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特性を強みに変えるには?発達障害の人が就活・転職で使えるコツ【就活ハック×こだわりさん著者対談】

こんにちは、編集の井上です。

先日発売した『ちょっとしたコツでうまくいく! 発達障害の人のための就活ハック』(以下、就活ハック)で編集を担当したのですが、書籍の制作を通して改めて「発達障害の人が参考にできる就活・転職の情報はまだまだ少ない」という課題を感じました。

そこで今回、もっと当事者の方に役立ててもらえる情報や体験談がシェアできればと考え、事情に詳しいお二人に対談を打診することに。

ご協力いただいたのは、『就活ハック』の著者であり当事者の方との関わりも深い窪貴志さん。そして、当事者目線の体験談をTwitterや書籍『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』(扶桑社)(以下、こだわりさん)で発信されている銀河さんです。

本記事は「課題と解決編」をテーマに、

●就活や転職での課題ってなにがある?
●その課題を解決するにはどうしたらいいの?

などのトピックをお話ししています。

※この対談は、現状編、課題と解決編、ロールモデル編の3本立てでお届けします。

対談メンバー

窪貴志さん
株式会社エンカレッジ代表取締役。エンカレッジは、主に発達障害がある人の就職サポートや、発達障害のある学生のキャリア支援を行っている。著書に『ちょっとしたコツでうまくいく! 発達障害の人のための就活ハック』がある。

銀河さん
キャリアアドバイザーとして転職サポートを行う。自身もASD自閉症スペクトラムと診断されている。Twitterでは当事者の視点から「発達障害の特性を強みに活かす方法」を発信中。著書に『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』(扶桑社)がある。

井上(聞き手)
翔泳社の福祉の本編集部の編集者。『就活ハック』の編集を通して当事者の情報不足の課題に気がつき対談記事を企画。

当事者の課題は「強み」を見つけること!

──お二人が発達障害の方の就活や転職のサポートに関わる中では、当事者の方の課題はどんなところにあると感じますか?

窪:まさに銀河さんの本のタイトル通りで、「強みをどう活かすか」ということです。今までの経験から自分の苦手なところに目がいってしまいがちな方も多いですが、自分のどういうところが得意で、どういう企業だったら強みを発揮できるかを考えることはひとつの大きなテーマかなと思います。

とはいえ発達障害の特性には苦手さやうまくいかなさがある方も多いですから、周りから配慮されたり自分で工夫したりする中で、どう社会に適応していけるかも大きな課題だと思っています。

また、本人目線じゃないところでは、社会が当事者の強みに焦点を当てて、苦手なことや不得意なことに配慮や調整を行っていくことが大事です。

──「調整」とはどういうことですか?

窪:数年前から「合理的配慮」という言葉が少しずつ聞かれるようになってきています。合理的配慮というのは、例えば「会社に入った方が働きやすい、またはうまく結果につなげられるための配慮をしましょう」という意味合いで、障害者雇用でよく使われる言葉です。

配慮と聞くとなにか企業側が配慮をしてくれるイメージがあるのですが、実はもともとの語源から言うと調整の意味合いが強いです。合理的配慮でいう調整は、「当事者と企業がお互いにうまくいくように考えながら、仕事内容や環境を工夫して調整していきましょう」ということです。

銀河:窪さんがおっしゃったように、自分の強みの把握の仕方を考えられると良いのかなと思います。相談者から話を聞く中で、「こういう強みがありますよね?」と聞くと、「あ、確かにそうかもしれない」となるのですが、強みがわからないことでアピールポイントがなく、なにを企業に伝えればいいかわからないという方は多いです。

企業としても、「強みがなにもない」「なにもできない」という人だとなかなか雇いにくくなってしまうので、強みの考え方や伝え方がより広がっていくのがいいのではないでしょうか。

自分の「強み」はどうやって見つける?

──「強み」を見つけるためには、どのような対策ができるのでしょうか。

銀河:大事なのは、違う視点から物事を見ることを身につけていただくことだと思います。私たち発達障害のある人は思い込みが強かったりこだわりが強かったりするので、一度「こうなんだ!」と決めたらずっとそう考えてしまうことがあります。

でもそうではなくて、違う視点からも自分の弱みを捉え直してみて、そこを強みに変えていく、周りの人はそれを一緒に見てあげるというのが大事だと思いますね。

窪:僕も同意見です。発達障害の方は、客観視がなかなかしづらいことがあると思うんです。自己評価が低いけれど周りの評価が高い人もいれば、逆もある。そこにギャップがあると、周りと一緒に課題解決をしようとしても、前提条件がズレてしまうことが多くあります。

だから、強みは強みとして把握する、苦手さは苦手さとしてどう改善し工夫するかを考えていく。それには周囲からフィードバックを受けるとか、周囲と一緒に考えていく中で気づいていくことも大事だと思います。

銀河:ギャップが出てきてしまうと最終的に周りとギスギスした関係になるので、『就活ハック』にもありましたが、周りの人からどういう風に見られているのかを(周囲に)聞くとか、客観的な数字で周りと比べてみることも大事かなと思います。

