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メンタルヘルスを守る存在、国家資格「公認心理師」の役割とは?

現代人にとって心の健康は一大関心事ですが、ストレスは環境に左右されるなど自分だけではどうにもならない部分もあります。鬱病やパニック障害などを突然発症して悩んでしまうことも珍しいことではありません。

そんなときに頼りたいのがカウンセリングや心理療法。これまでその技能をチェックする資格は民間のものが主流でしたが、2017年に心理職として初めての国家資格である公認心理師が誕生しました。

公認心理師法第1条には「国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的とする」とあり、その役割に大きな期待がかかります。

ただし、公認心理師は心の健康に責任を持つ立場ゆえに資格試験が難しく、学習すべき範囲も広いのが特徴です。それでも、資格を有することは確かな技能を持つことの証明になるため、心理職を目指す、あるいはすでに従事している方には心強い資格となります。

取得を目指す方のために、翔泳社では勉強用の教材として『心理教科書 公認心理師 完全合格テキスト』(公認心理師試験対策研究会)を発売しています。第3回の試験日が6月21日(日)、その申し込みが2020年3月9日(月)から2020年4月8日(水)までですので、このタイミングで準備を整えるのがベストだと言えるでしょう。

※第3回公認心理師試験日は延期が発表されていますので、続報を公式サイトでご確認ください。

翔泳社の通販サイトSEshopではPDF版を販売しています。

今回は本書から「第1章 公認心理師としての職責の自覚」を一部抜粋して紹介します。公認心理師の役割や法的義務、倫理、クライエントに関する情報の扱い方など、最も基本かつ理解しておかなければならない内容です。第2章以降でも心理学やコミュニケーションの方法、疾患の症状など詳しい解説を行なっています。

学習範囲が広いということで本書も厚めとなっていますが、心理職はいまだ全容が解明されていない人の心を対象にする仕事のため、じっくり読み進めて知識を習得していただければと思います。

試験対策により注力したい方には問題集として『心理教科書 公認心理師 完全合格問題集 2020年版』や『心理教科書 公認心理師 出る!出る! 要点ブック+一問一答』もおすすめです。

以下、『心理教科書 公認心理師 完全合格テキスト』(翔泳社)から「第1章 公認心理師としての職責の自覚」を抜粋します。掲載にあたって一部を編集しています。

公認心理師の役割

公認心理師法は、2015(平成27)年9月に公布、2017(平成29)年9月に
施行されました。ここでは、 公認心理師の役割および資格について、公認心理師法に規定されている内容を理解していきます。

【公認心理師法の目的】

公認心理師法第1条に「この法律は、公認心理師の資格を定めて、その業務の適正を図り、もって[国民の心の健康]の保持増進に寄与することを目的とする」と規定されています。相談依頼者のみならず、国民全体が公認心理師の支援対象者であることを示しています。

【公認心理師の定義】

公認心理師の定義は、第2条において、「公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって」、以下の4つの業務を行う者と定められています。

(1)心理に関する支援を要する者の心理状態を[観察]し、その結果を[分析]すること。
(2)心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する[相談]に応じ、[助言]、[指導]その他の[援助]を行うこと。
(3)心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
(4)[心]の健康に関する知識の普及を図るための[教育]及び[情報の提供]を行うこと。

この4つの業務は、(1)心理アセスメント、(2)カウンセリング・心理療法、(3)コンサルテーション、(4)心理教育に当たります。この業務には、自殺予防や虐待への対応も含まれます。予防的アプローチから危機介入に至るまで、あらゆる場面に適切な支援を行うことが求められています。

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◆多職種連携

第2条の4つの業務を行うにあたり、第42条において、「公認心理師は、その業務を行うに当たっては、その担当する者に対し、保健医療、福祉、教育等が密接な[連携]の下で総合的かつ適切に提供されるよう、これらを提供する者その他の関係者等との連携を保たなければならない」と多職種との連携が明記されています。

「その他の関係者」とは、家族などの要心理支援者の近しい関係者のみならず、勤務先機関での他職種や、地域の行政サービスといった広い範囲を指しています。

そのため、適切な連携を行うためには、公認心理師は心理学的知識に留まらず、各行政機関が行っているサービスを把握しておくこと、他職種の職務内容などを理解しておくことが必要になります。そうすることで、要心理支援者に有効な支援を提案でき、包括的にサポートすることが可能となります。

