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科学的介護情報システム「LIFE」とは? 導入前に検討すべきこと

令和3年(2021年)に運用が始まった科学的介護情報システム「LIFE」とは、利用者の情報をインターネットやアプリ等を通して厚生労働省に提出すると、それらの情報が分析され、各介護施設・事業所に分析結果(評価シートやフィードバック票)が提供されるシステムのことです。

しかし、現状では提供される評価シートやフィードバック票の内容が不十分だったり、あるいは活用方法が分からなかったり、導入したのにデータ入力が負担になっていたりと、LIFEを有効利用できているとはいえない事業所・施設も少なくないのではないでしょうか。

そんな状況を変えるべく、LIFEの利用検討、実際の導入、活用の各段階で何をどうすればよいのかを解説した書籍が『これならわかる〈スッキリ図解〉LIFE 科学的介護情報システム』(翔泳社)です。

本書はLIFEにまつわる疑問に答えながら、導入や運用の方法、職員の役割について詳しく説明しています。導入を考えている方や、データ入力やフィードバック票の活用に悩んでいる方におすすめです。

今回はその中から、そもそもLIFEとはどういうシステムで、導入前に何を検討すべきなのかを解説した概要を紹介します(「第1章 LIFEとは」より)。

今後は「訪問サービスと居宅介護支援事業所でのLIFEの活用」や「医療のデータベースとの連携」も予定されていますので、ぜひいまからLIFEについてきちんと知り、導入を進めておきましょう。

◆著者について
小濱 道博(こはま・みちひろ)

小濱介護経営事務所代表。北海道札幌市出身。全国で介護事業の経営支援、コンプライアンス支援を手がける。介護経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。

小林 香織(こばやし・かおり)
株式会社ベストワン代表取締役。一般社団法人コグニティブ・サポート代表理事。セミナー講師としても活躍しており、BCP講座・感染症対策等をテーマに、介護施設の個別研修・個別指導を手がける。

森 剛士(もり・つよし)
一般社団法人日本自立支援介護・パワーリハ学会理事。一般社団法人全国介護事業者連盟理事。一般社団法人日本デイサービス協会理事長。ケアテック協会常務理事。株式会社ポラリス代表取締役。自立支援特化型デイサービスを全国70か所に展開中。

VISITとCHASEがLIFEに一本化

LIFE導入まで①VISIT

国は、平成29年「未来投資戦略2017」において「自立支援・重度化防止の効果が科学的に裏づけられた介護を実現するために、令和2年度までに必要なデータを収集・分析するためのデータベースの構築・本格運用を行う」と発表しました。

そして、平成30年度介護報酬改定で、初めてデータベース関連の加算「リハビリテーションマネジメント加算Ⅳ」(通所・訪問リハビリテーションが対象)が創設されたのです。報酬単位は3か月に1回、区分Ⅲの報酬に100単位を上乗せするかたちでした。この加算の算定要件は、3か月ごとにデータベース「VISIT」に、リハビリテーション計画書等のデータを提出することでした。

導入直後はVISITへの関心も高く、加算Ⅳを算定する事業所も多かったのですが、尻つぼみ式に算定する事業所の数は減っていき、平成30年4月から1年間の加算Ⅳの平均算定率は2.06%と散々なものでした。

算定率が低くなった原因は、VISITにデータを提供するためにデータを入力し直さないとならない手間にありました。

加算対象の介護サービス利用者(以降、利用者)が100人いたとすれば、3か月ごとに100人分のリハビリテーション計画書等の複数の書類を、新たに入力しなければなりません。

人材不足が深刻化するなかで、これらを行う余裕がある事業所はほんの一握りでした。

LIFE導入まで②CHASE

そして、令和2年5月から新たなデータベース「CHASE」がスタートしました。CHASEの導入では、VISITでの課題を解決する動きが見られました。

例えば①データ提供のための作業を、介護記録ソフトを用いてICT化し、事業所の負担を軽減、②令和2年度の地域医療介護総合確保基金における「ICT導入支援事業」において、介護記録ソフトや介護記録入力用のタブレットの購入費用、Wi-Fi設備費用等を、助成金の対象としたことです。ただし、CHASEに関連した加算の算定はなく、令和3年度介護報酬改定まで待たなければならなかったのです。

