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実際どう? 発達障害の人が知っておきたい就活・転職の事情とは【就活ハック×こだわりさん著者対談】

こんにちは、編集の井上です。

6月といえば就活シーズンも真っ只中。就活生のみなさんは応募書類の作成や面接対策に忙しくされている時期でしょうか。社会人のみなさんは年度も変わったタイミングで仕事やキャリアを振り返り、転職を選択肢に考え始めた方もいるかもしれませんね。

就活・転職の対策に使っていただける本は翔泳社にもいくつかあります。今年1月には、発達障害の方に向けた『ちょっとしたコツでうまくいく! 発達障害の人のための就活ハック』(以下、就活ハック)も刊行しました。

本書は読者のみなさんのおかげで刊行2か月後に増刷することができ、多くの人に役立てていただけたことを担当編集として大変嬉しく思っています。

この書籍を制作する中で感じたのは、「就活や転職の進め方に悩む発達障害の人はたくさんいるのに、参考になる情報がまだまだ少ない!」ということでした。

様々な人から語られる情報や体験談をお互いにシェアできるといいのではと考え、ハッシュタグで体験談の投稿を促すSNSの取り組みも実施しましたが、体験談は個人のオープンクローズ問題も深く関係するため、なかなか情報交換が難しいセンシティブな部分であることを学びました。

それならばすでに情報を公開している方にお話を聞いてみようと思い、二人の方に打診しました。『就活ハック』の著者であり当事者の方との関わりも深い窪貴志さん。そして、個人の体験談をTwitterや書籍『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』(扶桑社)(以下、こだわりさん)の中で発信されている銀河さんです。

就活や転職、また仕事の進め方に悩んでいる発達障害の方や、また周囲でサポートをされている方には、ぜひ1つの参考として読んでいただけると嬉しいです。

本記事は「現状編」です。

●いまの就活や転職の状況ってどうなっているの?
●当事者が知っておくといい情報ってどんなこと?

などをテーマにお話ししています。

※この対談は、現状編、課題と解決編、ロールモデル編の3本立てでお届けします。

対談メンバー

窪貴志さん
株式会社エンカレッジ代表取締役。エンカレッジは、主に発達障害がある人の就職サポートや、発達障害のある学生のキャリア支援を行っている。著書に『ちょっとしたコツでうまくいく! 発達障害の人のための就活ハック』がある。

銀河さん
転職支援を行うキャリアアドバイザー。自身もASD自閉症スペクトラムと診断された経験から、「発達障害の特性を強みに活かす方法」をTwitterで発信している。著書に『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』(扶桑社)がある。エンカレッジでも一部マーケティング業務を担当。

井上(聞き手)
翔泳社の福祉の本編集部の編集者。『就活ハック』の編集を通して当事者の情報不足の課題に気がつき対談記事を企画。

なぜいま「発達障害×働く」をテーマに話すのか?

──今回の対談が実現したきっかけは、お二人の書籍の刊行時期が近かったことが1つの理由でしたね。お互いの書籍で参考になった部分を教えてください。

窪:『こだわりさん』では「パターン化」というキーワードが印象に残っています。うまくいかないことはパターン化して解決していこうというメッセージが随所に見られて、それがすべて銀河さんの経験からきているところに説得力がありました。

また、仕事の進め方だけじゃなく相手の感情もパターン化して相手に良い感情を生んでいこうという部分は、僕自身すごく参考になりました。

銀河:ありがとうございます。『就活ハック』は発達障害で就活する人に、ガイドブックのように役に立つのだろうなと感じます。

というのも、就活をするときに使えるサイトや本はたくさんあるのですが、発達障害の人に特化したものってそんなになかったと思います。『就活ハック』は具体的なことが書いてあって、場面場面で役立ちそうな本だと思いました。

例えば「強みが見つからないときはどうすればいいか」という悩みには、「ちょっとでもいいからボランティアをやって、そこから強みを見つけよう」とあります。発達障害の就活生の中にはたぶん「強みなんかない」と思っている方もいると思うんです。

でも、そういう方にも対処法があるということや、見通しが立ちづらいお金の面について「苦労することがあるから先に備えておきましょう」と書いてあるところが、すごくよかったと思いました。

──ありがとうございます。また、今回の対談ははじめに銀河さんから声をかけていただき話が進んだのですが、書籍の刊行時期以外にもなにかきっかけがあったのでしょうか?