【公認心理師の資格】

公認心理師は、業務独占ではなく[名称独占]資格です。また、公認心理師となるには、試験合格後に定められた事項について登録を受ける必要があります。

◆名称独占資格

第44条において、「公認心理師でない者は、公認心理師という名称を使用してはならない」と定め、同条2項では「公認心理師でない者は、その名称中に[心理師]という文字を用いてはならない」と名称の使用制限を明記しています。

この規定に違反した場合には、第49条において、[30]万円以下の罰金に処するとの罰則規定を設けています。これは、公認心理師の質を高め、適正な職務を行い、国民から信頼されることが求められているということです。

◆登録の義務

公認心理師は、試験に合格すれば資格が取得できるわけではありません。第28条において、「公認心理師となる資格を有する者が公認心理師となるには、公認心理師登録簿に、氏名、生年月日その他文部科学省令・厚生労働省令で定める事項の[登録]を受けなければならない」と規定されています。

登録される事柄は、(1)氏名、(2)生年月日、(3)登録番号、(4)登録年月日、(5)本籍地の都道府県名、(6)試験合格年月日です。

◆欠格事由

第3条において、公認心理師になることができない者が定められています。この欠格事由のいずれか(第4号を除く)に至った場合には、第32条において、「その登録を[取り消さなければならない]」と定められています。

また、第1号は「成年被後見人又は被保佐人」から「[心身の故障]により公認心理師の業務を適正に行うことができない者として文部科学省令・厚生労働省令で定めるもの」と改正されましたので、注意が必要です。

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公認心理師の法的義務および倫理

公認心理師の法的義務は、公認心理師法第4章「義務等」において、第40条
「信用失墜行為の禁止」、第41条「秘密保持義務」、第42条「連携等」、第43条「資質向上の責務」の4つが定められています。ここでは、 公認心理師における公認心理師の義務をしっかりと理解しましょう。

条文によって、罰則や処分があるもの、ないものを明確に知りましょう。また、罰則や処分がない場合でも、公認心理師の倫理によって、望ましい行動規範を身につけることが求められています。

【第40条 信用失墜行為の禁止】

第40条に「公認心理師は、公認心理師の[信用]を傷つけるような行為をしてはならない」とあります。この「信用を傷つけるような行為」とは、仕事上のみを指すのではなく、私的な社会生活も含まれます。公認心理師の不名誉になる行為は職務内外にかかわらず慎むべきことを規定しています。私生活における信用失墜行為とは、代表例として、休日に飲酒して暴れ、近隣住民に迷惑をかけるといったことが挙げられます。

◆多重関係の禁止

第40条の信用失墜行為に該当する代表的なものに多重関係が挙げられます。多重関係とは、カウンセラーとクライエント以外の関係性を持つことを意味します。これは重大な倫理違反であり禁じられています。

多重関係をもつことは、カウンセラーが意図してクライエントを巻き込むのは言語道断でありますが、クライエントに頼まれた場合でも禁忌です。カウンセラーは親切心からであっても先入観や個人的感情に振り回されてしまう危険性があり、ひいてはクライエントの不利益になってしまいます。

クライエントに有益なサポートを提供し続けるためには、境界線をしっかりと保つことが重要な責務となります。

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【第41条 秘密保持義務】

第41条に「秘密保持義務」として「公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする」と定められています。

これに違反した場合には、第46条において、「[1]年以下の[懲役]または[30]万円以下の罰金に処する」という厳しい罰則が設けられています。これは、公認心理師が扱う個人情報が極めて重いことを示しています。

【第42条 連携等】

第42条「連携等」1項において[多職種との連携]が明記されています。これは、「チーム医療」という言葉に代表される、心理職として包括的なサポート体制の一員となることを示唆しています。

◆主治の医師の指示

第42条において注意すべきは2項の条文です。「公認心理師は、その業務を行うに当たって心理に関する支援を要する者に当該支援に係る[主治の医師]があるときは、その[指示]を受けなければならない」とあり、これに違反した場合には、[登録の取消し等]の処分を受ける可能性があります。

【第43条 資質向上の責務】

第43条において、「公認心理師は、国民の心の健康を取り巻く環境の変化による業務の内容の変化に適応するため、第2条各号に掲げる行為に関する知識及び技能の向上に努めなければならない」と資質向上の責務が明記されています。

