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『夢幻鉄道』が気づかせてくれたこと


『夢幻鉄道』とは
お笑い芸人で絵本作家のキングコング西野亮廣さんが手掛けるコンテンツ。
主人公は誰かが見ている夢の中へと『夢幻鉄道』で導かれ、知る事のなかった真実に触れると言うフォーマット。
誰もが、このフォーマットを使い、自分の作品を生み出す事が出来る…

*この物語は、私の思い出をベースに『自分にとって大切なこと』を書き記した作品です。
*写真はイメージです。PAKUTASO さんより

〜プロローグ〜

名古屋駅から少し離れた住宅街、街に溶け込む様に佇むCafeがある。店内には心地よいBGMが流れていたが、春の温かさに誘われてテラス席へと向かった。
テラスには色とりどりの花が咲き、足元のプランターには“ニゲラ”と書かれた花が植えられ、そこには花言葉が添えられていた。

ニゲラの花言葉:[夢で逢えたら]

夢で逢えたら…
私は、あの特別な夜を思い出した…

〜転勤〜

入社して5年、熱い想いを持って入社した訳でも無く、流されるままに業務をこなしてきた。
私の転勤が決まったタイミングで、兄貴夫婦も両親との同居を決意。私は実家を追い出される様に横須賀から名古屋へやって来た。
「はぁ…」
山積みの段ボールを目の前に、自然とため息が漏れた…

〜アルバム〜

陽も傾き始めた頃、母の字で“アルバム"と書かれた段ボールが目に止まった。
このままクローゼットの奥へと突っ込んだら、次に見るのはいつなんだろう…そんな思いからガムテープを剥がし、アルバムを一冊取り出した。
偶然手にしたのは、自分で描いたドラえもんが表紙の卒園記念アルバム。ページをめくる度に“ベリベリ”とビニール同士の剥がれる音がした。

〜写真〜

遠足やお遊戯会の懐かしい写真には、同い年で幼なじみの“なっちゃん”が笑顔で写っていた。
近所に住んでいたなっちゃんとは、同じ幼稚園に通い、園バスの乗り場だった児童公園で、毎日一緒に遊んでいた。
小学校では4年生まで同じクラスで過ごし、放課後も一緒に遊ぶほど、ずっと仲良しだった。
ところが5年生になる時、家庭の事情で横須賀へ引っ越す事になり、なっちゃんと遊ぶ事がなくなった。

〜後悔〜

中学3年の秋、一本の電話が家にかかって来た。
それは久しぶりに聞くなっちゃんの声だった。
「ふくちゃん…久しぶり。元気?」
引っ越しをしてから5年。思春期真っ只中の私は、突然の出来事に懐かしさよりも、気恥ずかしさと緊張が勝っていた。
「来月に私の中学で文化祭があるんだけど、遊びに来てくれない?」
私立の女子中学校に進学していた彼女に対し、更に緊張が膨らみ頭は真っ白になった。
「うん…考えておく」
「…待ってるね」

どうして、あの時「わかった。必ず行くね!」
そう言って会いに行かなかったんだろう…

〜電車〜

名古屋での最初の夜は、慣れない環境で直ぐに寝付けなかった。それでも小窓から差し込む月明かりを眺めていたら、いつの間にか眠りについていた。

ガタン!
外から聞こえた異音に慌てて目を覚ますと、カーテンの隙間からは眩しい光が差し込んでいた。ベッドから起き上がりカーテンを開けると、目の前には怪しく光を放つ電車が止まっていた。
「えっ?近くに線路なんて無いのに…」
恐怖よりも興味がまさり、私は玄関を飛び出して電車の前まで回り込んだ。
次の瞬間、電車の扉が開くと、私は疑う事もなく車内へと足を進めた。
電車は私を乗せると、扉を閉めてゆっくりと走り出した。
窓からは、赤い満月が浮かんでいるのが見えた…

〜笑顔〜

電車は暫く走ると、小さな公園の前で停車した。公園には見覚えのあるジャングルジムがあり、そこがなっちゃんと遊んでいた公園だと直ぐに気が付いた。
ベンチにはピンクのランドセルを背負った少女が一人腰掛けているのが見えて、私はゆっくりと近づいた。
見覚えのあるランドセル。あの当時、ピンクのランドセルを背負っていたのは彼女だけだった。
なっちゃんは笑顔で手を振って私を迎えてくれた。写真の中の笑顔と変わらないなっちゃんに私は動揺が収まらなかった…

