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大企業を中心とした顧客の理解を深めるサクセスプランの作成(後編)

本noteは、CS HACK Advent Calendar 2023の12月6日の記事として投稿しています。前日5日のご担当はHagura Koichiさんで「CSでありIS、LayerXのカスタマーインサイドセールスは”超”開発思考を目指したい」という記事でした!
ぜひご覧ください。

カスタマーサポートDXを推進するカラクリ株式会社で、23年9月までカスタマーサクセス部門を管掌していた鈴木奨平です。

私たちはAIチャットボット(最近は話題の生成AIも一部活用し始めています)、有人チャット、FAQ、オペレーター支援ツールなどを提供しており、取引先は大企業、中堅企業のお客様が多いのですが、お客様に応じたカスタマーサクセス活動の一環として取り組んでいる、サクセスプランの作成方法の続きについて共有したいと思います。

導入企業の一部抜粋

※前編は下記記事です。

1年ぶりにお待たせいたしましたが、いつ出るの?とよく言われる、X JAPANの新作リリースよりは短いタームですのでご容赦ください(笑)


前編の振り返り

だいぶ間が空いてしまったので、前編の主要なところのみ引用します。

大企業向けのカスタマーサクセスにおいては、相手の立場に寄り添い、深く理解したうえで、顧客と伴走していく必要があります。時には、プロアクティブに自己の主張(客観的に正しい提案など)を顧客に展開することが求められます(「顧客の言うことを聞くな、顧客のためになることをなせ」)。

前編の一部抜粋

顧客ごとの与件・課題・目指したいことに合った千差万別な対応が求められるため、そもそもの前提をしっかり理解することで、やっとお客様と同じスタート地点に立てるのです。そしてこれができてこそ、お客様と議論し、行動変革を促すことにつながっていくのです。これらの実現のために下記の内容を解像度高くインプット&アウトプットする必要があります。

1. 一次情報(ヒアリングなど)、二次情報(Web上の情報)などを通じて、それぞれの相手の立場・課題・主張の理解
2. それらを踏まえた、顧客も納得する共通のゴールの設定
3. SMARTの法則に則ったマイルストーンとアクションの提示

前編の一部抜粋

上記を実現するためには、顧客に対する情報を事前にインプットし、仮説を持ったうえでプロアクティブにサクセス(アカウント)マネジメントをしていくことが必要になります。それらの情報を集約し、顧客対応方針を明確にしたものをサクセスプランとし、各顧客に対して作成しております。

サクセスプランの詳細については下記リンクの「4. 営業プロセスからはじまるサクセスプランニング」をご参照ください。

サクセスプランの各項目の説明

このFMTは既に別のものに変わっているのですが、あえて前回共有したものベースで説明させていただきます。これらの項目は、受注後、Salesメンバーにこれまでの活動内容を通じて判明しているものを埋めておいてもらい、社内キックオフMTGでの引き継ぎ時に内容を確認します。

そしてその後、空白になっているところを中心に、オンボーディングや普段の活動を通じてCSMが埋めていくことで顧客理解をさらに深め、顧客に対するアプローチ仮説を構築していくイメージです。

基本情報シート
アクションスケジュールシート

以下、項目ごとに説明していきます。

アカウント情報

ここでは顧客の経営状況、ビジネス環境をざっくり把握します。特に上場企業であれば、直近1年の有価証券報告書、決算説明会資料、決算短信などを見ると概況がわかります。非上場企業の場合は帝国データバンク、SPEEDAなどで情報がわかる場合もありますが、基本的に一次情報(顧客ヒアリング)での取得になるかと思います。

この決算書の読み方(どこをどう読むのかなど)で1つの記事が書けそうなのでここでは省略しますが、有価証券報告書の読み方は下記の書籍が参考になります。

また、財務3表(特にP/L)はビジネスパーソンの基礎として読めておいた方が良いでしょう。私の部門では下記のような決算書の読み方入門編的なビジネス書を読むことを中途社員オンボーディングの項目に入れています。

私の場合は、下記あたりに注目して見ています。

  • 直近の売上、営業利益(EBITDA)はどんな推移か?

    • 好調か?営業CFも順調な場合、投資CFを見て、投資意欲があるか?

    • 不調か?P/Lの販管費、B/Sを見て、逆にコストにシビアになっていないか?

  • 事業内容および業績の主な特徴は何か?

    • ビジネスモデルはどうなっているか?

    • セグメント別での業績はどうなっているか?(自社プロダクトを導入するサービスの会社全体の位置づけは?)

    • その会社が置かれている市場環境(PEST分析など)はどうか?競合にどんなプレイヤーがいるか?

  • グループ会社、組織図はどうなっているか?

  • 経営方針、経営課題は何か?(有価証券報告書の「事業の状況」など参照)

  • 直近のトピックは?(ニュースリリースなどを参照)

  • 上記の情報から得られる示唆は何か?

    • どんな課題がありそうか?

    • それに対し、どんな提案ができそうか?

