春から新しい仕事を始めるのが不安な人へ~異動でキャリアを諦めかけた編集者が振り返る
もうすぐ4月、春ですね~。
春は、新入社員が入社してきたり、異動したり出向先なども変わったりなど、あれこれ新しいことが始まる季節です。中には転職される方も多いでしょう。初めての職場、ドキドキしながらその日を迎える方も多いのではと思います。
一方でコロナ禍によって、仕事を辞めざるをえなくなり新天地に転職したり、あるいは思いもよらない部署に異動になったりした人もいるのではないでしょうか。最初はうまくいかないこともあるかもしれません。不安になるのは当然です。
書籍編集をしている私にも異動の経験があります。10年ほど前に、担当する書籍のジャンルが大きく変わったのです。
翔泳社のような中堅どころの出版社は、得意とするジャンルがある程度絞られています。大手総合出版社――文芸からコミック、専門書などなんでもござい――とは違って。翔泳社の得意なジャンルは、かつては主にIT、次いでビジネスでした。仮に編集部内で異動があっても、そこまで専門知識が大きく異なる領域ではなかった。
ところが、10年ほど前。福祉の部署が作られることになり、私は担当していたIT関連書から福祉の本を作る編集部への異動が命じられたのです。それまでの自分がやってきたことが覆るほどの大きな転機となりました。
あれから10年。私には新しくゼロから始めて、時間が経った今だからこそ振り返られるものがあります。あのとき異動したからこそ得られたと思うもの。それがなにか、ちょっとでも皆さんの参考になれば嬉しいです。
仕事への考え方が変わった
IT関連書を作っていた頃の私は自身の立ち位置を模索中でした。
ITといっても、Excel解説からWeb技術、エンジニア読み物など、あれこれ広く浅く手を出していたのですが、もう少し専門性を高めたい、あるいは方向性を固めたいと思っていました。そのほうが技術への理解、人脈や業界との関係性などが豊かになって、そのまま仕事に還元されると考えていたからです。
そして、それが売れる商品を企画するために絶対的に有利だと信じて疑わなかった。同僚には異を唱える人もいましたが、「そうかもね」くらいに聞き流していました。
ですから正直言って、ITを扱う編集部からまったく異なる福祉を扱う編集部に異動になることは、キャリアの分断につながるように感じたのです。
なぜキャリアの分断につながるように感じたかって? ちょっと想像してみてください。
それまで積み上げてきた知識が活かせず、それより何より、これまでの著者さんとの信頼関係をゼロリセットして、新たに著者を探して関係を構築し直さなければなりません。
それに、もしうまくいかなかったら? 3年、5年経ってうまくいかず、もしもIT関連書に戻ることになった際、このトレンドが激しいIT関連の本を作るというのに私は果たして使い物になるのか、そもそも戻ることができるのか、などなど不安は尽きませんでした。
ですが、異動しちゃったからには仕方ない(←なんていったら上長に怒られるけども)、しっかり真面目に取り組みました。すると、少しずつ実績も出せて……なんとかなるもんだとわかったんです。
書籍編集者の仕事は、結局のところ、読者のニーズをくみ取って、あるいは潜在ニーズを掘り起こし、知識(場合によっては想い)の集合体ともいえる「本」を世の中に生み出し、それを読者に届けて喜んでもらうことです。自分自身がITエンジニアのような、あるいは福祉の専門家になる必要はなかった。
もちろん、オタクと呼ばれるほどに深く関わることでしか濃く生み出すことができない本もあると思いますが、編集者全員がそうである必要はないし、どんな状況でもできる仕事はあるんですね。
仕事の本質は変わらない
扱うものがどんなジャンルであれ、テーマであれ、仕事に対する姿勢、考え方というのは変わらないし、そこがブレなければそんなに有利・不利はないのかなと。
むしろ、あまり業界のことを知らなかったからこそ、人に「このイメージだと売れないのでは」と言われても、「いやいける」と思い切ってチャレンジできた企画もありました(もっとも、それで失敗した企画もあるのですが)。
ところで「いや、そもそも本を作ることが同じなんだし、仕事内容だってそう変わらないでしょ」と思いますか?
