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スタートアップでDEIプロジェクトを牽引して気付いたよくある3つの誤解と3つのKSF

前提: DEIとは?

知っている人が多いと思われるので簡潔に😊

*図: https://www.asahi.com/sdgs/article/15001638 より引用

DEIとは、Diversity(ダイバーシティ)、Equity(エクイティ)、Inclusion(インクルージョン)の頭文字をとった言葉です。

Diversity(ダイバーシティ)とは「多様性」を意味し、個人や集団に存在するさまざまな違いのことです。年齢や性別、セクシャリティ(性的指向)、人種、国籍、民族、宗教、障がいなどの違いにかかわらず、すべての人にとって心地よい居場所があることを意味しています。

Equity(エクイティ)とは、公平な扱い、不均衡の調整を行う「公正性」を意味します。私たちは一人ひとりが異なるため、全員が能力を発揮するには、一人ひとりに合った環境を整えることが重要という考え方です。

Inclusion(インクルージョン)とは、一人ひとりの多様性が認められ、誰もが組織に貢献できるという「包括性」を意味します。グローバル化が進み、異なる文化背景を持つ同僚と働く機会が増える中、企業には多様な人財が活躍できる場を提供することが迫られています。

出典: https://social-innovation.hitachi/ja-jp/article/what-is-dei/

普段はUbieにてUS向けプロダクトのPdMを担当している私ですが、様々な経緯があり(この話はまた今後)去年末頃からUbie JPでDEIのプロジェクトをリードしています。

DEIプロジェクトを担当するようになってから書籍でインプットしたり、定量・定性調査を実施したのですが、社内でだけなく、スタートアップの経営者や人事として働いている友人・知人など多くの社外の人とこのトピックで話をすることができました。(私の壁打ちやインタビューにご協力いただいた皆様ありがとうございました🙏)

UbieとしてDEIにどう向き合っていくのかは今後公式・非公式ともにいろんなところで発信していく予定ですが、このNoteでは(所属会社関係なく)私個人として気付いたことをまとめています。気づいたら6000字と大作になっていたので必要な箇所を抜粋して読んでもらって構いませんw



DEIプロジェクトをきっかけに"自分の生きている世界の狭さ"に気づいた

自分はどっちかというとアンチDEIだと思っていた🫣

私自身はかなりリベラルな両親の元で育ち、大学での専攻も文化人類学だったため、このトピックについて一定の教育を受けてきた方だと思います。一方で、「とくにアメリカを中心とするDEIの一部取り組みはやりすぎ(Extreme)ではないか」と感じることがあり、前職であるアメリカ系のコンサルティング会社でも多くのDEIに関するトレーニングを受けましたが、腹落ちしきらないポイントもありました。またシンガポールやアメリカにいる友人と会話しているときにも感覚のズレを感じることも度々あり、自分はむしろ昨今のDEI流れについては懐疑的な立場ではあるという自覚を持っていました。

それって10年前に終わった議論じゃないの?😳

そんな私がDEIのプロジェクトをリードすることになったのはひょんなことがきっかけでしたが、いざ社内外で調査や対話をはじめると「そこから議論しないといけないの?」と感じることが多く驚きました。

それまでの私の認識では「事業会社が(大小はあれど)DEIに力を入れること」は「ウォータフォール開発でなくスクラム開発を適用する」「システムをオンプレでなく、クラウドで構築する」くらい当たり前のことで、逆に「前者(ウォータフォールやオンプレ)を選ぶほうがその意義を証明しなくてはいけない」というのは共通認識だと思っていたのですが、DEIに関しては逆の議論で「DEIをやることにどんな意義があるのかの説明」を求められることに大変驚きました。

シンガポールに住んでいて日本の空気感に疎いとはいえ、ニュースやSNS等からは日本社会も変わりつつあると感じていたので、自分がいかに同質的な対人関係のバブルの中で生きているかを自覚でき、さらにWHYを自分の言葉で言語化するとてもいい機会になりました。