特に決算月情報は必ず押さえましょう。これも別記事で書きたいのですが、比較的ARPA(プロダクト単価)の高いSaaSの場合、チャーン阻止、エクスパンション提案のアプローチは、自社プロダクトの契約終了前◯ヶ月前などに対応しても遅いケースがあります。

プロダクトの継続やエクスパンションの可否は、顧客の来期予算作成に組み込まれるかどうかがポイントなのです。そのためには予算作成時点で、自社のプロダクトに関して想起して貰う必要があり、顧客の決算月から逆算して戦略的に対応する必要があります。具体的には決算月の半年以上前からの準備が必要でしょう。後述に記載するアクションスケジュールシートはこの対応に役立ちます。

CS体制

上記項目は、若干弊社特有の部分もありますが、カウンターパートとなる部門や隣接部門で他にどんなツール(システム)を使っているかを押さえておく必要があります。

顧客視点に立つと、いろんなSaaS(システム)を併用すると、それらとの連携や重複業務(コスト)が気になってきます(特にマネージャー以上の場合)。これらに対し、顧客にとって最適な座組みはどんな形かを一緒に考えておく(解を持っておく)必要があるでしょう。自分たちのプロダクト活用だけのような個別最適ではなく、顧客部門にとっての全体最適な視点を常に持つようにしましょう。

キーマン情報

ここでは、Economic Buyer(導入プロダクトの継続の意思決定権を有する人物)とChampion(顧客社内での導入プロダクトの推進者)を押さえることが大事です。よくあるチャーン事例として、現場の人からはそんな雰囲気を感じられなかったのに急にチャーンになったなどはこのあたりが把握できてなかったことによる可能性もあります。また、Championの異動などのチャーンもあるあるですね。

Economic Buyer、Championの詳細は下記の記事が参考になると思います。

Economic Buyerは通常、部門長などの可能性もありますが、高単価なプロダクトだと予算の関係上、稟議を通す必要があるので、CFOや◯◯(経営、部門長)会議などがEconomic Buyerになる可能性もあります。

そしてChampionは、導入したプロダクトの活用を社内で推進し、価値を社内に啓蒙してくれる人ですし、普段のコミュニケーションではこの方と接することが多いでしょう。

よって、四半期などの頻度で行われるビジネスレビューでは、可能な限りEconomic Buyerにも同席してもらって、Championの方の成果を第3者である我々がEconomic Buyerの方にお伝え(代弁)することが大事です。上手くお伝えすることができれば、Championの方の社内評価は上がり、顧客に感謝されますし、ビジネス的な観点ではチャーンの阻止はもちろんのこと、取り組みが評価され、エクスパンションにつながるなんてこともあります(Championの方が出世し、予算などの権限が広がればなおさら)。

上記以外にも、大企業の場合、ステークホルダーが多岐にわたるので、ステークホルダーマップ(組織図、組織内の関係性(力関係)、自社メンバーとの関わりなどがわかるもの)や下記のようなステークホルダー関与度評価マトリクスまで作成できるとなお解像度が高まります(ここまでやるのは最重要顧客くらいで良いでしょう)。

サクセス方針、エクスパンション方針 または チャーン/コントラクション与件

各方針の具体の部分は各社違うと思いますが、できる限り具体的に記載することが大事です。しつこいですが、SMARTの法則に則って記載できているかどうかを確認しましょう。

よくありがちな躓きポイントは以下です。

  • 達成すべき目標の妥当性が怪しい

    • それは本当に達成可能なのか?自社プロダクトの導入時に稟議書にどんなことが書かれていたかなどは知るべきだし、期待値調整が必要

    • 達成の基準がイマイチわからない。定性目標であっても良いが、その場合、誰が見ても進捗状況を同じように把握できる尺度があるか?

  • 目標に対し、進捗(実績)を計測する方法や振り返る時期が曖昧

  • アクションの内容が抽象的で、主体者と期日が入っていない(結局、やらないまま終わる)

    • 達成に向けたアクションの質や量が不十分なケースも

そしてマネージャーの方は、メンバーが記載した内容を確認し、曖昧な部分に関してはメンバーにヒアリングするようにしましょう。もし考えられていないようであれば、顧客とさらに会話する必要があるかもしれませんし、そこを埋めていく会話を通じて、顧客も自分たちのことを真剣に考えてくれているんだと感じ、関係性も深まるかもしれません。

アクションスケジュールシート

期間は、半期でも1年でもいいのですが、上記の基本情報シートのインプットの内容をもとに、時系列で顧客の与件や顧客に対し自社が行うべきアクションを記載していきます。

これを期初にがっつり埋めることで(完璧を求めなくても良いが具体性は必要)、サクセスプランを行っていくうえでの指針(拠り所)になり、目先の対応に追われることも減るはずです。当然、書いただけで終わるのでなく、毎月や打ち合わせの前に確認し、今の進捗と照らし合わせていくなどして、内容をブラッシュアップしていく必要があります。

以上、長々と書いてきましたが、大企業のカスタマーサクセスでは従来でいう無形商材の法人営業やコンサルっぽい動きが求められると私は思います。

  • この会社の経営・事業戦略だと、顧客の部門はこんなことが会社(経営)から求められるのではないか?

    • 経営陣の方に、顧客と一緒に提案すれば、カウンターパートの人も社内で評価されるのでは?

  • 部署間や個人間の力関係はどうなっているのか?どこどこの部署(人)も巻き込んだ方が良いのでは?

    • 各ステークホルダーのそれぞれの思惑は?誰からコミュニケーションを取るべきか?

    • それらの思惑を包含する良いコンセプトはあるか?

などなど、プロダクト活用以外にも、経営や事業、組織全体のことなど、様々なことに思いを馳せる必要があります。プロダクトを上手く活用できているかどうかだけでなく、経営から見た自社プロダクトのROI視点、顧客との関係性(組織攻略)なども重要な論点になってきます。

Economic BuyerやChampionに該当する方は、大企業の管理職、幹部クラスの方ですので、その方と同等のドメイン知識、ビジネス基礎知識は持っておきたいですし、できれば彼らが考えている以上にこちらも考え、顧客も気づいていない示唆などを打ち合わせの度に何か提示できると美しいですね。

その分当然難易度は上がると思いますが、このあたりまでやり切れると、顧客にとって、プロダクト以外のことについても相談してもらえる真のパートナーになれるのではないかと私は思います。

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