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「プロレスへの遺言状」ユセフ・トルコ著を読んでみた。

「プロレスへの遺言状」を読んで、昭和のプロレスファンとして深い感慨を覚えました。

まず、力道山時代から日本プロレス、そして新日本プロレス黎明期までの貴重な証言の数々に、胸が熱くなりました。特に、力道山vs木村政彦戦の裏側や、アントニオ猪木の日本プロレス追放劇など、当時のファンとしても知らなかった真相が明かされ、目から鱗が落ちる思いでした。

ユセフ・トルコ氏の視点から見た力道山、豊登、ジャイアント馬場、アントニオ猪木らのキャラクターや人間性の描写も、非常に興味深いものでした。特に力道山については、その先見性や行動力、そして人間的な弱さまでもが生々しく描かれており、神格化されがちな力道山像とは一味違う姿を垣間見ることができました。

また、日本プロレスの内部抗争や経営の混乱、そして崩壊に至る過程も、当時のファンには想像もつかなかった事実の連続でした。豊登のギャンブル問題や、芳の里の放漫経営など、プロレス界の闇の部分も赤裸々に語られており、衝撃を受けると同時に、昭和のプロレス界の複雑な人間模様を改めて実感させられました。

グレート東郷暴行事件の真相や、アブドーラ・ザ・ブッチャーの引き抜き劇の裏側など、プロレス界の裏話も非常に興味深く読みました。これらの出来事が、日本のプロレス界の勢力図にどのような影響を与えたのか、改めて考えさせられました。

一方で、ユセフ・トルコ氏の語り口からは、プロレスに対する深い愛情と情熱が伝わってきます。彼がプロレスを「評論」できないと語る部分には、プロレスへの純粋な思いが込められており、古くからのファンとして共感を覚えました。

特に印象的だったのは、アントニオ猪木との対談部分です。猪木が語る「プロレスとは何か」という哲学的な問いかけや、現代のプロレス界に対する厳しい指摘には、昭和のプロレスが持っていた本質的な部分が凝縮されているように感じました。

「ファンが望むことを実現するのが我々の仕事」という猪木の言葉には、昭和のプロレスが持っていた、観客との一体感や熱狂を生み出す力を感じさせられました。同時に、現代のプロレス界がその本質から乖離しつつあるという指摘には、古参ファンとして深く頷かざるを得ません。

本書を通じて、昭和のプロレスが持っていた魅力や熱気、そして闇の部分までもが鮮やかに蘇ってきました。力道山からアントニオ猪木へと続く、日本プロレスの黄金期を支えた人々の苦闘と情熱が、生々しく伝わってきます。

同時に、プロレスという世界の奥深さや複雑さも改めて実感させられました。リング上では敵対していた選手同士の裏での交流や、団体の垣根を越えた人間関係など、プロレスの表と裏の世界が織りなす人間ドラマの面白さを、再認識させられました。

ユセフ・トルコ氏が語る「プロレスとは何か」という問いかけは、現代のプロレス界にも通じる重要なテーマだと感じました。単なるショーや娯楽としてではなく、人間の闘争本能や夢、そして観客との一体感を生み出す力としてのプロレスの本質を、改めて考えさせられます。

本書を読んで、昭和のプロレスファンとしての誇りと懐かしさを感じると同時に、現代のプロレス界への警鐘としても受け止めました。プロレスの本質を失わずに、新しい時代に適応していく難しさと重要性を、改めて認識させられたように思います。

また、本書で語られる数々のエピソードは、単にプロレス界の裏話として面白いだけでなく、昭和という時代そのものを映し出す鏡のようにも感じられました。高度経済成長期の熱気や、テレビの普及によるマスメディアの影響力の拡大、そして日本人の海外進出など、プロレスを通じて昭和の日本社会の変遷も垣間見ることができます。

特に印象的だったのは、力道山やアントニオ猪木らが、単なるスポーツ選手以上の存在として、国民的英雄や時代の象徴として描かれている点です。彼らが体現した「頑張れば夢は叶う」というメッセージは、高度経済成長期の日本人の心を掴み、社会に大きな影響を与えたのだと改めて実感させられました。

一方で、本書はプロレスの栄光の瞬間だけでなく、その衰退や変質の過程も赤裸々に描いています。テレビ放送権の問題や、新興格闘技との競合など、プロレス界が直面した課題は、メディアや娯楽の多様化が進む現代社会にも通じる問題だと感じました。

ユセフ・トルコ氏や猪木氏が語る、現代のプロレス界への危機感は、単にプロレスだけの問題ではなく、日本のエンターテイメント全体が抱える課題を浮き彫りにしているようにも思えます。「夢」や「感動」を提供するエンターテイメントの在り方を、改めて考えさせられる内容でした。

本書を通じて、昭和のプロレスが単なるスポーツやショーを超えた、社会現象としての側面を持っていたことを再認識させられました。そして、そのような力を持っていたプロレスが、現代ではその影響力を失いつつあるという現実に、一抹の寂しさを感じずにはいられません。

しかし同時に、本書はプロレスの持つ可能性や魅力を改めて教えてくれるものでもありました。人間の根源的な闘争本能や夢を体現し、観客と一体となって感動を生み出すプロレスの力は、形を変えながらも今なお存在しているのではないでしょうか。

昭和のプロレスファンとして、本書は懐かしさと共に、プロレスの未来への希望も感じさせてくれるものでした。プロレスの本質を失わずに、新しい時代に適応していく道筋が、本書を通じて垣間見えたように思います。

最後に、本書はプロレスファンだけでなく、昭和の日本社会や大衆文化に興味がある人にとっても、非常に興味深い内容だと感じました。プロレスという切り口から、昭和という時代の空気感や人々の価値観、そして日本社会の変遷を感じ取ることができる、貴重な証言集としての価値も高いと思います。

「プロレスへの遺言」は、昭和のプロレスの栄光と苦難の歴史を生々しく伝えると同時に、現代のエンターテイメントや日本社会全体に対する問いかけも含んだ、奥深い一冊だと感じました。昭和のプロレスファンとして、心から推薦したい本です。

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