そして、令和3年度からVISITとCHASEは、新たに科学的介護情報システム「LIFE」として一本化されました。

ついにLIFEの運用が開始

トラブル続出の多難な船出

令和3年4月から運用が開始されたLIFEですが、実は想定以上にアクセスが集中し、初日からシステム障害で運用がストップしました。また、4月からLIFEを利用するためには3月中にCHASEから事前登録をする必要があったのですが、3月後半からアクセス不可、事前登録ができない状況に陥っていたのです。

これは、福祉医療機構が行った調査結果からわかるように、事前登録の時点で多くの介護事業所等がLIFEに取り組もうとしたことを意味します。その後もトラブルが続き、施設の担当者からは「LIFE鬱」という言葉を聞くようになりましたが、それでもLIFEの将来性を評価し、諦めることなく導入を進めた施設等がほとんどでした。

LIFEをうまく活用して他事業所と差別化を図ろう

VISIT・CHASE時代に指摘されていた「データを手入力する手間」問題は、介護記録ソフトを導入することで改善されました。

今後は、LIFEから提供されるフィードバック票をどのように活用するかが重要な課題となってきます。うまく活用することでケアの質が向上し、利用者満足度が向上するのであれば、他の施設・事業所と大きく差別化ができるでしょう。

また、利用者満足度が向上することで職員のモチベーションも上がり、定着率のアップ・人材確保につながると考えます。

LIFEが施設や利用者にもたらすもの

また、LIFEによってエビデンスが確立することのメリットも大きいといえます。

今までは全国標準のエビデンスがなかったため、介護サービスの評価が主観的でした。そのため運営指導等では、その施設・事業所の言い分を受け入れるしかなかったのです。しかし、LIFEという全国標準値(評価の物差し)ができることで、評価の標準化が期待できるでしょう。

これによって利用者やその家族は、より優良な介護サービスを提供する施設・事業所を選ぶことが可能となります。例えば、LIFEから提供されるフィードバック票のデータに基づいてケアを提供している施設・事業所は、他の施設・事業所よりも利用者から信頼されるでしょう。これは、標準値に届かない介護サービスを提供している施設・事業所は淘汰されていくともいえます。

LIFE関連の加算では何が評価される?

エビデンスとは

エビデンスとは「証拠(主に治療法の効果等についての根拠として用いられることが多い)」のことをいいます。例えば「この薬は、食前と食後、どちらのタイミングで飲むほうが有効か」等の疑問や課題について、継続的に研究を行うことで、論文や研究成果といったかたちでエビデンスが蓄積されていきます。エビデンスの蓄積では、基礎データ量が大きくなるほど、信ぴょう性・信頼性が向上します。「たった1回だけ効果・成果がみられたが、その後はどのようにやってみても同じような効果・成果がみられなかった」という状況は「科学的に証明された」とはいえず、単なる偶然といえます。科学とは、誰がやっても同じような効果や成果にならなければいけません。

介護サービスを提供するうえで、エビデンスを活用するとはどういうことか、想像してみましょう。例えば、リハビリテーション職が、サービス(リハビリテーション)を提供するうえでいくつか疑問(効果がみられない等)があったとします。そこで、データベース等を用いて利用者に対するサービス内容が妥当かどうかを評価します。その後、利用者の意向等も考慮し、サービスの提供の可否や、専門技能を活用してサービス内容を変更しました。その結果、職員が抱えていた疑問の解決につながったとすると、エビデンスが活用されたといえるでしょう。

科学的介護に基づいた作業プロセス

科学的介護とは「エビデンスに基づいて介護サービスを位置づけ、適切に介護サービスを提供すること」をいいます。そのためには、科学的に妥当性のあるデータ(利用者の状態や介護計画の内容等)を現場からインターネットを通じて収集して、データベースに蓄積・分析する必要があります。この部分を担っているのがLIFEです。

