永遠のあこがれ
高校の時に、一つ上の先輩に憧れていました。
私は放送部に所属していて、その方は部活の先輩でした。
先輩は私と同じく、朗読をやっていました。
聞く人みんながきゅんとするような、やわらかい朗読をし、
ドラマでの演技も、ドキュメントのナレーションも、何をやっても映える、みんなから愛されているような人でした。
その先輩は、私と中学校も同じでした。
その先輩は生徒会の一員だったこともあり、私はその頃から一方的に彼女を知っていました。当時からすてきな人なんだろうと思っていました。
私は地味で、勉強ができることしか取り柄がなかったので、先輩の方は私のことなど知らなかったとは思いますが。
高校では、私はその先輩の朗読の音声が入ったCDを何度も聞いて、真似したりして、練習もしました。
その先輩は、彼女が高校二年生の時の冬に、
転校することになりました。
彼女は前々から体調を崩していて、だんだん学校を休みがちになり、秋ごろにはほとんど来なくなっていました。
彼女が登校する最後の日、私は最後まで先輩といたくて、放送室に残り続け、同級生1人とその先輩と三人で放送室を後にしました。
先輩が転校した後、私は先輩のポジションの大部分を引き継ぐことになりました。その役割で自分の不甲斐なさを感じるたびに、もし先輩だったら…と先輩との差を考えたりしました
******
私が高校二年生の夏、先輩が三年生の時、
私は自分が脚本を書いたドラマが放送の全国大会に進出しました。
一方で先輩は、特別に転校先の高校の所属として、同じ放送コンクールの朗読部門に出場し、県大会で最優秀賞をとって全国大会に進出しました。
全国大会で東京に行ったとき、私は先輩と宿泊先で同部屋になりました。
入りたい大学のことなど、今まで案外したことのなかった話もしました。私が朝食を食べるのがみんなより遅くて、焦っていると、
「ゆっくりご飯を食べるから○○ちゃんは、きれいなんだね」
と、先輩が褒めながら私をフォローしてくれました。
その時の同部屋での先輩の一言が、曖昧な記憶でありながら、ずっと忘れられません。
たしか私が鏡の前で髪をとかしていたとき、ベッドに座っていた先輩が、何かの話の流れで言いました。
「○○ちゃんは、女優になれるんじゃない?」
……そう言われたとき、自分がどのように感じ、どのように反応したのか、思い出せません。
そんなことないですよ、とでも言って受け流した気がします。
先輩が言った言葉も曖昧です。「女優になったらいいんじゃない?」だったかもしれないし、
「なれそうじゃない?」かもしれないし、
「女優が似合うよ!」とかだったかもしれません。
そんな曖昧な記憶であるのに、なぜだか、
「あの先輩にそんなことを言われた」
と、ずっと憶えているのです。
そのことが今、私がやりたい事を後押しするきっかけになっています。
私が女優になりたい、と薄々思い始めたのはいつだったのでしょう?
たぶん、先輩にそう言われる少し前だった気がします。
その頃は、いやいや無理だろう、という気持ちが強すぎて、女優になりたいと、はっきり心の中で思うことさえ、できませんでした。
先輩にそう言われた時も、自分の中の「無理!無謀だ!」という気持ちが前に出て、特に何とも思わずにさらりと受け流したのかもしれません。
でも、後になって女優になりたい気持ちがはっきりしてきた時に、先輩の言葉が背を押してくれました。
その先輩以外に、女優になれるね、なんて言われたことはありません。地味で目立たないし、愛されているわけでもない私にとって、女優なんて程遠い。
でも、先輩は言ってくれました。
1番私にとって励みになる、あこがれの先輩が言ってくれました。「女優になれる」と。
それだけでいいのです。
*****
あれ以来先輩には会っていません。
私自身、大学受験に失敗したことや、女優の夢を追うために過去のしがらみから離れたいことなどから、知人たちと疎遠になっているので、
今会っても気まずくなる気がします。
でも、いつか、時間が経った時にまた先輩に会いたい。会って言いたいのです。
先輩に言われたことが、ずっと私を支えてくれたんだと。
まだ伝えられないので、誰に伝えるでもなく、文章につづって世に出すことにします。先輩はたぶんこの文章を読まないでしょう。でも、誰かにこの気持ちを知ってほしい気がして、ちゃんと表現できるうちに、noteに投稿してみることにします。
この文章をどんな人が読んで、どのように感じるのでしょう。こんな長文、すみません。
この文章を読んで、なんかいいな、と思えた方がいるなら、「スキ」という形で教えてほしいです。
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