見出し画像

令和型の管理職、どんなコミュニケーションがNG?

今の職場は昭和、平成、令和の価値観が混じり合い、自分がどのようなマネジメントやコミュニケーションを望ましいと思っているか、上司も部下も一致しづらいことが大きな課題となっています。

例えば、上司が現代ではハラスメントに分類されるような言動を適切なコミュニケーションだと考えていたら、20代の部下は心身に不調をきたしたり、嫌気が差して転職したりするかもしれません。

そうした事態を防ぐには、令和の時代にふさわしいマネジメントとコミュニケーションが必要です。その前提として重要なことは、心と体が健康で気持ちよく働ける環境、つまりウェルビーイングな環境を保つことです。

労働衛生コンサルタントの大神あゆみさんは、さまざまな経験や価値観を持つ人が集まる職場だからこそ、ウェルビーイングは社員・スタッフの休職や離職が少ない持続可能なチームの鍵となると著書『持続可能なチームのつくり方 幸福と成果が連動する』(翔泳社)で書いています。

では、上司やリーダーの立場から見たとき、職場のウェルビーイングはどのように実現すればいいのでしょうか。今回は本書の「第2章 「ウェルビーイング」なチームをつくる日々の対応~〈実践編〉平時」から、日々のちょっとしたことから始められる方法を紹介します。

特に、部下やスタッフとどうコミュニケーションすればいいかわからない、何がNGなのか不安で話しかけづらいという方に読んでいただければ幸いです。

◆著者について
大神 あゆみ(おおがみ あゆみ)

大神労働衛生コンサルタント事務所 代表。保健師/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/博士(医学)。
日本赤十字看護大学卒業後、NTT、読売新聞社、ソニー生命保険株式会社の勤務を経て、2012年より現職。医療現場の一線にはあえて携わらず、一貫して「働く人の健康管理」に通算30年以上携わる。
現在の主な事業は、社長も含めた全社員対象の健康面談や研修事業をベースにした会社の健康管理の仕組みづくりの支援である。そのほか、社会活動として、厚生労働省の「産業医制度の在り方に関する検討会」「治療と仕事の両立等支援に関する検討会」委員等にも携わる。


昭和型・平成型・令和型のマネジメント──令和型は、多様な部下にコミットする「下から目線」がポイント

昔はもっと厳しかったし、自分はそれを乗り越えてきたのに……。

そんな気持ちになることはないでしょうか?

私が個別面談で、マネジャーから実に頻繁に聞く言葉でもあります。

共感をもってうなずくと、このあとに堰を切ったように続く言葉が、「今どきの若者は……。いや若者だけでもないかな」。

たぶん「若者は」のあとには、「何て甘いんだ」「何て弱いんだ」「何て仕事ができないんだ」といった言葉を吐き出したいところをぐっとのみ込んでいるのでしょう。

さらに次に続く言葉は、「何でも『ハラスメント』って言われるから何も言えない」「無視もハラスメントになるっていうから、いったいどうすればいいのかわからないよ」です。

私は、それらのマネジャーの部下の個別面談も行っているのですが、そこで部下がよく口にするのが「上司の『圧』がつらい」です。

ハラスメントに敏感になった昨今、職場でもハラスメント行為を避ける心理が働くようになったのはとてもよいことです。しかし、上司がハラスメントの根源にある苛立ちや不満を抑制(我慢)した結果、意図的ではないにしろ語調や態度で部下に「圧」を掛けているとしたら、本末転倒ともいえます

ちなみに、ハラスメントに詳しい株式会社クオレ・シー・キューブ元代表の岡田康子さんは、共著『パワーハラスメント〈第2版〉(46ページ)』(岡田康子/稲尾和泉著、日本経済新聞出版社刊)の中で、「パワハラは『コントロールできなくなった否定的感情が生み出すものだ』という側面から考えていきます。否定的感情とは、怒り、不安、嫌悪感、劣等感、焦燥感が主です」と述べています。

