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発達障害支援のノウハウを活用すれば、介護の「困った」も解決できる

ちょっとしたことでうまくいく発達障害の人が上手に介護をするための本』(翔泳社)では、発達障害の人が親の介護を進める上で直面するであろう出来事について、具体的な家族や介護支援者への対応や生活面の工夫を盛り込んでいます。
今回は、本書の著者である村上由美さんに、本書に込めた思いを寄せていただきました。

本書を書いた経緯

きっかけは1年ほど前に本書の担当編集者である長谷川さんに既刊本の用事の追伸として「父を見送った後は母の介護や終活に追われています」という近況報告を送ったことです。

発達障害支援の現場では、親の視点から「親亡き後」の支援が話題になっていますが、一方でさまざまな事情で親の介護を担っている当事者も多いと私の経験からも感じています。

しかし、自分自身の生活と介護で多忙なこともあってか、なかなか当事者側からの情報発信が少ないことが気になっていました。

また、私の夫もそうなのですが、両親が高齢でいつ介護が本格的に始まってもおかしくないのに、なかなかその事実に目を向けられない発達障害当事者も多い印象を持っています。

介護=体調に異変をきたして入院したり、認知症などを発症してから、と捉えがちですが、実はもっと早い時期から何となく始まっていることが多いものです。その時期から本格的な介護に向けて準備できることがたくさんありますし、そのときになっても慌てないことをお伝えしたいと思いました。

見通しが立てば動きやすい

経験がないと介護=入浴や排泄などの世話である身体介護をイメージしがちですが、実際は通院や買い物の付き添いといった外出のサポートといった、一見「ただ一緒にいるだけ」というのも介護に含まれます。

しかし、外見とは裏腹に多くの場合、親が老いていく姿にショックや戸惑いを感じ、親の言動に翻弄されます。そんな親を見るにつけ、「いずれ仕事を辞めないといけないのか?」「お金はどうしたら?」といった漠然とした不安が先行しがちですが、頭の中で考えても堂々巡りになるだけです。

私自身は、

・早い時期から実家の家事や通院などのサポートをして親との信頼関係を作る
・介護保険などの制度を積極的に活用する
・発達障害支援でも用いるスキルを介護にも応用させる

という対応が功を奏しました。

介護を経験してわかったのは、介護は親の生活スキルの低下なので、生活スキルの障害でもある発達障害とは類似点が多いということです。

ですから、発達障害支援で基本となる

・環境設定(構造化、可視化)
・本人が自発的に行動できる状況設定
・個別の状況に即した評価・支援

といった視点は両親の介護をする際の大きな支えとなっています。もちろん成長していく小児の場合とは異なり、後退していく親に付き合うのは精神的にしんどさを感じることもありますが、自分もいずれこの道を行く、と思うのと、仕事柄参考になることが多い、と少し精神的に距離をとって親を観察しています。

ただし、過去の確執などでこれが難しい場合もあるでしょうから、直接的な介護ができないときの対応にも本書では触れています。
介護の形は人それぞれですから、参考になることから取り入れてみてください。

介護終了後のことも触れた理由

介護の真っ最中だと、「いつ終わるか」想像がつきにくいものです。人生100年時代では10年単位で親の介護に時間を割く可能性を想定する必要がありますし、私自身気がつけば10年以上親の介護をしています。

しかし、介護はいずれ終わりが来ます。父の相続の手続きや遺品整理をしてみるとこちらも介護同様なかなか大変で、場合によっては介護以上に心身が消耗されます。当たり前なのですが、命にはそれだけの重みがあるのだな、と痛感しました。

また、今の社会では経済的な利益や時間的な効率を求めがちですが、人間はそれだけでは生きられない、もっと豊かで複雑なものであるとも感じています。
介護を振り返ると必ず「もっといい方法があったのでは」「あのとき○○しておけば」といった後悔することも出てきます。

最近少しずつグリーフケア(喪失ケア)への理解が進んできましたが、発達障害当事者の場合、うつなどの疾患を抱えているケースも多いだけに、ぜひ介護終了後についても見通しが立つよう書こうと考えました。

最後に

人生100年時代では誰もが介護を担う可能性があります。この本が発達障害当事者で介護を担う方たちが困ったときに開いて「あ、これだ!」と参考になれば、と思い書きました。

この本を書くにあたり、母と夫にも大いに助けてもらいました。母からは介護者のときと被介護者のときの感じ方の違いについて、夫には介護を実感しきれない感覚や感情を教えてもらいました。
ぜひ多くの人に本書を手にとっていただければ幸いです。


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