これは日本社会が遅れているとかそんな陳腐な議論がしたいわけではなく、自分が普段生きている世界にどれだけフィルターがかかっているか、どれだけ入ってくる情報が偏っているかを自覚できたということです。

とくに現職のUbieでは「率直なコミュニケーション」が推奨されていることもあり、ポリティカルコレクトなことを言う人がいなくてその点はとても助かりました🙏

みんなが前提の議論から始めるのは大変すぎる→このNote📝

またプロジェクトをきっかけに改めてDEIに関する書籍に触れたことで、金融業界などいわゆるエスタブリッシュな業界と比較してもTech業界はDEIという文脈においては大きく遅れていること、また友人知人と会話する中でも一部の会社を除いて議論さえ始まっていないことも多いことを知りました。

その中で自社でDEI関連の取り組みを推進をしたい、と思っている人たち全員が前提の議論(なぜDEIに取り組む必要があるのかの言語化)から始めるのは大変すぎるのではないかと思い、このNoteを書きました。私と同じように社内で取り組みを推進中の人や本当は課題だと思っているけど行動できていない人が、少しでもそれらの取り組みを進める助けになれれば幸いです


プロジェクトを進める中で気付いたDEIに関するよくある3つ誤解

よくある誤解1: DEIとは"大企業"が"お題目として"やるもの

🙆‍♀️正しくは: 事業の成長によってミッションを実現するため。大企業やスタートアップなどの会社の規模によらず盲点を減らすことは有効。

私が観測した範囲ではDEIの取り組みを「(社会的に・世の中の流れ的に)やったほうがいいからやること」くらいの認識の人が多いのかなという印象を受けました。これを説明・理解するのには『多様性の科学』で紹介されている"問題空間"と"盲点"という概念が一番分かりやすいでしょう。

*図: https://dollyblog.org/science-of-diversity/を参考に作成

シンプルなタスクのスピードを上げるには属性や見方が画一的なチームの方が効率がいいのは確かですが、ビジネスのように複雑な事柄では多様性のあるチームのほうがよい意思決定ができる(イノベーションが起きやすい)というのはあらゆる実験で証明されています

例えばリレーをするのであればウサイン・ボルトのように走るのが早い人を10人を集めたほうが勝率が高いですが、精緻な経済予測をするには著名な経済学者10名を集めるよりも、異分野の専門家10名を集めたほうが精度が高くなります。これは著名な経済学者10名だといかに個々人が優秀であっても、手法や学習してきたことなどの類似性が高く、盲点が多いからだと言われています。

とくに経営の意思決定においては多様性がないと盲点が増え、中期的には確実に死に向かいます。これを端的にシャープに説明してくれているのが、『多様性の科学』から引用した下記の文章です。

よくある誤解2: DEIとはマイノリティに"下駄を履かせる"取り組みである

🙆‍♀️正しくは: マジョリティが履いてきた下駄に自覚的になり、それらをなるべく取り除こうとするための取り組み。

*図: https://www.dodadsj.com/content/220225_unconscious-bias/より引用 *1 *2: 『多様性の科学』より

誰しも自分が履いてきた下駄を自覚するのは簡単ではありません。とくに一度もマイノリティになったことがない、かつある程度の成功体験がある人ほど「世の中はフェアにできていて、自分はそこで努力して評価された。だからみんなもそうすればいいのに、DEIなんて持ち出すのはただの怠慢では?」という解釈になってしまいやすく、自身がいた環境からの恩恵に気づくのは難しいです。

どんな会社でも「自社は能力に基づいて人を採用・登用している」と言うでしょうが(例えば能力以外のポイントを重視して採用している、という会社はないでしょう)、すべての人が無意識バイアスを持つ以上、そしてビジネスで求めれられる能力が単純に測定できるようなものでない以上、"能力だけ"をフェアに査定することは不可能です。

