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発達障害の人が親の介護で直面するタスク&体調管理、そして遠距離介護の費用

発達障害を持つ人で、親の介護をしている人はけっして少なくありません。自身の仕事や生活に加えて介護の苦労も重なることで、すっかり疲弊してしまっている場合も。

今回は、そんな人たちの負担が少しでも軽くなり、真似するだけで介護がちょっと楽になる工夫やアイデアを解説した書籍『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に親の介護をするための本』を紹介します。

本書の著者でもある村上由美さんは、発達障害の当事者として日常生活を送るために行なった試行錯誤や経験が、親の介護に非常に役立ったと書いています。

例えば、下記のようなことに直面している方におすすめです。

  • 親が突然入院して困っている

  • 自分のことで精一杯

  • 親の言動にイライラしてしまう

  • ケアマネジャーにどう相談したらいいか分からない

本書ではこのような困りごとを多数取り上げ、「事例」「原因」「解決策」という3つの順に解説。村上さんならではの目線で細かい点まで拾い上げて説明してくれているので、充実した内容となっています。

この記事では参考として、「第6章 自分の生活との両立をうまくやりたい!」から、「仕事と介護で家事に手が回らない」「仕事と介護で家事に手が回らない」「遠距離介護で出費がかさむ」というパートを抜粋して掲載します。

ぜひ一度、読んでみてください。

◆著者について
村上由美(むらかみ ゆみ)

上智大学文学部心理学科、国立身体障害者リハビリテーションセンター(現・国立障害者リハビリテーションセンター)学院 聴能言語専門職員養成課程卒業。
重症心身障害児施設や自治体などで発達障害児、肢体不自由児の言語聴覚療法や発達相談業務に従事。現在は、自治体の発育・発達相談業務のほか、音訳研修や発達障害関係の原稿執筆、講演などを行う。
著書に『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本』(翔泳社)、『声と話し方のトレーニング』(平凡社新書)、『発達障害の人の「片づけスキル」を伸ばす本』(講談社)、『発達障害の女性のための人づきあいの「困った!」を解消できる本』(PHP研究所)がある。


仕事と介護で家事に手が回らない

対策
○優先すべき事項と後回しにする事項を整理する
○家事代行サービスなどを活用する

事例:介護疲れでヘトヘトで何もやる気が起きない

親の介護が本格的に始まって約2カ月。平日は仕事、休日は介護に追われているので、帰宅するとボーッとしてソファで眠ってしまい、気が付いたら深夜になっていることも。

以前は休日にたまった家事をしていたが、親の介護で余裕がなくなったからか、だんだん家の中が散らかってきた。

そのうち思い切って有休を取ってたまった家事を片付けたいが、何をどうしたらいいか考えるのも億劫になっている。いったいどうしたらいいのだろう。

原因:マルチタスクに対応できず、優先順位が付けられない

事例の場合、親の介護という急な対応を要する重大なタスクが割り込み、これまでできていた家事や休息をする余裕がなくなってしまった。

もちろん介護についてもケアマネジャーに相談し、他の家族とも協力して負担を減らす努力も必要だが、一般的に介護は年単位のことなので、ある程度生活にしわ寄せがくるのは避けられない。

家事は暮らしの土台となるだけに、できるだけ早く家事の内容や時間を見直し、今の生活に合う方法を検討する必要がある。

片付けなどを後回しにしがち(ADHDの人に多い)、どれが優先すべき家事かわからない(ASDの人に多い)、といった状況になっているのなら頭の中もごちゃごちゃしている状態で、ますます動きづらくなってくるので、まずは状況を整理して具体的な行動に落とし込んでいこう。

解決法:優先すべき事項と後回しにする事項を整理する

事例の場合、疲れもたまっているから今は睡眠時間の確保など体力の回復が最重要課題だ。

まずは1日の中で睡眠時間の枠を取り、そこから仕事や通勤などの時間を引いて残った時間がどれくらいあるか計算してみよう。

 1日の時間計算例

すると、「あれ? 思ったよりも少ない」と感じるかもしれない(ADHDの人に多い)。1日は24時間あるといっても、フルタイム勤務なら家事に回せる時間はとても少ない。

そのため、

  • 自分がしなければならない家事(ゴミ捨て、水回りの手入れ、不要品の整理、片付け、お金の管理)

  • 生活に必要な家事(掃除、洗濯、料理、買い物)

  • できたらやりたい家事や事柄(大工仕事、庭の手入れ、年中行事、近所付き合い、節約)

を洗い出してみよう。自分がしなければならない家事=優先すべき項目で、他の人には頼みづらく、さらには他人に頼むにしてもここが滞ると外注もスムーズにいかない事柄でもある。特に生活が荒れ出すサインでもあるゴミや水回り(トイレ、シンク、浴室)の手入れに気が回らなくなってきているなら要注意だ。

優先すべき家事を洗い出す

「そうはいっても気が重くて…」(ADHDの人に多い)となるなら、10分だけタイマーをかけて「この時間だけ行う!」などと時間を区切る、燃えるゴミの前夜にシンク掃除をする、郵便物は玄関先で立ったまま確認して不要なダイレクトメールはすぐに捨てるなど、行動のハードルを下げて達成感を味
わいやすい仕掛けを作るようにしよう

自分自身の体調管理がうまくできない

対策
○定期的に体調をモニターする
○毎日取り組む作業を決めて実施する

事例:体調がすぐれない

親の介護が始まって半年ほど経った。

施設に入った親の暮らしも落ち着き、職場も仕事をしながら介護をすることに理解を示してくれているので何とかこの状態が続いてほしいと思っている。

しかし、最近健康診断で高血圧傾向を指摘され、病院へ行ったら「今は薬を使うほどではないと思うが、ストレスを減らすよう心がけ、運動と食事にも気を付けましょう」と言われてしまった。

