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「ゴロ合わせ」の資格試験参考書を作ったら、夢の中までダジャレに浸食された話

突然ですが問題です。794年に起こった日本史の出来事はなんでしょう?

正解は、平城京から平安京へと遷都が行われ、平安時代が始まった年です。「鳴くよ(794年)ウグイス平安京」というフレーズを思い出して答えにたどり着いた、という人が多いのではないでしょうか。

ちなみに、この問題は中学生で習う内容です。遠い昔に覚えた事柄を「ゴロ合わせ」が即座に思い出させてくれたということになります。そう考えると、ゴロ合わせの力って偉大ですよね。

そんな「ゴロ合わせの力を借りて、資格試験を乗り越えよう」というコンセプトで誕生した本が『福祉教科書 ゴロ合わせでらくらく暗記! 保育士完全合格要点ブック』です(2019年12月に第2版発売)。

制作にとても苦労した一冊なのですが、その制作過程のお話を通じて、編集者の日常の一端をご紹介できればと思います。

「保育士試験」×「ゴロ合わせ」という受験参考書が生まれた理由

意外に思われる方もいるかもしれませんが、保育士試験は合格率約20%という難易度の高い試験です。

子どもたちの健康を守り、育ちを支え、保護者の支援までを業務とする保育士になるためには、保育の実技だけでなく、福祉に関する法律・制度、保育・教育に関する歴史など幅広い知識が求められます。

以下は2019年10月試験の「保育原理」という科目で出題された人物名です。

倉橋惣三、城戸幡太郎、東基吉、坂元彦太郎、橋詰良一、関信三、野口幽香、赤沢鍾美、橋詰良一、石井十次、オーエン(Owen, R.)、フレーベル(Fröbel, F.W.)、ルソー(Rousseau, J.-J.)、ペスタロッチ(Pestalozzi, J.H.)、ルドルフ・シュタイナー(Steiner, R.)、モンテッソーリ(Montessori, M.)

「保育原理」1科目でもこれだけ多くの人物名が出てくるのですが、保育士試験の科目はあと8つあります。当然、試験科目によって、出題される人物名や法律・制度なども異なってきますので、合格のために、いかに膨大な知識を暗記しなければいけないのか、おわかりいただけると思います。

そうした背景もあり、保育士試験においても、ゴロ合わせで知識が覚えられる受験参考書を作ることで、合格率20%という壁を少しでも多くの人が突破する一助になるのではないか。そうした著者であるサンライズ保育士キャリアスクールの皆さんの思いを受けて書籍企画が立ち上がることになったのです。

また、編集者の立場からすると、その提案はありがたいものでした。その理由は、「保育士試験」×「ゴロ合わせ」の組み合わせの本が存在していなかったことに加え、ゴロ合わせの作成には大きな時間的コストがかかるからでした。

書籍制作の世界はシビアで、いい内容の本ができたとしても、その内容を参考にしたライバル本がすぐにあらわれてシェアを奪い合うようになります。

その点で、大きな制作コストがかかる「保育士試験」×「ゴロ合わせ」の組み合わせで、読者から評価してもらえる本を出すことができれば、他社が真似しにくく、ロングセラーが期待できるのではないかと考えたのです。

人生で最もダジャレのことを考えた3か月!?

この本に掲載予定のゴロ合わせの目標数は150個以上。その一部は、著者のスクールの授業ですでに使用されていたものなのですが、大半は新たに作成する必要がありました。

覚悟はしていたのですが、本として掲載できるクオリティーのゴロ合わせを作るのは大変な作業でした。

なぜなら、①よく出題されていて、かつ、覚えにくい箇所を題材にすること、②ひとつのフレーズで複数のことが覚えられる効率のよいゴロ合わせであること、という実用性を追求しながらも、③インパクトがあり覚えやすいという条件を満たさなければいけなかったからです。

そのために最も大切なことは、著者に考えてもらったゴロ合わせの原案をいかにブラッシュアップするか、ということでした。

そこで、著者のスクールから3名の協力者をいただき、編集者の私を含めた4名が集まって、ひたすら原案に突っ込みを入れつつ、より覚えやすくなるようなダジャレを考え続けるという「ゴロ合わせ会議」を開催することになりました。

「これでスムーズに制作が進むはず!」と楽観的に構えていましたが、考えが足りませんでした。実用性と覚えやすさを兼ね備えたゴロ合わせを作り出すためには、4時間の会議を1回行うだけでは時間が不足しており、2回目、3回目と会議を重ねる必要がありました。

会議を重ねるということは、制作スケジュールが圧迫されていくということです。また、協力者の方々は、忙しい本業の時間を割いて参加してくれています。そうしたプレッシャーからか、夢の中でもゴロ合わせのためのダジャレを考えていることもありました。

そして4回目の会議を迎えるころには、新しい問題が発覚します。それは、アイデアを出し尽くした結果、自分たちが最善だと思っているゴロ合わせのフレーズが本当に覚えやすいのかが「ゴロ合わせ会議」のメンバーでは客観的に判断できなくなっていたのです。

そのため、最終的には著者のスクールの受講生の方々にアンケートを取り、客観的な意見をもらうことで、覚えにくいゴロ合わせは削除したり、意見をもとに改良したりするという工程を経てようやく完成にこぎつけることができました。

累計1万部以上!多くの人々に活用してもらえる受験参考書に

その苦労が実り、2019年1月に初版を刊行してから改訂と増刷を経て、おかげさまで総刷部数が1万部を軽く超えるような本となりました(参考:2019年後期試験の筆記試験受験者数は約3万人)。

Amazonのレビューでも、「ゴロ合わせがあるおかげで飽きずに勉強することができた」といった声をいただいており、編集者としても嬉しく思っています。

また、現時点では他に似たようなコンセプトの本はまだ出てきておらず、企画当初の思惑通り、他の保育士受験参考書との差別化にも成功しているのではないかと思います。

出題範囲の変更や試験に関係が深い法律の大幅改正がない限りは、引き続き本書を多くの受験者に活用してもらえるものと期待しています。

単に一時的な売上を向上させるためだけではなく、本の商品寿命をどう伸ばしていくかというのは、編集者にとってとても重要なことですが、この本の制作を通じてその一端が学べたのかなと感じています。

もし、この本を書店で見かけることがありましたら、今回の話を思い出していただき、「ゴロ合わせ」のクオリティーについても温かい目でみていただけると嬉しいです(笑)以上、今回は編集部の熊谷がお届けしました。


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