──解決法についてはお二人の書籍の中でも様々な対策をご紹介されていると思いますが、特に「ここに注目してほしい」というポイントがあれば教えてください。

窪:自分の特性を強みに置き換えていく部分で、『就活ハック』でいうと第3章に書いています。弱いところとか苦手なところを考えるのって結構苦しいことだと思うのですが、ここが自分の良いところだ、強みだ、ということを見つけてそれを活かせる仕事を考えていくステップは大切です。

個人的には、自分に自信がなくても強みをきちんと見つけていけたり、考え方に対する気づきが生まれたりしてくれたら嬉しいです。そこがすべてのスタートなのかなと私は思っています。

銀河:『こだわりさん』では全体的に特性の強みをどう活かすかを書いているのですが、特に第2章の「空気が読めないからこそ天才的な力を活かせる」の部分だと思います。

空気が読めないことは、特にASDの方に言えることで、これって日本の中でかなり致命的な弱みに見えると思うんですね。それをどう強みとして活かせるかのコツをお伝えさせてもらっています。この方法を必ずやってほしいというわけではなくて、自分が致命的な弱みだと思っているところに応用してもらえたら嬉しいなと思います。

──ありがとうございます。工夫や解決案を自分なりに応用して使ってもらいたいという話は、2冊の本の中でも共通している部分かと思いました。

今回の記事だけでなく、サイトや本で紹介された誰かのライフハックをそのまま真似するだけでなく、自分なりにアレンジしたやり方を見つけていくというのは、ひとつキーワードになりそうです。

窪:そう捉えてもらえるといいと思います。銀河さんでも他の方でもそうですけど、生きてきた背景や得意なこと、苦手なことも違いますし、すべてが応用できるわけではないんです。だけど、悩みながら答えを出してきたその経験はすごく参考になる部分が大きいと思いますし熱を感じます。

単なる教科書的な内容ではなくて悩んだ経験があるからこその工夫は、自分の参考になる人を見つけることの意味だと思います。

銀河:一人ひとり特性が違うのが私たち障害当事者だと思います。発達障害のない人と比べると、一つのやり方が誰しもに当てはまるわけではありません。

「発達障害じゃない人たちはこういうやり方があるよ」と言われたらみんなができるけど、発達障害の人は一人ひとりが全然違うので、私ができても他の人も必ずできるとは限らないんです。だからできないというわけではなく、自分なりのやり方を見つけて活かしてもらいたいです。

状況をより良くするためにできることって?

──少し話題が変わりますが、就活・転職において発達障害の人をとりまく状況を良くするためには、当事者の方はどのような取り組みができるでしょうか?

窪:当事者の方には、一つひとつの仕事を深く知ってほしいと思います。私たちが関わる中では、「営業は人と触れ合うことが多いから苦手」「総合職は幅広く仕事をやらなきゃいけないので難しい」という理由で事務系をやりたいという人がいます。

とはいえ事務系といっても自分が想像してなかった仕事もあります。なかなか自分で経験していくのは難しいかもしれないのですが、会社のホームページを見たり働く人の体験談を読んだりして、様々な仕事について知っていただけるといいのかなと思います。

また、就職のしやすさ、採用のされやすさというのは、需要と供給のバランスで成り立っています。つまり、たくさん人が必要な分野だと採用のされやすさは上がります。

例えばIT系とか建築系、医療や福祉、いわゆる人不足と言われる業界では、採用のされやすさもぐっと上がります。

一般の事務系は1つの求人に5人、10人と応募してくる状況で(応募者同士が)比較をされるので、どうしてもマイナス面に目を向けられやすくなってしまいます。

社会や企業が今どんな人を必要としているかを調べてみると、企業に入った後も比較的強みのほうに目を向けてくれたり、苦手なことがあっても配慮しようと言ってくれたりしやすくなることがあります。

自分の強みを探すことも大事ですが、社会がどんな人材を求めているとか、どんな仕事をやってもらいたいと思っているのか、ということも調べてみるといいかもしれません。これは有効求人倍率などハローワークが出している情報が職業別にあるので、参考になるんじゃないかと思います。

銀河:当事者の視点で1番大事なことは諦めないことだと思います。私も発達障害という診断を受けたときに、やけくそになっちゃった時期もあったんです。でもそうしてしまうとそこからの進歩や歩みが全くなくなってしまうのかなと。

できることを少しずつやっていくと、その積み重ねが初めて自分の特性や強みを活かすことにつなげられます。診断を受けたとしても、諦めることなく自分の中で積み上げていくと、人生が少しずつ変わっていくのではないかと思います。

あとは諦めずに社会に挑戦することで、初めて社会も手を差し伸べてくれます。厳しい言い方かもしれないですけど、「最初から支援だけしてください」という人にはなかなか社会も手を差し伸べるのは難しいです。諦めずに挑戦するということも、当事者は意識してやっていくことが必要と思います。

まとめ

●当事者の課題は「強み」を見つけられるか
●強みを見つける方法として、弱みへの捉え方を変えることを試してみよう。そのとき、周りの人からもアドバイスをもらえると客観視できる
●ライフハックやロールモデルを参考に、自分に合ったやり方を見つけよう
●1つの仕事を知るために様々な角度からの取り組みをしよう
●できることを少しずつ積み重ねて強みにつなげよう

対談の様子は銀河さんが運営するD-Life.で公開中



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