電子書籍とSDGs~デジタルだからできること~
こんにちは。今回は、翔泳社で電子書籍制作を担当しているチームから、「電子書籍とSDGs」についてお話ししたいと思います。内容としては、広がる電子書籍のラインナップを具体的にご紹介し、電子書籍読書を「アクセシビリティ」「バリアフリー」の観点から考えます。
翔泳社は幅広い分野の書籍を出版していますが、本のかたちは時代とともに変化しています。紙書籍は、原稿を紙面にあわせてレイアウトしたデータ(DTPデータ)を印刷所に入稿し、印刷・製本して完成します。電子書籍はそのDTPデータをもとに、テキストや画像など必要な素材を抽出して制作します。ひとことで「電子書籍」といいますが、翔泳社の場合は以下の3つの製品になります。
リフローEPUB
固定EPUB
PDF形式の電子書籍
端末の設定にあわせる「リフローEPUB」
「EPUB(イーパブ)」は、電子書籍の標準規格です。「リフローEPUB」は、スマートフォンや電子書籍専用端末などの画面サイズやユーザー設定によって、文字の大きさや背景の色などを調節することができます。主にテキストが主体の書籍に適した形式です。
紙面を画像化した「固定EPUB」
一方「固定EPUB」は、紙の本の紙面を画像化してEPUB形式でまとめたもので、イラスト作品集や複雑な図解がある本などに適しています。以下のサンプルは本文の横に注がある2列のレイアウトになっています。こういう場合も固定EPUBが向いています。
どんな端末でも読める「PDF」
最後の「PDF形式の電子書籍」は翔泳社のECサイト「SEshop」で直販している商品で、Acrobat Readerなどで閲覧可能です。「しおり」機能が使えるアプリで開くと目次メニューが表示されます。本文のテキスト検索も可能です。
こうした電子書籍の制作の起点になるのは、紙書籍のデータです。従来は紙書籍が出版されてから、電子書籍がリリースされていましたが、現在ではほとんどのタイトルで紙書籍と電子書籍の同時発売を実現しています。
聴く読書の「オーディオブック」
さらに近年では、“聴く読書”を可能にする「オーディオブック」も展開しています。『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』や『奪われし未来』などロングセラーの名著だけでなく、『プロダクトマネジメントのすべて』や『「技術書」の読書術』など新しいタイトルも増えています。
最近では、紙書籍と電子書籍の両方を購入し、利用シーンによって使い分けている読者も増えているようです。忙しくて読書の時間をつくれないという場合は、通勤時間にオーディオブックに耳を傾けるという本との向き合いかたも浸透しています。
バリアフリーから注目される電子書籍
さまざまなライフスタイルを持つ読者が楽しめるコンテンツを提供するために発展してきた電子書籍に、いま「アクセシビリティ」「バリアフリー」という観点から注目が集まっています。
どういうことかというと、デジタル化された本が「読書に困難を感じる人にとっての解決策になりうるのでは」という期待が高まっているのです。
2019年6月に成立した「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法)をご存知でしょうか。この法律は、読書に困難を感じる人が利用しやすい電子書籍等(音声読み上げ対応の電子書籍、デイジー図書、オーディオブック、テキストデータ等)の普及・提供を図ることを目的としています。
読書困難者の定義はさまざまで、視覚障害者の方、年齢にかかわらず視力が低下している方だけでなく、発達性読み書き障害(ディスレクシア)、身体の障害によって書籍を持ってページをめくることが難しい方などが含まれます。このほか「忙しくて本を読む時間がない」といった多忙な毎日を送っている方も、読書にハードルを感じている人ととらえることができるでしょう。
誰もが容易にアクセスできる一方で課題も
「読書」という体験に、誰もが容易にアクセスできるようにするためのきっかけを電子書籍は提供することができます。たとえば、リフロー形式の電子書籍は文字の大きさや画面の色を、読む人の状況にあわせて読みやすいように変えることができます。また、テキストデータを使って音声として読み上げたり(TTS:Text to Speech)、点訳(点字への置き換え)することも可能になります。「デジタルだからできること」に注目が集まっているのはこうした理由によります。
しかし、電子書籍活用への期待が高まる一方で課題も多く、出版社、図書館を含めた業界や関係機関の取り組みは欠かせません。経済産業省の報告書によると、「電子書籍の市場規模は、書籍に比してシェアが2割弱であり、特に教育や研究において求められる電子書籍は極めて少ないこと等、多くの課題がある。」と指摘しています。
たとえば、紙面に図がある場合、それは画像ファイルとして電子書籍に組み込まれます。その図の中に文字があっても、それは「画像」であり「テキスト」ではないため、テキスト読み上げ環境があっても、図の中にある文字は読み上げることができません。こうした場合、その画像に「ここには●●の図があります」という説明文を追加する方法が考えられますが、適切な文言を誰がどのように作成し、組み込むのか。品質、使いやすさ、著作権、コスト、収益性……解消すべき課題は山積みです。
日本では、2022年にEPUB形式の電子書籍がアクセシブルかを評価し、結果を明示するための仕様「EPUB アクセシビリティ」の国際規格に対応した「JIS X 23761」が制定されました。また、2023年4月13日、W3C(World Wide Web Consortium)は勧告案「EPUB Accessibility 1.1」を公開。EPUB形式の出版物のアクセシビリティの評価だけでなく、アクセシブルなEPUB出版物を見つけやすくするメタデータのガイドラインを示しています。
SDGsが掲げる「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という力強いメッセージにつながる、読書におけるアクセシビリティ、バリアフリーとして実現するための大きな流れが、いま生まれつつあります。私たち電子書籍制作チームもこの流れをキャッチアップし、電子書籍の未来像を描いていきたいと思います。
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