よくあるのは「"能力"に基づいて登用したらマネージャーがすべて40代の日本人男性になった」みたいな例ですが、これは採用や登用に限らず起きることで、「活躍しやすい環境が用意されている人」と「活躍しやすい人」は容易に混同されやすく逆に「活躍しづらい人」は「活躍のための環境が用意されていないだけ」ということもよくあります。

なので会社や組織を運営する側としては
Diveristyの推進: 集団の入口 (採用) で多様な人たちを確保する
②Equity & Inclusionの推進: 制度や風土、文化を整えることでこれまで属性や背景の違いから活躍しづらかった人が活躍できるようにする

の両方を手掛けることが重要で、どちらかだけでは片手落ちなのです。

総じて「下駄を履かせている」という意見は「能力がない人が属性にのみ基づいて採用・登用される」とニアリーイコールで使われることが多いですが、この「能力がない人」とは何をもって定義しているのか、今「能力があるとされている人」はその活躍の要因が本当にピュアに能力だけなのか、環境(履いてきた下駄)のおかげなのかを客観的に分析することがDEIの取り組みです。

よくある誤解3: DEIとは"女性活躍"もしくは"女性登用"のことである

🙆‍♀️正しくは: 女性に限らず、これまでその集団にいなかった属性の人たちに仲間になってもらい、活躍してもらうこと。

繰り返しますが、ビジネスで勝つために重要なのは盲点を少なくするための認知的多様性で、”女性”を増やすことではありません。

その上でどうしても議論が”女性”にフォーカスがあたりやすいのは、人間を特徴で分割すると最も大きな軸は生物学的性別>人種>性的嗜好>の順になるので、まずは数が多い=インパクトが大きい生物学的性別からとなることが多いからだと思われます。

ただし、これも自社の事業や組織に合わせて議論がなされるべきで、例えば複数国に事業展開しているのにメンバーが一定の人種もしくは国籍しかいない場合は、生物学的性別よりも人種や国籍の多様性が優先されるべきでしょう。もしくは高齢者向けのサービスを20代のメンバーだけで作っている場合は、生物学的性別よりも年齢ファクターのほうが重要になるでしょう。

また属性とものの見方に強く相関性があることは証明されていますが、属性だけが独り歩きすることがないように注意が必要です。例えば「女性採用」を掲げた結果、入社したメンバーが過度に「女性代表としての意見」を求められるなどもよくある落とし穴です。

あくまで大切なのは事業成長にあたっての盲点を減らすこと。そのためには多様なものの見方が集団に存在する必要がある > ものの見方と人口統計学的属性は強く紐づく > 多様な属性の人に所属してもらい、活躍してもらう必要があるという構造が重要で、「ただ女性メンバーを増やすこと」はDEIとは言えない点に注意しましょう。


DEIを進めるうえで重要な3つのKSF

ここからは今現在様々な組織でDEIに関連する取り組みを進めている・もしくはこれから進める予定の方に向けたTipsとして3つのKSF (Key Success Factor)を紹介します。

KSF1: 経営の言語で前提の議論を行い、認識を揃える

「なぜ自社や自組織がDEIに取り組む必要があるのか」という前提が揃っていないかぎり、絶対にプロジェクトは進みません。この議論にはリソースやエネルギーを多くとられると思いますが、経営陣やリーダー層が前述したような誤解を持っていたり、意思決定者の前提知識に乖離があると、議論自体がズレまくるし、推進者も疲弊します。

この議論を進めるうえで最も注意すべき点は「人権や道徳の議論にしないこと」です。これらは重要であることには間違いないのですが、事業成長に直結することを説明できないと資本主義ロジックで動く多くの組織の中ではリソースを集めてことを進めることは難しいでしょう。(そういう意味で前述の問題空間 & 盲点のコンセプトが有効なのでぜひ使ってほしいなと思っています)

