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05_すべての子どもに農体験を、の一歩先へ

外は台風14号。今日の鳴門の海は波がものすごく高かった。数分でみるみる迫ってきて怖さを感じるほど。人間ができることなんてちっぽけなこと。今できることを精一杯やろうって、海をみながら思った。

あと一歩…!
だけど、その一歩の正体がわからない。足りないピースを探し続けて早一年。メンバーと話しながら、ようやく次に向かう方向が見えてきた。その感じをここに残しておきたい。

「食農教育」の先にあるもの

農業を体験することで食の背景を想像できるようになること、つまり実体験を通して農と食のつながりを体感することが「食農教育」の目的の一つだ。
NPOで合言葉に掲げている〝すべての子どもに農体験〟はすでに神山町の2校の小学校では実現している。

すべての子どもへの農体験を隣町まで広げたいのか?と問われると、それは違うなーと思う。

「食農教育」の先にある目的を、別の形で実装していく必要がある…とずっとずっと考えてはいた。けれど具体的な形はなかなか見えてこなかった。

最近、ようやくそのがどんなものだとよいかが見えてきた。あるといいもの。食を通して、子どもたちの周辺環境が、地域が、より良くなっていくもの。
モヤモヤがスーッと晴れていくと同時に、これなら力の注ぎがいがあるなと思えた。ようやく形あるものの一つが目の前に見えたのだった。

「公共食」のシステムを通して、農と食をつないでいく

2022年4月から、神山町の学校給食現場に、フードハブ・プロジェクト(われらNPOの前身)とその関連会社のモノサスが入るようになった。学校給食は、学校に通う子どもたちが栄養バランスの整った食事を毎日食べられるすばらしいシステム。その衛生管理や栄養管理は厳しく、運用システムを知るにつれ現場の方々への尊敬の念が生まれる。調理現場に一度入らせてもらってから、給食は「家庭の食事」とはまったくの別物なのだと思うようになった。

長年の小学校教諭の経験、最近6年間の神山町での農体験の実践、そして学校給食センターの現場を体験して(たった1日だけど)思うのは、「食」が生きた学びになるには、それぞれの場をつなぐ「何か」をつくっていく必要があるということ。加えて、携わる人々が目線を合わせて歩んでいける明確な目的、学習機会、それらを支える財源や人的サポートも不可欠。NPOがどこまでできるかは今後の議論によるけれど、「何か」(改めて詳しく書きたい)に目星がついた今、気分はもうGOしかない。

「食農教育」で取り扱う範囲を広げていきたい

これまで取り組んできた「食農教育」も、さらに良くしていけそう。ここ半年のあいだに見聞きした建築とランドスケープ、景観づくり、流域治水の話がわたしには「食農教育」の先にあるビジョンのピースに思えてくる。トータルランドスケープと捉えてもいいのかもしれない。神山町域を背骨のように流れるのが鮎喰川(あくいがわ)。その流域を範囲として、農業と景観の関係、流域治水の考え方が見事につながってくるのだ。農体験を部分的に取り扱うのではなく、流域で繰り広げられているそれらと「食べる」ことの関係性が見える「食農教育」の図を描けると、もっともっと楽しくなる(わくわく)。ここ半年間、大きな気づきをもらっている3つの場は以下。

  1. 「流域のデザイン」合宿(3月に神山町で開催された勉強会)▶︎ note

  2. まちの風景づくりのための勉強会(神山町・神山つなぐ公社 主催)

  3. 小さな自然再生現地研修会(公益財団法人リバーフロント研究所 主催)▶︎ 当日の様子

神山町で開催された「小さな自然再生研修会」での一コマ

「農体験を通して風景の見え方が変わった」と話した生徒のように、神山町は身近な風景やそれを育む自然環境も含めて「農」の営みが見えやすく、結果としてわたしたちの「食」に感覚的につながりやすい場だと思う。場もあるし人もいる。楽しくって、ついつい鼻息が荒くなっちゃう今日この頃。

先日あゆハウスで暮らす生徒たちに投げかけたら、彼らが定期的にkidsガーデン(小学校前にある畑と果樹園)に来るというkidsガーデン 部が立ち上がった。課外の活動として神山校の生徒たちから広がっていく景色もますます楽しみ。

あゆハウス(遠方からの学生が暮らす寮)にて

学校への関わりを通して叶えたい状況

「食農教育」は学校の先生方と一緒に進めることに重きを置いてきた。例えば先生方が「やってみたいけれど一人ではちょっと…」という部分に地域側から少しでもサポートできると良いなというふうに。サポートなんておこがましい。エゴかもしれないけれど。

未来を生きる子どもたちにとってよい環境とはどんなものか。
その環境に、わたしたち大人はどう向き合うのか。

まずは毎日食べるごはんを通して、地域のひとたちと一緒に心を寄せていけるとよいなと思う。合言葉は、Community Supported School Lunchだ。

個人的な話になるが、小学校時代に「自分の考えを持つ」練習を重ねることで得られた自信や、「仲間と一緒につくっていく」苦しいながらも楽しかった記憶が、わたしの心にしっかりと刻まれている。当時、クラスは荒れていたが、先生はギター片手に歌を歌い、歴史の話を身振り手振りでおもしろおかしく話し、いつもわたしたちを信じ、挑戦の機会をつくってくれた。「やればできる」という根拠のない自信が芽生えたのは、そのおかげ。

だから、学校と連携して子どもたちや先生方が「やってみたいことができる状況」を今後もつくっていくし、食の文脈では学校の食をより良くする「何か」をつくっていきたいと思っている。

つづく。


これまでの「食農教育」について、webマガジン「アネモメトリ」にて取り上げていただきました。取材・ライティングは杉本恭子さん。ご覧ください。