銀河:そうですね。発達障害の人に関する支援はだんだん出てきてはいるのですが、一時的なものになってしまっています。例えば就活生だけ、社会人の働き方だけに向けた支援は充実してきているけど、それが連続しているかというとまた違うのかなと。

それを今後支援やサポートを連続的なものにすると、より当事者のみなさんへの支援もしやすく、発達障害の人が生きやすい社会になるのかなと考えて提案させていただきました。

──就活支援や転職支援に関わられているお二人の視点と、さらに銀河さんの体験談を合わせたお話であれば、読者の方にも「連続的視点」としてお届けできそうですね!

就職・転職活動の現状は?

──それでは、発達障害の方が就職活動や転職活動をする上で、知っておくとよい情報やトレンドがあれば教えてください。

窪:発達障害の方って、いまものすごく増えているんですよね。統計をご紹介すると、発達障害の学生の人数は10年少し前と比べると10倍以上に増えています。さらに障害者手帳や発達障害の診断がない方も含めると、もっともっとたくさんいると言われています。その中でいえば学生もそうですし、就職や転職をする人で「自分自身が発達障害かも?」と調べる人も増えました。

企業側も少なくとも発達障害という名前は知っている場合がすごく増えてきた感触があります。発達障害のキーワードが身近になってきたことは、1つ大きなトレンドかと思います。

発達障害という特性を自分で知ったり、周りの人に知ってもらったりすることにおいては環境が整ってきたと感じていて、それはすごくポジティブなことだと思っています。

──銀河さんが転職サポートをされる中ではいかがでしょう。

銀河:サポートをしていて、障害者雇用で転職される方と一般雇用で転職される方の間にいる方が1番困っているなとよく感じます。傾向として、いわゆるグレーゾーンの人たちが特に困っている印象を受けますね。

発達障害の特性がそこまで強くなく、診断や障害者手帳ももらえるほどではないとなると、「どう自分の特性を活かしていけばいいのか」と悩まれて相談をいただくことも多いです。窪さんの話にもあったように、発達障害への認知が高まっていることもあって、「私は障害者雇用で転職します」という方は意外とサポートをしやすい部分があります。

──最近は働き始めてから自分の特性に気づく方も多いと聞きます。入社後に発達特性に気が付くと、これまでの自分と状況が変わって悩まれる部分が多そうですね。

銀河:そうですね。いままで自分がどうしてみんなと違うのか、なにが違うのかがわからなかったことの理由が判明して、でも診断が出ないとなると、「じゃあどう(転職を)していけばいいんだ」という方は結構いらっしゃいますね。

発達障害グレーゾーンならではの難しさ

窪:障害者雇用で就職をされる人においては社会的な資源がだいぶ整ってきつつあると感じています。例えば、就労支援の会社やNPO、社会福祉法人があったりしますし、障害者雇用で就職するための情報は結構出てきます。

ただ、障害者手帳がなかったり診断がなかったりすると、一般の就職活動ではなかなかうまくいきづらい方がいて、苦労されやすい印象があります。その方々のなにが違うかというと、社会資源のあるなしはそうですが、「企業側に自分をきちんと知ってもらう場面があるかどうか」が大きなポイントです。

例えば障害者雇用でいうと、企業も、「じゃああなたは○○という障害があって△△という特性があるから、配慮をしましょう」っていうのが前提としてあるんです。

けど、そうじゃない方は会社に対して自分の特性をオープンにするわけでもなければ会社として特性を理解してなにか配慮するってことにもなかなかならないので、自分で工夫するしかない

銀河さんの書籍にもあるように、自分のことをどう認識しどう働いていくかということは、すごく求められるんです。けれども、多くの人がそこまでたどり着けていないことをいまとても感じています。