【公認心理師法における罰則・処分】

第32条において、「登録の取消し等」に該当する事由が規定されています。また、第5章の「罰則」において、罰金刑等の罰則を受ける可能性がある事由が定められています。第4章に明記されている第40条・第41条・第42条・第43条の4つの規定を熟知した上で、以下の表で、公認心理師法に定められている罰則と処分について整理しておきましょう。

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情報の適切な取り扱い

公認心理師は、公認心理師法第41条の秘密保持義務の定めの通り、業務上知
り得たクライエントの情報は外部に漏らしてはなりません。一方で、多職種連を適切に行うためには、多職種間での情報共有が必要であり、公認心理師が1人で抱え込んでいては適切なサポートにつながらないといった矛盾した状態になり得ます。そこで、クライエントに適切な支援を行うために、公認心理師が守るべき秘密保持義務のあり方をここで整理します。

【インフォームド・コンセント】

インフォームド・コンセントとは、「説明と同意」という意味で、クライエントの情報を第三者に伝える場合、クライエントにその理由と目的を伝えて、クライエント本人から同意を得ることをいいます。

クライエントから、例えば「家族らの問い合わせに答えてほしい」という明らかな意思表示があった場合には、何のために、誰に、何を伝えるか等といった具体的な内容までクライエントとよく話し合っておくことが大切になります。

また、多職種連携における情報共有やクライエントの安全の確保の観点から、守秘義務の範囲と限界について、率直に説明し、話し合うことが必要です。

【プライバシー保護】

第41条に秘密保持義務について厳しい処分が定められている通り、クライエントのプライバシーは厳重に守られなければなりません。臨床場面のみならず、研究のための個人情報取得の際にも必ず[インフォームド・コンセント]を行います。

また、どの領域であっても業務に関する記録の適切な保管が必須になります。カウンセラーは、曜日ごとに複数の職場を持つことが多々ありますが、それぞれの勤務先で得た個人情報を外に持ち出してはなりません。使用するパソコンにはパスワードをかける、インターネットにはつながない等の工夫が必要です。

また、プライバシー保護については、公認心理師法のみならず、個人情報保護法にも明確に規定されています。2003(平成15)年に「個人情報の保護に関する法律」が成立し、事業主等に個人情報の収集等の際に利用目的を明確にすることや、漏洩しないようにすること等を定めています。

◆個人情報保護法関連5法

個人情報保護法制は、2003(平成15)年に成立し、法律第57号から第61号ま
での5つの法律から構成され「個人情報保護法関連5法」と呼ばれています。

個人情報とは、「特定の個人を識別できるもの」と定められています。

個人情報保護法を含む関連5法とは、「個人情報の保護に関する法律」「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」「独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律」「情報公開・個人情報保護審査会設置法」「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」です。

民間企業に一番関連が深いのは、平成15年法律第57号「個人情報の保護に関する法律」で、官民を通じた基本法の部分と、民間の事業者に対する個人情報の取扱いのルールの部分から構成されています。1516181922

◆倫理的ジレンマ

クライエントとの秘密保持義務を守りたいと思う一方で、クライエントの利益を考えれば多職種と情報共有をすべき、という状態を倫理的ジレンマといいます。

例えば、クライエントに「カウンセラーの先生だけに言います。他のスタッフには言わないでください」と求められた場合です。内容によっては、医師や看護師等と共有したほうが良い情報があります。また、主治医がいた場合には報告し、医師の指示を仰ぐ必要があります。

倫理的ジレンマは、第41条の秘密保持義務と第42条の連携等との間で生じる場合が多くあります。

【クライエントの安全の確保】

秘密保持義務以上に優先すべき事態に、クライエントの[安全の確保]があります。これも倫理的ジレンマを生じさせる場合が多く、クライエントの安全がかかっているだけにその判断は慎重になされなければなりません。

クライエントの安全にかかわる問題の代表に、[虐待の疑い]や[自傷他害行為]の危険性が挙げられます。この先に起こり得る危機を回避するために虐待や自傷他害行為の危険性を見極めることを[リスクアセスメント]といいます。危険性が高いと判断された場合、警察や家族に連絡をし、危機を回避する必要が生じます。

この場合は、秘密保持義務の例外として、秘密保持義務よりもクライエントの安全の確保が優先され、秘密保持義務違反には問われません。

【秘密保持義務の例外】

秘密保持義務よりもクライエントの安全の確保が優先と述べましたが、このような秘密保持義務の例外事由について改めて整理します。秘密保持義務の例外状況として大別すると5つが挙げられます。