確かに「作る」ことだけ考えたらそうかもしれません。ですが、会社ですのでやはり「売る=黒字化」することが重要です。しっかり売れる本を作る。市場規模が縮小しているといわれる出版業界で、これはそう簡単ではありません。
当然、知識がないと難しいことも多く、知識があったほうがいいのに越したことはありません。ただ、それが全てではないし、固定観念に縛られる必要もないということ。
今まで何をやってきていても、どんなことでも、それは培ってきた「経験」になります。たとえ環境や状況が変わっても、経験を新しいキャリアにどう柔軟に活かせるか、そこが重要なのかなと思います。
こういうこと、人から言われても上っ滑りするだけかもしれません。10年前の私がそうだったように。ですが、改めてお伝えしてみますので、もしよかったら信じていただいて、まずは真摯に仕事に取り組んでみていただけたらと思います。
情報を受けとるアンテナの種類が増えた
福祉の本を作るようになって、ニュースなどを見た際に引っかかる事柄が変わりました。変わったというより、興味を持つ内容・情報が増えました。
そこで改めて気づいたのは、世の中はこんなに福祉に関連するニュースに溢れているんだなということです。それまでも、おそらく目や耳には入っていたのでしょうが、あまり気づかなかったというか、記憶に残らなかったというか。
どれだけ様々なニュースが流れていても、それらを受けとめる容器というか頭にアンテナが立ってなければ、自分にとってそれはなかったこととほぼ同義ですよね。
しかし私には、異動によって新しい受容体が脳内にセットされました(笑)。以前からの興味(IT)に加えて、新しい関心事(福祉)が増え、それによって両方の情報が引っかかるようになったんです。なんだか視野が世界が広くなった気がします(笑)。
世の中の見方が変わった?
入ってくる情報が増えると、考え方や受け止め方も変わってきました。
特に大きく変わったのは、日本という国の制度や社会のしくみについて考える機会が増えたことです。はじめは単に国家資格の対策本を作る上で必要な情報だから調べていただけでしたが、継続的にニュースを見ていると、あれこれ気づいたり考えたりすることが増えてくるんですよね。
また、以前の記事にも書きましたが、国(特に厚生労働省)のホームページを見る機会が圧倒的に増えました。さらに、執筆をお願いする著者さんは医療や介護など福祉の専門職の方が多く、支援する側の現実や苦労、やりがいなど貴重な話を聞くことも多いです。
そうした専門知識や体験談を知ることで、物の見方が変わってきました。
例えば、福祉関連のニュースやテレビ番組では困っている側にフォーカスが当たることが多いのですが、私は支援する側や制度を作る側のことが気になってしまいます。彼らはどういうモチベーションがあるのか、何を考えているのか。
視点が増えたことで、ニュースの報じられ方や世の中の反応に対しても思うことが出てきました。例えば「こういう報道の仕方でいいのだろうか」「だいぶ一面的な見方だな」「これ結局、誰得なのよ」などなど(詳細を書くと話が逸れるため、機会があれば)。
いろんな人に出会えた!
最後に強調したいのが、出会いの変化です。10年前の自分では想像できないような人たちに出会うことができました。
まずは著者さん方です。
福祉の専門職の方、あるいは大学で教鞭をとられている方などなど。そうした方々とお話をさせていただくことは大変新鮮ですし、いろいろ考えさせられることが増えました。
もしIT関連書をずっと担当していたら、知らなかった世界です。
それに今のチームのメンバーですかね。もし翔泳社に「福祉の本」を作る編集部が生まれなかったら、出会えなかった人もいるかもしれません。このnoteだって始めていなかったでしょう。
以上、私自身のことを改めて振り返ってみました。いやー、なんか真面目に語っちゃった? とにかく、春から新しいことを始める方々に「得られること沢山ありますよ!」と伝えたかったのでした。
実は4月から福祉の本のチームにも新しいメンバーが増えます。今頃、ドキドキしているかなぁ。これからも、みんなでますますパワーアップしていきたいですね。
小澤でございました!
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