなマーゴット・ロビーを愛しつつ映画界で成り上がっていくメキシコ人のディエゴ・カルバの3人を中心に、映画が無声から発声へ移り変わっていく時代を3時間以上に渡って描きます。

冒頭はとにかくパーティ!パーティ!パーティ!
丘の上のお城みたいなブラッド・ピットの豪邸で、映画関係者が集って酒とコカインにまみれ、音楽が鳴り響き、裸で踊る者、セックスを始める者、しまいには象まで現れて、コンプライアンスフリーの乱痴気騒ぎから映画は始まります。

「こんなエッチでクレイジーな大人っぽいパーティ、見たことないでしょ!?ねえ、ねえ、スゴイでしょ!」ってイキりまくるバビロンちゃん。
ただただ大勢でパーティやってるシーンに30分以上もかけます。

私は終始「クラブ行きてー」と思っていましたけどね。
エントランスを入った瞬間、ケミカルな甘い香りが漂う地下のクラブで、テキーラショットひっかけて、タバコ片手に体をくねらせて踊り、人ごみに押されるふりをしながら、目が合った男と壁際でキスをしたり、股間に手を伸ばしあったりしたい!

そんなゲイクラブの日常を、映画用にマックスにゴージャスに誇張したのがバビロンちゃんのパーティです。派手でとっても楽しそうだけど、別に目新しいことはないです。

秘密の個室では、でっぷり太った男が女性の尿を浴びて喜んでいます。尿を出すためにシャンパン飲まされ過ぎた女性が死んじゃったりするけど、もう、「こんなのマジ、変態じゃね?ヤバくね!?ヤバくね!?」って、バビロンちゃんってば大はしゃぎです。

でもね、バビロンちゃん。死ぬのは別にして、たかが尿くらいで変態だなんて、それはこの世の陰に潜む本職の気合い入った変態さんたちに大変失礼というものよ。

まあ、その程度のことで興奮しちゃうバビロンちゃんは可愛いんですけどね。若い若い!

そんなパーティが終わりを告げると、あと2時間ちょっとはドラマです。
上記の主要キャスト3人のに加え、『ハリウッドで成功を夢見るレズのアジアン女優』『映画スターになっても黒人差別をうけるジャズトランペッター』『ベテランのゴシップコラムニスト』という脇役たちが絡んで、それぞれの『栄光と挫折』の物語が織りなします。

でも、よくよく聞いてみれば、せっかくチャンスを掴んでスターになったのに、下手こいてコカインとギャンブルに逃げてキャリアを台無しにするマーゴット・ロビーとか、黒人スターの屈辱とか、アジア女優の妖艶とか、そんなお話は、お姉さんくらいの年齢にもなれば、ずいぶん既視感のあるお話だったりするわけです。

だけど、バビロンちゃんってば「それでね、それでね!」と、だらだらだらだらだらだらだらお喋りが止まりません。
そんなんだから3時間越えちゃうのよ。

しかも、バビロンちゃんってば、そんなストーリーの中に、過去のさまざまな映画や俳優へのオマージュも挟み込んできます。
「僕、映画すごい詳しいんだからね!」「古い映画だっていっぱい観てるし!」って、ドヤ顔で映画通アピールしまくるバビロンちゃん。

でもね、ごめんね、お姉さん、映画は大好きだけど、監督の名前とか全然覚えないし、なんなら観た映画もちょいちょい忘れちゃうタイプで、NETFLIXで面白そうと思って観はじめて、半分くらいして「あ、これ、観たわ」って気づくこともあるくらいなの。

だから、この手のオマージュとか、だいたいピンとこない。

そんな私を無視してバビロンちゃんってば「この映画は世界初のトーキーで…」「この役はハリウッド初のアジア女優をモチーフにしていて…」なんて、唾を飛ばしながらウンチクを語ってくるわけです。

まあ、可愛いんですけどね。
一生懸命で。
だから私は「へー、マジだー、すごいねバビロンちゃーん」なんて空返事をしながら、ポップコーンを咀嚼し、ビールを飲むのです。

やんちゃで、わんぱくで、だけど、実はロマンチックでセンチメンタルで、お喋りだけど照れ屋なバビロンちゃんに、力任せに腰バンバン振られながら「ねえ、気持ちいい?気持ちいい?ぼくスゴイ?」と終始尋ねられているような、そんな映画です。

でも、まあ、たまにはこういうのも良いですけどね。
体の奥に響くような抜群の音楽を浴びながら、ちょっと自信過剰なやんちゃ坊主のまっすぐなエネルギーを全身で受け止めるようなセックス、基、映画を観るのも。

だから、内心は「いまひとつ」と思いながらも「うん、すっごくいいよ!すごいね、バビロンちゃん!」と言って、絶頂に達するフリのひとつもしてあげたいところです。

だって、可愛いもの。

きっと、もう少し経験と洗練を積み重ねて作ったら、アカデミー賞会員からの評価も、もっと高かったんでしょうけど。

でも、まあ、映画に魅了され、映画に人生を翻弄されてどん底を味わいながらも、やっぱり映画って最高だ!と微笑むラストシーンを観ると「わかったよ、もう、バビロンちゃんの好きにやりな!」と、お姉さんは応援したくなってしまいます。別に、アカデミー賞にノミネートされるだけが名作というわけでもないし。

ちょっと荒いけど、熱のこもった愛おしい映画です。
よかったら、ぜひ観てやってください。
私のバビロンちゃん。

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