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なぜ、道の駅に福祉ショップが生まれたのか【トークイベントリポート】

 道の駅「まえばし赤城」に生まれた、SHOPCAFE Qu。ジャンルとしては「福祉ショップ」ですが、なぜ、あえて道の駅だったのでしょうか。3月25日のトークイベントでは、背景にある思いやオープンまでの道のりについて、行政、福祉、デザインの観点から語られました。当日のリポートをお届けします!(敬称略)

大盛況だったオープニングトークイベント

司会・加藤未礼(一般社団法人TalkTree):Quの立ち上げには、前橋市障害福祉課が大きく関わっていますね。どのような経緯だったのでしょうか。

山本卓哉(前橋市障害福祉課):そもそも道の駅をつくった背景には、平成29年の上武国道全線開通があります。物流などにはメリットがある反面、本市を通過する車両が増え、滞在者が減ってしまうんじゃないかとの懸念がありました。そこで、前橋の魅力を広く発信するショールームを作ろうと、道の駅の構想が始まりました。
 施設にどんな機能を持たせるべきかアンケート調査をした際、障害福祉課が「みんなの店※の2号店を開いたらどうか」と提案したんです(注※前橋市総合福祉会館にあるショップ。福祉施設の商品を販売している)。今思い返すと、市長はよく「多様性」という言葉を口にされていました。前橋はさまざまな人が集う場であってほしい、との思いがあったんですね。

前橋市障害福祉課 山本さん

 その後、みんなの店運営委員会と意見交換を重ね、市が平成29年3月に発表した「要求水準書」の中で、福祉ショップが「必須施設」のひとつに位置付けられました。「整備が望ましい」とするのではなく、あえて必須とした点に、市の思いが表れています。

加藤:福祉施設側から見ると、Quはどのような場所でしょうか。

根岸由記(一般社団法人みんなの店運営委員会 副会長):まず「みんなの店」について説明しますと、障害がある人が働く施設のネットワークです。会員は31施設、賛助会員が11施設にのぼります。主な柱は①障害がある人の工賃を上げる②商品を広めていく―の2つ。前橋市総合福祉会館に1号店があり、2014年からは、アーツ前橋のミュージアムショップも運営しています。

一般社団法人みんなの店運営委員会 副会長 根岸さん

 Quでは、お客様目線を徹底していく必要があるという話をしました。特に大きかったのが、加藤さんをはじめ、デザイナーさんが入ってくれたことです。ターゲットやコンセプトに合わせて商品をつくり、自分たちでできない部分は手助けしてもらう。店頭に並べられている商品は、そのような経緯で成り立っています。
 利用者さんたちの変化も感じています。みんなの店の活動を始めてから15年ですが、利用者さん自身が「誰かに喜んでほしい」と願ったり、実際誰かに喜んでもらって、嬉しく感じたりすることが増えました。Quも色々なチャレンジができる場なので、ありがたいですね。

加藤:それでは私から、お店のコンセプトや経緯について説明しますね。店名「Qu」は「休憩」から派生したもので、研修で話し合って決まりました。コンセプトは、次の通りです。

ちょっと腰かけて、”ホッと一息つける休憩所"。福祉施設の丁寧な手仕事で作られたパンや焼き菓子、ユニークな雑貨などを販売します。多様な人たちの働く場でもあり、展覧会やワークショップの開催を通じて、地域と福祉がつながるお店を目指します。

 私は「トークツリーワークショップ」というものを考案し、一般社団法人として実践しています。Quのワークショップでは、①道の駅に期待すること、②道の駅と福祉ショップカフェの課題、③15年後の理想-という3つの問いを立てて進めました。
 
 まず、「地域の繁栄」と「利用者さんの活躍」の両方を期待する声が出ました。課題については、「休憩できる場所がない」「福祉施設でも、もっと魅力的な商品をつくっていきたい」などが挙げられています。また、利用者さんは長時間働くのが難しく、納品できる数が限られるといった点も話し合いました。
 「15年後の理想」を話した際は、「障害者がいなくなる未来」という究極の言葉が出ました。社会からバリアーが無くなれば、障害者という言葉も必要なくなる。障害がある人もない人も混ざり合い、心地よく過ごせると良いね、といったお話をしました。

