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上司ガチャで外れたと思われないために大切なのは、上司の側が変わること

先輩や上司、管理職の立場にある人が年齢の離れた後輩や部下を持つと、世代間ギャップによってコミュニケーションに悩みを抱えることが少なくありません。

特に近年働き始めたばかりの若手世代と40代以降の世代では価値観の違いが大きく、若年層の間では自分で上司を選べないことを「上司ガチャ」と表現することも。いい上司に巡り合えば当たりで、嫌な上司に出くわすと外れということです。

上司からすれば「若いやつらは分かっていない」「根性がない」と思ってしまうかもしれませんが、むしろ変わらないといけないのは上司のほうなのです。

翔泳社が発売している書籍『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント』の著者で、特定非営利活動法人しごとのみらいの理事長でもある竹内義晴さんは、「自分が変わるより、相手を変えるほうがはるかに難しい。だから、気づいている自分が変わろう」と書いています。

ですが、そのためには若手世代がどんなふうに物事を捉え、仕事に臨んでいるのかを知る必要があります。また、組織やチームとして成果を出すコミュニケーションの方法も学ばなければなりません。

本書にはその考え方が解説されていますので、よければ参考にしてみてください。

この記事では本書から「1-1 「正しさ」と「正しさ」の対立」を抜粋して紹介します。若手世代も管理職世代も、どちらも正しいという前提のうえ、間違った「vs.構造」から脱却するにはどうすればよいのかが語られています。

※以下は『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本』の「1-1 「正しさ」と「正しさ」の対立」から抜粋したものです。

「世代間ギャップ」に悩む人が増えてきた

「ほら、今って何か言おうものならすぐパワハラだ、モラハラだ、と言われるじゃないですか。僕らの時代は上司からゴリゴリやられるのが当たり前でしたけどね……」

目の前にいる40代とおぼしきその人は、そう言って苦笑いを浮かべます。私は「そうですよね」と相づちを打ちながら、心の中で思いました。

「どれだけ多くの管理職が、この悩みを抱えているんだろう……」

「NPO法人しごとのみらい」を運営し、人材育成や職場改善のコンサルティングや研修・講演を行っている私のもとには、さまざまな企業からコミュニケーションやメンタルヘルスなどに関する講演の依頼が来ます。その依頼内容に、冒頭の「若手世代との関わり方」というテーマがずいぶん増えてきました。

また、私は週2日、サイボウズという会社でも仕事をしています。IT企業ですが、「チームワークあふれる社会を創る」が理念の会社です。日常的にチームワークについて考えたり、職場の同僚とディスカッションをしたりしています。その中でも、こういった「若手世代とどうコミュニケーションを取ればよいか」という話題がしばしば出ます。

ここで言う「若手世代」とは、巷で「Z世代」または「さとり世代」と呼ばれるような20代の若者たちのことです。

「上司と部下のコミュニケーションの悩み」というテーマ自体は、必ずしも今にはじまったことではありません。私がコミュニケーションを勉強しようと思い立ったのも、エンジニア時代に上司の理不尽な対応に疑問を持ったり、自分が管理職になったときに部下とのコミュニケーションに悩んだりしたことがきっかけでした。

会社が人の集団であることを考えると、仕事のベースにあるのは人と人とのコミュニケーションです。ところが、最近ではコミュニケーションを取る、取らないの前に、若手世代に対して「世代間ギャップ」を感じ、距離の取り方に悩む人が管理職を中心に増えてきました

何とか若手世代の力になりたい。成長をサポートしたいから、これまでの経験を伝えたい。それなのに、パワハラ、モラハラと言われたらどうしよう……と、なかなか上手な距離感がつかめない。しかも、新型コロナウイルス感染症の広がりによって、多くの人がマスクをし、表情が読み取れないばかりか、テレワークのモニター越しでは雰囲気も伝わってきません。

だから、にっちもさっちも行かなくてどうしたらいいかわからない。―こんな話を、方々で耳にするようになりました。

世代間ギャップは「ダイバーシティ」の問題?

さらに、こういった「若手世代との関わり方」に関する研修の依頼を受ける際に、もう1つの傾向が見られるようになりました。研修の依頼が届く企業の担当部署が「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」関連であることが増えてきているのです。

ダイバーシティとは「多様性」、そしてインクルージョンとは「包括性」や「受容」を意味します。つまり、「D&I」とは、性別、年齢、国籍などの属性や、ライフスタイルや価値観など内面の特性の違いを超えて、それぞれの個性を尊重し、違いを認め合うこと、と一般的に理解されています。近年ではSDGsの流れもあり、この「D&I」の専門部署を設ける企業が増えているようです。

これまで、世代間ギャップをテーマに研修をご依頼いただく企業の窓口といえば、人事や研修を企画する部署と相場が決まっていました。しかし、数年前から少し風向きが変わってきたのです。

それは、若手世代との関わりを「それぞれの個性を尊重し、違いを認め合おう」という文脈で取り扱う企業が増えてきたということです。言い方を変えると、人材を「会社が理想とする型」にはめようとする、これまでの「一律の教育」が変わりつつある、ということ。それが、ここ数年の顕著な傾向として表れています。