親も高血圧だから体調管理をせねばとは思うが、介護をしている以上ストレスを減らすのは難しいだろうし、時間はそれほど割けない。何から始めたらいいのだろう。

原因:体の不調に対応する余裕がなかった

介護が始まると親の対応に追われるため、つい自分のことは後回しになりがちだ。しかし、常にストレスがかかる状況が長引けば、事例のように生活習慣病などの懸念が出てくる。

発達障害の人の中には少しの状況変化でも身体が過剰に反応したり(感覚過敏)、反対に疲れなどの体のサインを見逃しがちになる(感覚鈍麻)といった感覚の偏りがしばしば見られる。

実は、筆者は20歳まで生理不順を「いつものことだから」と軽視していたら子宮内膜症で倒れて入院する羽目になり、その後の生活に大きな支障が出た。

今後のためにも不調のサインを見逃さず、元気に暮らすための生活習慣を取り入れるよう心がけよう。

解決策:定期的に体調をモニターする

事例の場合、血圧を指摘されたから、まずは血圧の記録を始めてみるといいだろう。

「特に血圧に異常はない」という人なら血圧以外にも体重、便通、女性の場合は生理周期など、体の状態をチェックする項目の中からいくつか選び、アプリなどで記録するとそれまで気付かなかった変化が見えてくる。

筆者は朝晩の体重、便通、生理周期を「シンプルダイエット」というアプリで記録し、さらに毎月の主治医の診察の際、血圧を測定してもらっている。

父が体調を崩した頃から血圧が上がり、父の死後いったん落ち着いたが、その後再び高血圧気味となり、改めて体調の記録を見返すと、以前より生理の間隔が空いていることに気付いた。

後日婦人科検診で相談すると、「以前の血圧上昇はストレスが理由かもしれないけれど、今回は更年期の症状では?」と指摘された。検査の結果、ホルモン補充療法を開始したら途端に血圧が下がり、「これが原因だったのか!」と驚いたことがある。

記録の効果は数カ月続けないと見えてこないため、「記録するのが面倒くさい……」(ADHDの人に多い)、「数字を記入するのが苦痛」(算数LDの人に多い)と思うかもしれないが、計測結果をBluetooth通信でスマホアプリに記録してくれる機能を搭載した下記のような血圧計がオムロンなどから発売されている。体重計も同じメーカーにすれば体重の変化も同じアプリで確認できるから負担軽減できるので検討するといいだろう。

遠距離介護で出費がかさむ

対策
○割引サービスを活用する
○家族がする作業と業者に頼むことを整理する
○見守りサービスを活用する

事例:親の様子は気がかりだけれど……

実家は夜行バスか新幹線を使う距離にあり、このところ頻繁に帰省していることもあってかなり出費がかさんでいる。

兄弟たちは結婚して実家のそばに住んでいるので日頃の細かいことを担当してもらい、お金の管理や大きな病院への通院などは独身の自分がキーパーソンとして担当している。親兄弟も「お金がかかるから」と交通費の一部を出してくれるが、帰省すれば交際費など細かい費用もあるのでそれなりに自腹も切っている。

今後に備えて使っていない実家の2階を片付けることになり、休暇を取ってしばらく地元に滞在する予定が決まったが、部屋が散らかるからホテルなどを利用する可能性も出てきた。必要な費用だとは頭では理解しているし、兄弟たちも「ちゃんと親の貯金から出しなよ」と言ってくれるが、親の貯金にも限りがある。どう工夫すればいいのだろう。

原因:移動に伴う費用について話し合いが不十分だった

地元でずっと暮らしていて、あまり他の地域へ出向く機会が少ない人だと、長距離移動に伴う費用(新幹線や高速代など)について、どのくらいかかるか具体的な想像が付きにくい。

事例の場合、親兄弟も一定額は費用を負担してくれてはいるものの、今後どのように負担すればいいのか話し合い、資産状況に合わせて対策を練る必要がある。

つい「自分が知っているから他の人もわかっているはず」(ASDの人に多い)と思いがちだが、早割などの割引をしてもそれなりに費用がかさむ現状を伝え、「介護を協力し合うための必要経費だ」と可視化していこう。

解決策:割引サービスを活用する

急な帰省では難しいが、予定が前もって決まっている場合には早割はかなりお得だ。筆者も新幹線や飛行機を利用する日付が決まっているときはできるだけ早割で特急券や航空券を購入している。

「どうも予約が面倒で……」「計画を立てるのが大変」(ADHDの人に多い)となりがちだが、今はネットでの予約が主流になりつつあるので、事前に会員情報やよく使う経路を登録しておけば必要なときにすぐ予約できるし、当日でもネット予約のほうが割安のことが多い。座席指定もパソコンやスマホから予約可能で、設定をしておけばチケットレスで乗車できる。

他にもホテルとセットになったパックを使う、飛行機の介護帰省割引やLCCを活用する、よく使う交通機関と提携しているクレジットカードを利用する(ポイントやマイルがたまりやすく、特急券や航空券と交換可能なことが多い)などがある。

使いやすい割引サービスを見つけてどんどん活用していこう。

遠距離介護の際に利用できる割引サービス

◆本書の目次
第1章 誰もが介護を担う時代が来ている
第2章 介護が始まる前の困ったを何とかしたい!
第3章 介護スタート時の困ったを何とかしたい!
第4章 介護に伴うコミュニケーションの困ったを何とかしたい!
第5章 介護を続ける上での困ったを何とかしたい!
第6章 自分の生活との両立をうまくやりたい!
第7章 介護終了後の困ったを何とかしたい!

◆著者・村上由美さん本書に込めた思いを掲載

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