LIFEで分析されたデータの結果は、その後現場にフィードバック票として提供されます。現場では、このフィードバック票を多職種間で共有・検討し、必要であれば介護計画に反映させます。このプロセスをまわし続けることで、科学的介護は推進されます。

LIFEへのデータ提供は継続して行おう

LIFEによって収集・蓄積されたデータは、フィードバック票のほか、介護保険制度にて施策の効果や課題等の把握・見直しのための分析にも活用されます。LIFEにデータが蓄積されて分析が進むことによって、エビデンスに基づいた質の高い介護の実施にもつながるのです。そのためには、施設・事業所側からの途絶えることのないデータ提供が求められます。

LIFE導入前に考えること

介護記録ソフト等への設備投資が必要

介護記録ソフトとは、利用者の情報や提供した介護サービスの記録、介護計画の作成等、利用者個人に関する情報を時系列で入力し、介護報酬の請求までを担うソフトのことをいいます。介護記録ソフトを導入することで、LIFEに入力する作業の負担はかなり低減されます。

しかし、データ提出のすべてが介護記録ソフトによって自動的に行われるわけではありません。一部手入力が必要な項目があり、その項目数はソフトによって異なります。また、介護記録ソフトの導入は、相応の費用負担を施設等に強いることとなります。介護記録ソフトの購入費用やWi-Fi環境の整備、タブレット等の必要機材の確保も求められます。

この点については、地域医療介護総合確保基金を利用した「ICT導入支援事業」を活用するのがおすすめです。この制度では、補助金の上限が260万円(事業所の職員が31人以上の場合)、購入費用の4分の3(要件あり)が支給されます。ただし、自治体によって受付期間が異なり、また、年間の予算以上の申し込みがあった場合は抽選となるため、必ず受給できるわけではありません。

このほかにも「IT導入補助金」等がありますので、LIFE導入を検討する際には、事前に役所に補助金の有無を確認しておきましょう。

LIFEに何を求めるか明確にしておく

単にLIFE関連の介護報酬単位とそれにかかる費用・負担を比較して、LIFE導入の有無を判断すべきではありません。たとえ設備投資や業務上の負担が大きくても、LIFEを導入してフィードバック票を受け取り、それらを最大限に活用してケアの質の改善を絶え間なく続けていくことで、施設・事業所が得られるものは大きいです。また、その結果、状態が改善して喜ぶ利用者やその家族を見ることで、職員満足度・職員の定着率・稼働率も向上し、業績のアップも期待できるでしょう。

実際にLIFEに取り組んで、多くの加算を算定している施設からは「加算収入で介護記録ソフトの費用の回収は容易ですし、その後は重要な収入源として定着しています」との意見を聞きます。経営者も介護職員も、LIFEに取り組むことの意味を理解して、目的を明確にし、導入を検討することが大切です。

将来、加算が成功報酬型となるかも

今後の介護報酬改定では、LIFEによって構築された評価指標に基づいた何らかの成功報酬が実現すると考えます。医療のDPCデータベースとの連携も行われる予定で、LIFEを媒体とした医療介護連携も加速するでしょう。

通所リハビリテーションは、令和3年度介護報酬改定で先送りにされた「3段階の基本報酬体系」に、今後移行する可能性が高いといえます。そのときは、評価指標としてLIFEをベースとしたエビデンスが導入されることになるでしょう。将来的に、多くの介護サービスの加算が成功報酬型となる可能性も捨てきれません。

令和3年度は見送られた訪問サービスや居宅介護支援でのLIFEの活用も、今後の介護報酬改定で導入される見込みです。

また、現在はモデル事業として、訪問サービスや居宅介護支援に科学的介護推進体制加算にも、近いかたちの加算が創設されています。すなわち、LIFEへの取り組みは将来の介護保険制度改正・介護報酬改定の事前準備ともいえるのです。

いずれにしても、LIFEはまだ始まったばかりで、赤ちゃんの状態といえます。しかし、時間の経過とともに大きく成長していくでしょう。LIFEによって、介護保険制度の新たな時代が幕を開ける、といっても過言ではありません。


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