概念整理:メンターとスポンサー
特に「女性が活躍するには…」という文脈でよく「メンター・スポンサー(が大事)」という言葉を見聞きします。でもこれらが何を指し、どのように活用すればいいのかピンと来ていなかったので、色んな文献を振り返って頭の中を整理整頓してみました。(参考文献は文末に記載)
特にキャリアの初期においては、メンターの支援も受けて自信をつけることが、後に仕事で花開くために重要のようです。
一方、メンターは「アドバイスをする人」ですが、スポンサーは「自らの影響力を行使し、対象者がキャリアを切り開く支援をする人」です。キャリアアップをしていくには、スポンサーの存在も欠かせない、とのことです。
なぜ女性活躍の文脈でメンター・スポンサーが出てくるのか
メンター・スポンサーの概念は整理できたのですが、ではなぜ、女性活躍の文脈でこれらの用語をよく耳にするのでしょうか?
それは、女性がメンター・スポンサーを得ることが、自然には難しいからだと思います。
例えば男性ばかりの職場に、女性の新入社員が一人配属されてきたことを想定してみましょう。そんな場面でよく聞かれるエピソードは、こんな感じでしょうか;
女性社員に仕事を沢山押し付けるのはかわいそうだと思って甘やかしてしまう、難しい仕事はあまり与えず、厳しいフィードバックも少なめ。セクハラ・パワハラになるのを恐れて遠巻きに見守る…
このとき、女性社員が成長し、活躍するための環境が整っていると言えるでしょうか?
このように明らかに女性の扱いが不慣れな組織でなくても、一般に人は自分に似た人に好感を持ちやすいため、自分に似た属性の人を支援する傾向にあります。
例えば、アメリカの研究では、経営幹部の71%は自分と同じ人種・性別の人のメンター・スポンサーである(1) という研究があります。これは「経営幹部に占める白人男性の割合が高い」を再生産する構造になっています。
他にも、同様のことを示す状況証拠として、
・経営幹部になるためのキャリアパスについて過去2年に詳細な情報を得られた男性は48%なの対して女性はたったの15%だった、
・過去2年にメンターまたはスポンサーとキャリアについて議論した男性は54%なのに対し、女性はたったの39%だった、
と報告されています(1)。
女性が成長するために必要なメンター・スポンサーが実際には十分に得られていないことを物語っています。これは女性に限らず、組織のマイノリティであれば誰でも直面しうる問題です。
逆にキャリアで成功したマイノリティ(この研究では黒人のこと)の共通点は、良いメンターとスポンサーのどちらにも恵まれていたことだった、という研究もあります(2)。
まとめるとこうなります。組織の中のマイノリティは構造的に成長や昇進の支援を得づらい環境に置かれています。それを意識的に是正する制度がメンター・スポンサー制度です。多様な人材の潜在能力を公平に発揮させるための仕組みとして、誰でもメンターやスポンサーへのアクセスが公平に得られる仕組みが必要なのです。
特に課題となっているのはスポンサー制度
再び女性特有の問題に戻ります。ダイバーシティ経営をある程度推進させた企業で見られる現象は、女性は「メンタリングされすぎ、スポンサーされなさすぎ問題」です(3)。
つまり、女性は自分の能力を高めるためのアドバイスはたくさんもらえるけど、実際に昇進に直接結びつく成長機会は与えられなかったり、女性の昇進のために奮闘してくれる経営幹部は依然として少ない、ということです。
見方によっては、女性が昇進しにくい構造的な問題があるにも関わらず(=スポンサーされない)、昇進できないのは女性の能力のせいになっている(=改善点ばかりメンターを通してどんどんフィードバックされる)と言えるかもしれません。
女性活躍推進のためにスポンサー制度を制度として導入することの利点は以下が考えられます;
1. 公平性
制度化することで、「スポンサーすべき人が誰なのか経営層が複数人で選ぶ」というプロセスを導入することができます。そうすると、複数の候補者を比較しながら、複数人の目で選ぶことになるので、より公平な選択をできる可能性が高まります。「人は自分に似た人に好感を持ちやすい」という無意識のバイアスから解放されやすい状況を作れるからです。
2. 透明性
スポンサー制度が存在することで、スポンサー行為の透明性が高まります。生産的なことではないので残念なことですが、男性の経営幹部が女性の部下を「公に支援する」ことに対して、周囲から変な目で見られる・最悪の場合男女の関係を噂される/そうなる可能性を懸念するあまり動けない、ということもあるようです。しかし、制度化されれば、自分の取る行動も説明がつきやすく男性の経営幹部にとっては心配事が一つ減り、動きやすくなるでしょう。スポンサーと対象者それぞれの評判リスクを低減できるわけです。
<参考文献>
メンター・スポンサー概念整理
引用元、上から(1)(2)(3)
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