DEIへの取り組みを事業成長という論点からはじめるからこそ、
1: 現在の自社が画一的な集団になっている
2: それにはこんなリスクが伴う
3: 最も解決により事業へのインパクトが大きいイシューはX
4: Xに優先してとりかかるべき
という経営言語による議論ができるのです。

この論点設定を事業成長からはじめないと(人権や道徳の議論にしてしまうと)
・それって儲かるんだっけ?儲からないならCSRとしてやるべきでは?
・Xという施策をやるならなぜYもやらないのか?
・属性Aに着目することは他の属性の人たちにアンフェアなのでは?
といった疑問・質問が無限に集まり、不毛な議論に陥ることになりかねません。

KSF2: プロジェクトを細かく切って進める

最初から一気に「DEIチームを立ち上げたいです!」となると承認する側も「え、それにそんなに工数使うの?」となりますし、課題やインパクトの見えないことにコミットするのは難しい、という組織がほとんどでしょう。

そこでまずは調査と課題の整理にDEIプロジェクトのスコープを設定することをオススメします。これだけでも
Diversity:自社の男女比、国籍比率、年齢ごとに比率…etc
Equity:賃金格差、福利厚生、役職構成…etc
Inclusion:定性的な声を拾うためのアンケートやインタビュー
など多くの項目が存在します。

これらの調査で判明した課題を事業成長(ひいてはミッションの達成)を軸に整理し、優先順位を議論することで、必然的に必要なリソースや投資期間の議論になっていくことでしょう。

KSF3: 対話と言語化を諦めない

KSF1&2が具体的なTipsだとすればKSF3はもっとマインドセットに近いのですが、個人的にはこれがDEIを推進するうえで最も重要なことだと感じています。

議論を進める中で自分の常識からは考えられないような意見を見聞きすることもあるでしょう。そんなときには「この人は分かってくれない、話しても無駄だ」と感じることもあるかもしれません。が、こういったときこそInclusionの実践のチャンスなのです。まずは相手の文脈を理解し、対話を通して自分の考えを言語化して伝えること、そしてそれを繰り返すことこそがInclusionです。(言うは易し行うは難しですが….)

私自身も議論を進める中で憤りを感じすぎて寝れない日などもあったのですがw、今振り返るとそれらは自分の盲点を自覚し、考えを言語化するとてもいい機会であったと感じています。そして今実際に組織が徐々に変わり始めてポジティブな変化が生まれているのを見ると「あのとき対話と言語化を諦めなくてよかった」と心から思います。

何度も対話と言語化を重ねても誰にも何も伝わらない場合は環境を変えることも一手からもしれませんが、「対話や言語化を諦めてしまう」のがDEI推進における一番の敵だと感じています。またそういった真逆の意見や対立をうまく扱える集団こそ、多様な視点を持つ個人が活躍できる、盲点の少ない集団であると言えます。

もっとDEIについて知りたい方👉まずはこの2冊から

DEIに関する入門書を1冊勧めるとしたらこちらです!失敗の科学の著者が具体例を多分に用いて「多様性がない集団にどんなことが起きるのか」を丁寧に説明しています。今回のNoteにも多くの事例を引用させてもらいました。

翻訳されていないのが大変残念なのですが、もし英語に抵抗がない方は下記もオススメです。白人男性社会と批判されることが多いシリコンバレーですが、その問題点となぜそうなっているのかを長年Tech業界を取材してきたEmily Changが多くのファクトを用いて説明しています。シリコンバレーの話ではありますが、かなり日本の、とくにTech業界には通じるものが多く、構造的に問題を理解することができます。

さいごに: 当然ながら私も盲点だらけ

文中で人は無意識バイアスから逃れられないと書いた通り、私自身のものの見方や考え方も盲点だらけです。とくに様々な組織で実践をされている方たちからはお互いに学んでいければと思うので、ぜひお気軽にXやLinkedinでご連絡いただければと思います😊


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