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ここでは、このうち、重要な3つの項目を取り上げます。

◆自傷他害行為の恐れがある場合

他害行為に関しては、タラソフ事件として有名です。「警告義務(保護義務)」とされ、クライエントが特定の他者に対して明確かつ切迫した危険を呈している場合には秘密保持の原則は適用されません。

しかし、秘密保持義務の例外を適用するのは最後の手段と考えるべきでしょう。カウンセラーは、クライエント本人に危険を回避する様々な取り組みを積極的に行うことが重要です。

次に、自傷行為に関し、クライエントの自殺に代表される緊急事態にカウンセラーが直面することは少なくありません。この場合も秘密保持義務の例外にあたり、クライエントの家族等に連絡をとってクライエントの安全の確保を優先しなければなりません。しかし、この場合も、カウンセリングの回数を増やす、他職種と連携する、クライエントとよく話し合うなど最大限の努力を行うことがまず求められます。

◆タラソフ事件

タラソフ事件とは、ポッダーという男性がタラソフさんという女性に恋をし、その恋心が実らなかったことに恨みを募らせ、タラソフさんを殺害した事件です。

ポッダーは精神科に通院しており、主治医に「タラソフを殺したい。銃で撃つ」と話していました。しかし、主治医は守秘義務のためにそれを口外しませんでした。

タラソフさんのご家族が、主治医に対し、「知っていたなら、危険を回避できるようになぜ教えてくれなかったのだ!」と裁判を起こし、最高裁で「自分の患者が特定の相手に危険を及ぼすと予測される場合は、その家族等に伝えるなど危険から保護する方策をとるべきである」と判決が下り、「守秘義務の例外」として広く知られるようになりました。

◆虐待が疑われる場合

児童虐待防止法および児童福祉法により、虐待の[通告義務]が定められています。これも、子どもを守ることが秘密保持義務よりも優先されるという保護義務の原則です。

また、虐待は子どものみならず、高齢者虐待や配偶者からの暴力(DV)でも問題となります。これらは、高齢者虐待防止法やDV 防止法によって通告義務または通告の努力義務が課せられています。

◆そのクライエントのケア等に直接関わっている専門家同士で話し合う場合

倫理的ジレンマの項目でも触れましたが、多職種連携やチームでの支援の際に、情報共有と秘密保持義務の問題は、画一的に語れない複雑さを含んでいます。

「他のスタッフには言わないでください」とクライエントから懇願された場合どうするのか。これは、その都度、その相談内容によってリスクアセスメントをし、それでも他職種と共有する必要があると判断したら、その旨を真摯に説明しクライエントの同意を得ることが必要です。

その場合でも、どのスタッフにどこまで言うのか、詳細にインフォームド・コンセントをします。

他方、クライエントの心理状態や危機の高さによっては、同意を得られなかったとしてもクライエントの安全の確保を優先すべき状況も起こり得るでしょう。

いずれの場合も、クライエントのケアに関わるスタッフ皆が秘密保持に関して高い倫理観を備えていることが求められます。

◆「登録の取消し」や「名称の使用制限」に該当するのは!?

欠格事由の第3条第3号の「罰金の刑」とは、「この法律の規定その他保健医療、福祉又は教育に関する法律の規定であって政令で定めるもの」とあるので、例えば交通違反での罰金刑は該当しませんね。

しかし! 油断は禁物です! 第40条に「信用失墜行為の禁止」という規定があるので、やはり節度を常にもった行動が求められています。この「信用失墜行為」は具体的にどのような行為なのかの記載はありません。厚生労働省および文部科学省の裁量に任せられるということになります。

◆秘密保持義務違反の罰則は医師よりも重い!?

公認心理師が秘密保持義務に違反した場合には、1年以下の懲役または30万円以下の罰金刑が定められています。医師や弁護士にも同様の秘密保持義務が規定されていますが、その罰則は「6か月以下の懲役または10万円以下の罰金」となっています。なんと、公認心理師のほうが医師や弁護士よりも重い罪に問われるのです。

公認心理師は、医師の指示に従わない場合は行政処分を受ける可能性も法で定められていながら、秘密保持義務の罰則は医師よりも重いという、なんともハードな立場ですね。

けれども、公認心理師がクライエントから預かる個人情報は医師や弁護士よりも重大なものであると国は考えたのだろうと解釈し、誇りに思って職務に邁進することにしましょう。


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