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自動車泥棒

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#親友

自動車泥棒(後編)

 美というのは気まぐれに不都合にその姿を現すのだ。青山の目に映る手島は、細く絡み合う紫煙を纏って、瞼を狭めてそれを拒んでいた。そよ風に吹かれた前髪や睫毛の一縷一縷が例のコンビニからの気持ち悪い明かりを受け、白く、鋭利に煌めいた。咥えられては赤く燃える煙草の先端・開閉の繰り返される唇・啜る鼻・微動だにしない額・……青山にはそれら全てが、哀しさを誘うような表情を為しているように思えた。ただこうも思った

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自動車泥棒(中編)

 青山は手島の指定に基づいて博多駅で乗車すると、車両を渡り歩いて手島と会った。手島は彼に気づくと、椅子から立ち上がった。隣に空席がないことからの気遣いだった。椅子前にあった腰までの高さのあるスーツケースを転がし、二人はドアの前に移動した。
 青山は手島を伴い、自分の車が駐車される駅を降り、近くにある刺身などを出す居酒屋へ向かった。店内には一様に次縹の色をした、八畳ほどの生け簀があった。その中には自

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