ここでは、昭和、平成、令和と時代ごとに影響を受けてきた私たちの価値観に着目することで、令和の今、求められるマネジメントについて考えてみたいと思います。

それでは、昭和からざっと振り返って見てみましょう。

トップダウンが効果的にきいた、昭和のマネジメント

昭和の職場で、マネジメントという言葉が一般的に使われていたかは定かではありませんが、昭和のマネジメントのイメージといえば、郷に入っては郷に従えで「上から言われたとおりに働け!」という感じではないでしょうか。

この時代、トップダウン型の働き方が成り立っていたのは、背景に朝鮮戦争の特需で製造業が躍進し、それを支える労働力人口が戦後のベビーブームによって確保されていたことがあります。

また、第二次世界大戦の名残で、軍隊式の働き方がそのまま職場に転用された背景も、大きく関与していたようです。

このときの価値観が今でも私たちの中に、無意識のうちにも根強く残っているために「なんで、今の人たちは」という気持ちになってしまうのでしょう。

こんな価値観のズレが怒りにつながり、部下には圧に感じられることが推測できます。

昭和のマネジメントの特徴について、懐かしそうに話してくれた人がいました。

「昭和の職場は荒っぽかったけど、『温情』もあった。お金に困っていたら工面してくれたり、家族が困っていたら首を突っ込んでお節介を焼いてくれたりして、助かったなぁということが多かったね」

思えば、昭和の時代は職場でも相互扶助の考え方が強くて、年功序列を前提に、何十年も一緒に仕事をする関係だったからこそ成立した「温情」だったのではないかと思えてしまいます。

その一方で、昭和の時代は経済という社会の利益を最優先し、人権を軽視していたという問題があったのもご存じのとおりです。それが、現在のハラスメント対策にもつながっています

フラットでドライな、平成のマネジメント

平成の時代は、長引く景気低迷の影響から何事も効率重視となりました。職場では合理化が進み、組織はフラットなかたちへと変化していった結果、温情的な対応はどんどん姿を消してしまった印象を受けます。働き方でいえば、派遣労働で働く人が増えたのも、平成に入ってからのことです。

マネジメントでは、情報共有や意思決定が迅速に行われるようになり、ビジネスライクでドライな対応が好まれた時代だったと思います。

言葉遣い一つを取っても、職場内の役職や年齢差をあまり意識しない、フランクなコミュニケーションが進んだ印象があります。

同時にソーシャルメディアの発達で、職場の電話を取れない若者が話題になるなど、ドライすぎる一面が問題になったのも記憶に新しいところです。

それまで当たり前だった過重労働(長時間労働)にもメスが入りました。長時間労働の問題意識が高まり、医学的にもその根拠になる労働時間と健康問題についての研究結果が積み重ねられた結果、法制化にもつながりました。

過重労働対策の中でも、客観的な評価と対策を行いやすいのは「時間」なので、現場のマネジャーは、これまで以上に時間管理にまつわる作業が増えました

平成が終わってまだ10年にも満たないので、今のマネジャー職の価値観には、平成型マネジメントが色濃く残っているのは言うまでもありません。

目配り・気配りが求められる、令和のマネジメント

令和に移行した今、何より実感をもって言えるのが、1990年代後半以後に生まれたZ世代を筆頭に、昭和や平成のころと同じような価値観で働ける人はかなり減っているということです。

価値観の違いばかりでなく、「新たに人を採用したくても、なかなか人が集まらない」といった話はどこでもよく話題に上ります。昭和や平成の時代では、一時の好景気を除くと考えられなかった問題です。

人手不足を埋めるための機械化も進んでいますが、従業員の高齢化、病気の治療と仕事の両立、外国人労働者の増加など、令和ならではの問題が顕著になってきています。令和型のマネジメントは、昭和型や平成型のマネジメントに比べて、部下に対して目配り・気配りしないといけない点が増えたわけで、どう仕事を回したらよいのかが複雑になった状況に違いありません

昭和型・令和型マネジメントから学ぶべきもの

ここまで、ざっくりとですが、昭和、平成、令和の時代背景や価値観とマネジメントの関係を見てきましたが、それらをまとめたのが、次の表「時代別の典型的なマネジメントとその特徴」です。