〜真実〜

なっちゃんの横に腰掛けると、彼女は宙に浮いた両足をぶらぶらと揺らして話し始めた。
この世界はなっちゃんの夢の中で、27歳の彼女は東京にある大学病院に入院していると教えてくれた。
そして、癌により残された命があと僅かである事も…
「えっ?」
言葉が出なかった。17年離れていたとは言え、初恋の人に近づく死は、受け入れ難い衝撃となり胸を打ち付けていた。

〜願い〜

「あの日…文化祭に行けなくてゴメン。。」
心のシコリを吐き出すように声が漏れた。
「えっ!あの事、覚えてたんだ。なんか嬉しい」
「本当にゴメン…引っ越した先の学校は男子と女子の仲が悪くて、あの頃のように女の子達と話す事が無くなって、えっと…何故か臆病になってたんだ」
言い訳とも聞こえる内容にも、なっちゃんは笑顔で頷いてくれた。
「もう…いいよ。あの日の事は許してあげる。だから一つだけ…お願いがあるんだけど」
「えっ?な、何?」
「私が入院している病院に来てほしい。そして今度は会って話がしたいな」
言葉に詰まった。死を目前にした彼女に会って、俺は何か話が出来るのか?何をしてあげればいいのか?
しかし次の瞬間、私の脳裏にあの言葉がよぎり口をついた。
「わかった。必ず行くね!」

〜再会〜

目が覚めると急いでなっちゃんが入院している病院を調べた。
素早く身支度を済ませると、昨日のアルバムをリュックにしまってアパートを飛び出した。

昼前には、彼女の病室の前に私は立っていた。高まる鼓動と、背中に流れる汗…大きく深呼吸をして扉をノックした。
「はい」
中から女性の声が聞こえた。扉を開けた隙間からは、ベッドから起き上がる人影が見えた。
「今回は“本当に"来てくれてありがとう」
皮肉っぽく笑った彼女の笑顔には、あの当時の面影がはっきり残っていた。

〜涙〜

彼女は入院するまで、フラワーコーディネーターとして東京で忙しく働いていて、倒れた時もイベント会場の装飾を行っていたと話した。
私の心配が嘘かのように、私達の会話は止まらなかった。夕方、私が持ってきたアルバムを広げると、お互い曖昧だった記憶が蘇り、思い出話で会話は更に盛り上がった。
無邪気に笑う彼女を見ていると、余命が僅かだとは到底信じられなかった…
「わぁ!懐かし〜!この時の遠足覚えてる?」
彼女が開いたページには、遠足の写真が貼られていた。
「あ!大船のフラワーパークでしょ!」
「ほら!この写真は…」
写真を指さすと、彼女は突然言葉を詰まらせ涙を流した。
「えっ?どうしたの?」
「ゴ、ゴメン…なんでも無い」
その写真には、笑顔の彼女が差し出す青い花を、恥ずかしそうに受け取る幼い私が写っていた。

〜ムスカリ〜

日が暮れると、彼女に連絡先を記したメモを渡して、私は病室の扉に向かった。
「ふくちゃん!ありがとう」
背中からは、なっちゃんの震える声が聞こえた。
涙目になっていた私は、シャツの袖で涙を拭うと振り向いて笑顔で手を振った。
「また来るから!必ず来るから!」
「うん!」

***

名古屋駅に着く頃には多くの店がシャッターを降ろしていた。
商店街の一角で閉店準備をしている花屋に気が付き、私は急いでアルバムを取り出し店員さんに声をかけた。
「すみません…」
「はい?」
「この花…なんていう花かご存知ですか?」
私は写真に写る“青い花"を指さした。
「この花…たぶんムスカリだと思いますけど」
「ムスカリ?…あ、ありがとうございました」

〜花言葉〜

アパートに戻ると、私は再びアルバムを広げた。彼女が流した涙の理由を知りたかった。
写真には、笑顔の彼女が差し出したムスカリの花。そして恥ずかしそうに受け取る俺…
「ん?」
私は、気になってムスカリについて調べてみた。フラワーコーディネーターの彼女なら知っているであろうムスカリの花言葉…

ムスカリの花言葉:[明るい未来]

検索画面に出てきたムスカリの花言葉を見て、私は嗚咽を漏らした。

〜エピローグ〜

Cafeを出ると風は確実に夏の訪れを告げていた。ポケットからイヤホンを取り出し『夢幻鉄道』を流した。

なっちゃんの分も後悔しない人生を歩むと心に誓い、私は歩き出した。
彼女から託された明るい未来を信じて…

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