銀河:そうですね。やっぱりグレーゾーンと言っても、なにかしら困りごとがあるからこそグレーゾーンなんですよね。

でも、それを企業に伝えたところで障害という認識があればいいですけど、例えばADHDの物忘れが多いとか、ストレートに物事を言ってしまうことなどは、「自分でなんとかできるんじゃないか」と思われてしまうんですよね。

そういうところは(当事者としては)配慮していただきたいところだけれど、企業にはなかなか言えないという状況はあります。

発達特性による困りごとは、入社以降に増えてくる

──就活生と転職者、企業に入る前と後では、やはり悩みや困りごとも変わってくるものでしょうか。

窪:これは銀河さんのご自身の経験を聞いてみたいのですが、いかがですか。

銀河:人にもよると思うのですが、発達障害の困りごとって学生のときは正直そこまで困らないんです。もちろん授業の時間割が組めないとか、遅刻がすごく多くて単位が取れないという方も中にはいらっしゃるんですが、そこまで多くはなくて。

でも企業に入ると時間が守れないことが致命的なことになるので、急に困りごとが増えますね

窪:学生時代は自分が困ることで済んでいたケースはあると思います。当事者の方にとってはすごく大変な経験だったと思うんですけど、企業に入ると(発達特性による)周りへの影響が大きくなっていきます。社会に出ると人と人との接点の中で物事が前に進んでいくことがすごく増えると思うので、その中で困りごとがより顕著になってくるのかなと感じていますね。

──銀河さんも著書の中で、「周りと接点を持つことや周りの人と良い関係を築いていくことはすごく大事だった」とおっしゃっていましたね。

銀河:そうですね。学生時代は正直一匹狼でやっていけて、(発達特性の表れ方も)授業に遅れるとかテストがうまくいかないとかで済んでいました。でも、仕事は周りと連携してなにかを進めていくことがほとんどになるので、周りの人と雑談して少しでも良い関係を築いておく方が仕事がやりやすくなりましたね。

就活は「入社後の自分の姿を想像できるか」がポイント

窪:銀河さんは著書の中で「就職活動は比較的うまく進んだ」と書いておられたと思うんです。当時の自分自身と就職した後の自分自身を比較したときに、(特性の面で)自分が変わったわけではないじゃないですか。

就職活動と企業に入ってからだと、その場その場で必要とされることが違いますが、その中で銀河さんとして1番戸惑われたことがあったら教えてもらえると嬉しいです。

銀河:簡単に言うと、就活で求められる能力と仕事で求められるスキルが違いすぎることです。就活だと書類選考を通過して面接して終わりじゃないですか。面接だけならテクニックでいけるところもあると思うんです。

でも実際に仕事をするとなると人とやりとりをする、話をしていく、交渉する、もっとたくさんのことが出てきます。苦労したのは、やらなきゃいけないことがものすごく増えて総合的に試されるというか、そこに自分が追いつききれなかったところかなと思いますね。

窪:いま銀河さんの話を聞きながら、就活をうまく進めることだけじゃなく、その後きちんと長く働き続けられるかどうかも念頭に置きながら就活を進めることも大事なのかなと思いました。(就活は)なかなか目の前のことばかりに目がいってしまいがちですけど、その会社に入ったとして、自分がどう頑張って活躍できるかの視点も必要ですよね。

銀河:そうですね、本当にその通りだと思いました。

まとめ

●発達障害のある学生は約10年前から10倍以上に増えている
●発達障害という言葉の認知は広がりつつある
●発達障害の特性への理解はまだまだ足りない
●障害者雇用では、頼れる機関も増え社会的資源が整ってきている
●一般雇用で就職すると、企業へ特性を伝える機会がないので自分なりの工夫が必要になる
●社会人になると、学生時代には感じていなかった特性による困りごとが増えてくる
●長く働ける企業に入るために、「入社後に自分がどう活躍できるか」を考えた就活をしよう

対談の様子は銀河さんが運営するD-Life.で公開中




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