一般社団法人TalkTree 加藤さん

 実は、福祉施設がものづくりをする際に忘れがちなのが、お客さんの視点なんです。みんなの店1号店に来るお客さんの多くは、利用者さんの「チャレンジ」を買ってくれます。でも、道の駅となると少し違う。そこで今回は、ターゲットを徹底的に考えました。「小さなお子さんがいる、アウトドア好きな29歳の女性」を想定し、どんな商品を選ぶか、どこに喜びを感じるかをワークショップで考えました。店頭に並べる商品も、リニューアルしたり、サイズ感を変更したりしました。
 さらに店長の千木良さんは、小売業と福祉職、両方の経歴をお持ちです。彼女が店頭にいることで、お客さんのニーズに沿ったフィードバックができる。これも、Quの大きな強みです。

 では次に、ロゴマークやペーパーワークをデザインした寺澤さんにお話を聞いていきます。

寺澤(寺澤事務所 グラフィックデザイナー):大学でプロダクトデザインを勉強していたんですが、実は卒業後にまず働いたのが、福祉施設でした。アート支援NPOの工房あかね(高崎市)で広報やデザインをしつつ、利用者さんたちと過ごしたんです。福祉って「何かをやってあげるもの」というイメージがありますが、実際は僕のほうがケアされた気がします。1年だけですが、貴重な経験でした。その後まちづくりの会社などを経て、現在はフリーランスでデザイン業をしています。

グラフィックデザイナー 寺澤さん

 Quのお話は、福祉施設のお菓子のパッケージデザインを担当したご縁でいただきました。休憩、赤城山、アウトドアなどのキーワードが挙がっていたため、木をテーマにグラフィックを作ろうと思いました。最初に提案したのが、切り株のモチーフです。時間の経過ごとに年輪ができ、あたたかさや厚みが増していく、というイメージですね。その後みなさんとコミュニケーションを取る中で、「休」の漢字は「人」と「木」からできていることに気づきました。直感的に「人が木に寄り添って休んでいる様子を表現しよう」と思い、現在のデザインに至りました。

Quのロゴ

加藤:では、店舗の内装デザインはどのようにできたのでしょうか。設計担当の木暮さん、お願いします。

木暮勇斗(llemo design studio一級建築士):前橋の街中に事務所を設け、主に木造建築の店舗や住宅を設計しています。Quの内装デザインで大事にしたのは、「循環」です。まず、来てくれたお客さんに情報を伝える。そこで興味を持ってもらい、体験につながる、というイメージです。例えば、お客さんがQuの商品を通じて福祉事業所に興味を持ち、実際に訪ねてみる。そんなきっかけが作れれば良いなと思いました。

llemo design studio一級建築士 木暮さん

 福祉と赤城山と産業、それぞれが交わって循環していく場所にもなってほしいと考えています。特に林業の魅力を伝えたいとの思いがあり、山本さんや加藤さん、店長の千木良さんと一緒に、木材の製材所へ見学に行きました。Quの什器(商品棚)には、そこで製材された約8種類の木材が使われています。木目や色、においが異なり、多様性のコンセプトにもつながっています。林業の担い手不足が問題となっている今、改めて素材の魅力を体感してほしいと思います。

赤城山の木材が活用された什器(商品棚)

 これらの木材は、アウトドア用のロープで仮設的に組んでいます。将来的に分解して、木材を薪や家具に再活用できるようにしています。これもひとつの「循環」ですね。什器を手掛けたのは、就労継続支援B型事業所「リーフ」(前橋市総社町)さんです。新聞紙で木材を一つずつ包んで、ゆっくり乾燥させるなど、とても丁寧に作業してくれました。

加藤:福祉って、他の産業とつながるのがなかなか難しくて、どうしても縦割りになりがちですよね。でも今の時代、こういった連携が起きているんですね。また、寺澤さんと木暮さんの話からは、愛が伝わりますよね。ふたりのような若い人が成長し、福祉も成長していく。15年後が楽しみです。では最後に、店長の千木良さん、お願いします。

登壇者と関係者一同

千木良真弓(SHOPCAFE Qu店長) :本日はお忙しい中、ありがとうございました。私が福祉に関わるようになったのは20年くらい前、当時の職場がたまたま福祉事業を始めたのがきっかけでした。その時に感じたのが、「なぜ私たちは、障害がある人たちとこんなに出会ってこなかったのだろう」ということです。その思いは、Quで解消されていくんじゃないかと感じています。感謝しかありません。皆さんの力を借りながら、もっと素敵な場所にしていきたいと思います。


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