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映画感想『ジョーズ』


ネタバレ気にせず

一匹のサメに敬意を

怖そうだったから観てこなかったジョーズを、ついに勇気を出して観てみました。

結果、怖いというよりは、感動に近い感心を抱きました。

観る前は、人喰いザメに襲われるパニックホラー映画だと思っていましたし、前半部はわりとそれに近い感覚でしたが、なんだか後半にかけては、サメを倒すという目的以外の、別の意味が生まれてきているようで、単純な映画の見方ができなかったのです。もちろん良い意味です。

まず、サメ一匹を尊重して大切に扱っていたのが印象的でした。全身を現すのは本当に映画の終盤までで、前半部は巧みに全体像を隠して恐怖を煽ります。サメを出すお金がなかっただけかもしれませんが、一匹の恐怖を大切に残し続けることで、サメの王者感というか、神秘性が生じました。

B級サメ映画のせいか、サメを序盤から惜しむことなく出したり、何匹も出したりするのがサメ映画だと思っていましたが、それはサメ映画の金字塔、今作『ジョーズ』に対するアンチ的な意味合いでそうなってしまったのかと思うほど、サメを大切にしていました。

だからこそ、サメが恐怖を超えた神秘的な佇まいを持つのでしょう。自然の代表として、自然そのものとして。

そして結果的に、自然に相対する人間たちを描くとなると、パニックものではなく、『老人と海』のような、自然と人間の命をかけた対話のニュアンスを帯びるのです。

そうです、自然との対話です。

主人公たちがサメを殺すハンターを雇った時から、何か雰囲気がおかしいぞと思い始めたのです。
とにかく危険なサメを早急に退治しなければならないのに、やけに冒険に乗り出すような明るい音楽が流れるのです。海に出てからもそうですし、なんならサメがいよいよ出てきても、これから海原に出て宝でも探すぞと意気込むような音楽が流れます。

もちろんサメは怖いし、主人公たちが乗っている船もズタズタにされますが、あまり悲壮感は漂いません。サメがそうきたら、こっちはこうやり返してやるという気概というのでしょうが、そっちの方が強く感じました。

第一、海に出てから主人公は陸に残した家族のことなんて一切考えなくなりますし、サメを倒して陸に上がった後のエピソードもありません。家族に会ったり、市長に感謝されたり、ハンターの死を弔ったりというエピソードが一切ないのです。びっくりしたと同時に、どこか納得もありました。

最早、町のことなどどうでもいいのです。

サメと闘った。そこに意味があるのです。

先の言ったように、自然との対話だったり、人間の自然に対する微小な抵抗を感じたり、はたまた人間が自然を汚す悪しき者に見えたり。人間は自然のもとに帰る存在なのだという思想だったり、自然につけられた傷跡こそが人生の意味であるという人間の狂気の本質を垣間見たり、感じたこと思ったことは様々でした。

だから、他のサメ映画とは違うんだ、とわかりました。

娯楽以上の身震いを感じた次第です。恐怖を克服して観てみてよかったです。
紛れもない名作でした。

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