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パソコンに向かうときに肩にかかる負担を減らすには?


抄読文献

Gholami M, Choobineh A, et al.
Investigating Glenohumeral Joint Contact Forces and Kinematics in Different Keyboard and Monitor Setups using Opensim.
J Biomed Phys Eng. 2023 Jun 1;13(3):281-290.
PMID: 37312894; PubMed. DOI: 10.31661/jbpe.v0i0.2210-1450.
Opensim を使用したさまざまなキーボードおよびモニター設定における肩甲上腕関節の接触力と運動学の調査
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要旨

【背景】

コンピューターを長時間使用する人々の間で、肩の筋骨格系の苦情が一般的です。 本研究は、異なるキーボードとモニターの設定を使用して、OpenSimを用いた肩甲上腕関節の接触力と運動学を調査することを目的としています。

【方法】

健康な男性12名が無作為に選ばれ、実験研究に参加しました。3×3の因子計画が使用され、標準的なタスクを実行する際にモニターの角度について3つ、キーボードの水平距離について3つが考慮されました。ワークステーションは、混乱変数を制御するために快適な人間工学的姿勢を維持するANSI/HFES-100-2007標準に基づいて調整されました。QualisysモーションキャプチャシステムとOpenSimが使用されました。

【結果】

両肩の屈曲と内転の最大平均可動域(ROM)は、キーボードが机の端から15cm、モニターの角度が30°の場合に観察されました。両肩の内旋の最大平均ROMは、キーボードが机の端にある場合に記録されました。ほとんどの右肩複合筋のピーク力は2つの設定で得られました。肩関節モーメントは9つの設定間で有意に異なりました(P値<0.05)。キーボードが15cm、モニターがゼロ角度の場合に、前後および内外側の関節接触力のピークが記録されました(それぞれ0.751および0.780 N/BW)。垂直方向の関節接触力のピークは、キーボードが15cm、モニターが15°の場合に観察されました(0.310 N/BW)。

【結論】

肩甲上腕関節の接触力は、キーボードが8cm、モニターがゼロ角度の場合に最小です。

要点

本研究はパソコンに向かう姿勢が多い現代の状況を鑑みて、肩に負担がかかる要素を可動域、筋活動、肩甲上腕関節への接触力の観点から姿勢によって比較し、検討している。

肩の筋骨格系障害はパソコンに向かうデスクワーカーにとって、頻繁に生じるものである。
デスク周りをいかに整えるかは長時間パソコンを向かうものにとって、死活問題であるだろう。
その中で、肩周囲に生じる負荷は多く存在し、姿勢、タイピング時の活動など多く影響する要素がある。

本研究では、キーボードとモニターの配置に着目し、OpenSimソフトを使用して、関節接触力を測定している。また、Qualisysモーションキャプチャを用いて、肩関節の動きを高速カメラを用いて測定している。


キーボードの位置を、机の手前から0cm、8cm、15cmとどれだけ距離を取るかによって、測定位置を調整された。(①)
また、モニターの角度を、直立(0°)、後方への傾き15°、30°と調整された。(②)
それらの3種類ずつの設定を組み合わせて9通りのパターンで測定された。(T1-9)


肩の屈曲伸展はキーボードが前方に遠くなる程屈曲角度が大きくなった。
内外旋はキーボードが手前にある方が内旋が強かった。
これは、遠ざかるほど肘の位置が中心に近づくため、連動して内旋位がゆるむものと思われる。


筋活動を見ると、T3やT7が活動が大きく、上肢を保持することやタイピング時に生じる収縮が増大していることがわかった。
一方、T4は最も筋活動が少なかった。


関節モーメントは屈曲としては、キーボードが離れるほどモーメントが高くなり、内外旋ではキーボードの距離が近いほどモーメントは高いものの、T4に関しては、キーボードの距離8cmであっても、最もモーメントが低かった。

接触力に関しては、T4で元も低かった。
キーボードが遠くなると、接触圧は上昇する傾向にあった。


結果から、総合的にみて、T4の姿勢、キーボードの距離が8cm、モニターは直角の状態が最も筋活動が軽減され、関節モーメントも低い状態にあった。
今回の測定での位置関係として、このポジションが最も負荷の少ない姿勢であると判断された。

キーボードの位置は、肩にかかる剪断力や保持するための筋収縮の状態を反映し、モニターの位置は、頭頸部の角度、脊柱の角度などの要素を反映していると考察している。

どのように活用するか

本研究の知見は治療に活かすというよりは、姿勢指導等、生活指導に活きてくるところとなる。
これに関しては、ぜひ一般の方にも参考にしてもらいたい知見である。

キーボードの位置はデスク環境等によって調整できるとは限らないが、結果から解釈すると、近すぎても遠すぎてもそれぞれメリットデメリットがあるということになる。

遠くの場合は、負荷が高い傾向にあるが、モニターの位置を高くし、頭頸部を屈曲させない状態であれば、比較的肩周囲にかかる負荷を軽減できる。
キーボード位置が遠いのをお好みの方は、それを意識してもいいだろう。

一方、近くの場合は、モニター角度は比較的傾斜している方がいいと思われる。
あまりにも肩が伸展位に近いポジションもモーメントが高くなり、接触圧が上がる可能性がある。
よって、キーボードをすぐ近くで操作したい方は、モニターは若干角度をつけて、少し頭頸部は屈曲する状態が良いのかもしれない。

これらの点を考慮し、一般の方は姿勢を気をつけていただければと思うし、治療者としては、すでに肩に問題がある方に対しては、生活指導をする際に、総合的に判断してアドバイスする必要があるであろう。

ぜひ、活用していきたい知見となっている。

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