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料理を失敗しない世界

自炊ビギナーの悩み

ここ2年で料理の宅配が増えましたが、自炊する機会も増えたと言われています。
ですが自炊に戸惑っている人は少なくありません。

仮の話ですが、帰宅途中にスーパーで子羊の肉を買ったとします。
ヒツジの料理はこのところ人気です。
すぐ近所にヒツジ料理の店ができ、コロナ前は、何度か行きました。
ですが、自分でラム肉を買うのは今日が初めて。
当然、ラム肉を調理したことはありません。
ありませんけれども、ネットで調べれば何とかなるだろうと軽く考えて買ってみました。

しかし検索してみて、困りました。
そもそもレシピサイトの種類が多い。
さらに、1つのレシピサイトでも、いくつものレシピが掲載されています。
どれを選んだらよいのか…。
単にラム肉を「焼く」にしても、どのくらいの火加減でどのくらいの時間をかけるのか、レシピによってまちまち。

結局、レシピを選べなかったため、自分の直感で適当に焼くしかありませんでした。
その結果、食べてみても「まあまあ食えるけど、もっと何とかできたのでは?」という感情が残りました。

…昔はともかく、現代では多くの人が似たような経験をしているのではないでしょうか。

「ショッピング(食材を買う)」
「レシピ」
「クッキング(料理)」
この3つが分断されていることが、こうした「悩み」を生み出しています。

  • 何を買うのか

  • どんなレシピにするのか

  • レシピに沿ってどう調理するのか

  • もっとも難しいところの「火加減」

などは、消費者が自分で手探りするしかありません。

昔は料理の知識が親から子へ、祖父母から孫へと家庭内で伝承されていたのですが、核家族化が一般化した現代ではそれがありません。
だから、消費者は自分で手探りすることになります。

クルマの運転にたとえると、昔はクラッチ操作のあるMT車だけだったので、運転する人はクラッチ操作をしていました。
いまはクラッチ操作のないAT車が主流で、運転する人もクラッチ操作ができないことが多い。
そんな現代人が、いきなりクラッチ操作をしろと言われているようなものです。

料理の得意な人は、自分でなんとかするでしょう。
しかし料理になれていない人が、しかも今回のラム肉のように慣れない食材にチャレンジする場合などは、もっとはるかに親切なサポートがほしいところです。

だって料理は失敗したくないから。
素人の自宅料理といえども、料理に失敗したときの精神的なショックがいかに大きいか、食育イノベーター(※)のみなさんならきっとよくお分かりのはず。

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自炊ビギナーの悩みをアンドリューが解決?!

しかし今後、

  • 調理家電や調理ロボット

  • レシピを提案するAI

など、「フードテック」と呼ばれるものが発展してくると、話は変わってきます。

まず、冷蔵庫が変わります。

  • 自宅の冷蔵庫に何があるのか

  • それぞれの賞味期限

などを、スマホアプリを使って外出先で見ることができるようになります。
冷蔵庫のストックどんな料理ができるか、これもスマホアプリが提案してくれます。

次に、もしあなたがスーパーでラム肉をみつけて購入したならば、その情報がスマホアプリにも伝わり、冷蔵庫のストックとラム肉の組合せで新しいレシピをAIがいくつか提案してくれるようになります。

提案されるレシピは、

  • 美味しさ

  • 栄養価や健康効果

  • 地産地消の度合い

などがレーダーチャートの形で示されていたりします。

あなたはその中から好みのレシピを選択します。

帰宅すると、最近購入した調理ロボットの「アンドリュー」(仮称)があなたを待っています。
アンドリューはスマホアプリと情報を「同期」しているので、買ってきたラム肉を手渡せば、あとはアンドリューが上手に焼いてくれます。
焼き加減や味つけは、あなたが過去に食べたもののデータをもとに、アンドリューが適切に行ってくれます。
最近、血圧が気になるので減塩したいなら、それをアンドリューに伝えれば、塩の代わりにスパイスを使った味付けをしてくれます。

こうして
「料理を失敗しない世界」
が誕生します。

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調理ロボ

アンドリューはあなたの心理を読む

ただしアンドリュー(仮称)は何もかもすべてやってくれるわけではありません。
たとえばサラダはあなたが作ることになるかもしれません。
あるいは、盛り付けはあなたがすることになるかもしれません。
あるいは、ラム肉をどのように焼くかをアンドリューはあなたに教えるだけで、焼く作業はあなた自身が担当することになるかもしれません。

実際には、指示すればアンドリューがすべてやってくれますが、

  • すべて何もかも自動化された料理に人は価値を感じにくい(罪悪感を持つ人もいる)

  • 料理という「経験」に人は価値を感じる

という心理も計算したうえで、アンドリューはわざと「あなたの領域」を残しておいてくれます。

すなわち、楽しいと思う作業は人が担い、面倒と思う作業はロボットが担います。

そうなると、ほとんどの場合、あとかたづけや皿洗いはアンドリューの役目になるでしょう。
つまり機械が何でもやってくれるのではなく、人と機械がちょうどよく分業する世界です。

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フードテック

アンドリューと食育

なぜこんな話をしたかというと、調理ロボットが家庭に置かれる時代がじつは、もうかなり近づいているからです。

技術的にはだいたいできているようなので、あとはコストとサイズの問題。
大量生産できるようになってコストが下がれば、電子レンジを買うような感覚で買えるようになります。
日本の電器メーカーが調理ロボットを本気で作るようになれば、日本のキッチンにあわせて小型化も進むでしょう。

では、そうなったとき、わたしたちの食育はどうなるでしょうか?

従来の食育では、たとえば
「家族のために料理を手作りすることが素晴らしい」
と語られることが多いですが、そんな価値観のせいで多くの母親が苦労しています。
母親がちょっとでも「手抜き」のようなことをすると、それを批判する「ポテサラおじさん」みたいな人が現れたりします。

とはいえ、いっぽうで子ども時代に母親の手作り料理を毎日食べ、「母の味」という記憶があることを幸せに思う大人も少なくありません。

そう考えると
「家族のために料理を手作りすることが素晴らしい」
という価値観が正しいのか誤りなのか、断言するのは難しくなりました。

けれども、料理のデジタル化が進んだあとでもこうした価値観が維持されるかどうかは分かりません。
「従来の食育」と「フードテック」は、相性がよくないため、価値観のせめぎあいが起きてくることは間違いないでしょう。


(※)食育イノベーター:「食育イノベーター検定」合格者のこと


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