若手世代にとって上司は「ガチャ」

以前なら「コミュニケーション」の問題だった世代間ギャップが、多様性という視点に変わりつつある今、これまで「これが正しい」と認識されていたコミュニケーションのスタイルを一方的に押し付けることは、どうやら合わなくなってきた。そんな実態が浮かび上がってきました。

「せっかく育ててやったのに、あいつときたら1年で辞めてしまいやがって……」、というような話をよく聞きます。本人はよかれと思ってやっていることが、相手にとってはネガティブに受け取られてしまっていたのです。

しかも、かつてのような、「一度入った会社でずっと働く」というワークスタイルとは異なり、転職に対する抵抗感が少なくなった今の若手世代は「この人に言っても通じない」と思ったら、すぐに会社を離れてしまいます。先日、研修に伺った、ある企業の人事の方の話です。その会社では、Z世代の離職率が増えているそうです。彼らが離職するとき、よく、こんな言葉を残していくといいます。

「上司が話を聞いてくれない。何を言っても無駄だから、もうあきらめました」

昨今、「上司ガチャ」「会社ガチャ」という言葉があります。「ガチャ」とは、ソーシャルゲームなどで、アイテムを抽選によって購入・取得するしくみのことです。その語源は、カプセルに入った景品を購入するゲーム「ガチャガチャ」。何が出てくるかは運任せなのが特徴です。

つまり、上司ガチャとは「上司を自ら選べない」、会社ガチャとは「会社は入ってみないとわからない」という意味です。このバズワードは、若手世代のあきらめの心情をよく表しています。

他にも、「ある日、退職代行サービスの会社から連絡が来て、新入社員が辞めたことを知った」というような話も最近よく耳にします。上司にとっては最悪なケースですが、これも、若手世代がコミュニケーションをあきらめてしまった表れと言えるでしょう。

にもかかわらず、先日も、とある会社の企業研修で、小グループに分かれてざっくばらんにディスカッションをしていたときのことです。ある50代とおぼしき社員がこう言いました。

「今の若いヤツらは全然わかっていない!」

「根性がない」「イヤなことをやるのが仕事だろう」「石の上にも3年という言葉を知らないのか」―私も中堅世代のため、そう言いたくなる気持ちはよくわかります。

ただ、自分のこれまでの成功体験や仕事のスタイルを、絶対的な「正しさ」と勘違いし、自分は何も変わろうとせずに、「最近の若いヤツらはわかっていない」と若手社員に変化を求めてばかりでは、ますますギャップが広がり、大きな壁が生じてしまいます。

「正しさ」と「正しさ」がぶつかり合う「vs.構造」

中堅世代の管理職は、「オレは正しい」「あいつらはわかっていない」と思っている。そして、若手世代の部下は「僕は正しい」「あの人に言ってもどうせわかってくれない」と思っている。この、永遠に交わらない、大きな平行線のような世代間の「vs. 構造」が、多くの企業や組織で起こっているようです。

そもそも、それぞれが持つ価値観について、どっちが正しい、間違っている、ということはありません。「私はこう思う」というそれぞれの人の考えは、中堅世代にとっても、若手世代にとっても、どちらも「正しい」のです。

私たちの価値観は、これまで生きてきた時代や環境、メディアから流れていた情報、その中で考えたこと、体験したことによってつくられています。それぞれが過ごしてきた時代に良いも悪いもないように、私たち1人ひとりの価値観には「正しい・正しくない」も「良い・悪い」もありません。

しかし、自分主体で相手を見てしまうがために、異なる世代の価値観に「あれは違う」と意味付けをし、歩み寄ろうとしない状況が生まれています。

まるで、どこかの民族紛争のような「vs.構造」が、お互いを傷つけ、不幸にしています。

身近な例を挙げましょう。あなたの部下である若手社員が、LINEで「今日、体調がすぐれないので休みます」とメッセージを送ってきたとします。あなたならどう対応するでしょうか?

「LINEで休みの連絡をよこすとは何事だ。様子が気になるから電話で直接声を聞きたいし、仕事の進捗に支障がないかも確認したいのにそれもできない。そもそも、ビジネスマナーがなってない!」

ここまであからさまに表現しなくても、なんとなくモヤッとしてしまう人は、少なくないでしょう。

一方、若手社員の側からすると、「突然の電話で上司の邪魔をしたくない」「要件はできるだけ早く伝えたほうがいい」と思って、連絡手段を選択しているのかもしれません。これもまた、その相手にとっての「正しさ」です。

自分の「私はこう思う」は、自分にとっては当然正しい。けれども、相手にとっても、別の「私はこう思う」があります。それぞれの「価値観の違い」が、「あの人はわかっていない」という不満やストレスを生じさせているのです。でも、お互いの価値観を主張しているばかりでは、平行線は永遠に交わらないでしょう。

では、どうすれば世代間の「vs.構造」から離れ、世代間ギャップを縮めることができるのでしょうか? 答えは1つ。私たちが「変わる」ことです。

もしかすると、あなたは今「何でオレ(私)が変わらなくちゃいけないんだ」と思っているかもしれません。そう思われるのも当然です。でも、「自分が変わるより、相手を変えるほうがはるかに難しい。だから、気づいている自分が変わろう」。

これが、本書のテーマです。自分を変えられるのは、それだけ柔軟な証拠です。


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