「昭和の時代はよかったな」という郷愁の念は決して悪いものではありませんし、部分的に昭和のマネジメント技法を見直すことで今でも使えるものはあるでしょう。

しかし、昭和の課題、平成の課題をクリアして到達したのが「今」です。また、昭和の課題、平成の課題の積み残しが今につながっています。今を生きる私たちは、やはり、今に向き合っていくしかありません。

特に、昭和のマネジメントの負の一面がハラスメント、人権です。この人権をマネジャーも意識しな
いと、これから先は部下をまとめることが難しいといえます。

「わかり合えていない」ことを前提に話をする──部下の強みに着目する「うきわ」のルール

多様な人材を抱えるようになってきたなかで、職場での遭遇率が高く、かつ対応の難しいケースとして「年上の部下」が筆頭に上がります。

最近特に、40~50代前半のマネジャーに、年上の部下が増えてきているようです。これは、採用数の多かったバブル期入社の社員が定年を迎えはじめていることが原因です。

ならば、人手不足の昨今、定年後も再雇用制度を利用して長く働いてもらい、貴重な戦力になってもらおうという流れが多くの会社で定着してきました。

このような60歳以上のベテラン社員は、会社のことを知りつくしていて戦力にはなるけれど、現場のマネジャーの思いは複雑なようです。

年上部下に頑張ってもらうためには?

  • マネジャー「かつての上司が部下になると、口の聞き方が横柄だったり傲慢だったりして『どっちが部下だかわからないよ』という気持ちになる。気を遣って、とても疲れる」

  • 年上部下「あいつ、偉そうな態度を取りやがって。昔、仕事を教えて面倒みてやったのを忘れているのか」

職場の年齢構成によりますが、一般的に部下が増えれば、年上部下との遭遇率も増えるので、右記のような悩みも出てくることでしょう。誰しもいつかは定年を迎えるので、「お互いさま」と思いたいところですが、マネジャーのやるせなさは理解できます。

年上部下のほうも、時代が変わったといっても年下の上司から指示されたり、注意されたりするのは概ね気分のよいものではないでしょう。

年上部下に頑張ってもらうのに、「上から目線」は逆効果でしかありません

「こういう理由で、このようにしてください」といった理屈による説明は、気持ちに余裕のあるときは受け入れられるでしょう。しかし、年上部下の場合は、ときに定年延長による賃金の減少などによるやりきれなさも後押しして、「(元部下に説明されても)あまり労力を割きたくない」「理屈はわかるけど受け入れがたい」という気持ちが強くなりがちです。

「人は理屈によって納得するが、感情によって動く」と言ったニクソン・アメリカ元大統領の言葉が思い出されます。

若い部下も「上から目線」には抵抗感がある

実は、若い部下からも次のような言葉を聞くことがあります。

「〇〇マネジャーは、物腰は丁寧だけど、『上から目線』な態度だから、イラっとくるんですよ」

年齢が若い人であっても、「上から目線」な姿勢には敏感で、拒否的な気持ちがあることがわかります

前述の表1で見たとおり、令和タイプの「下から目線」には、「リスペクト」の意味があります。リスペクトといっても絶大な尊敬をもってくださいといった大層な意味ではありません。もう少し軽い「敬意」です。部下の存在を認めているという敬意で、その姿勢が「下から目線」なのです

ちなみに、姿勢とは「事に臨むときの心の持ち方」のことです。姿勢と似た言葉に「態度」がありますが、姿勢は意識して示すもので、態度は思わず出てしまうものといった違いがあります。

「下から目線」は「姿勢」が重要

部下との対応に言葉が詰まるようなことは、多くのマネジャーが経験するようで、管理職向けのメンタルヘルス研修のときなどに、「こんな場面で使える『言い換え』ってないですか?」という質問を受けるときがあります。

たしかに言い換えたほうがよいときもありますが、言い換えだけに注意が向くのは危険です。言葉に意識が向きすぎて、思わず昭和タイプの「上から目線」がにじみ出てしまう場合もあるので、要注意です。

よく部下が自分のマネジャーの印象を「目が笑っていない」「言葉だけ」「語調が強い」など、なかなかシビアに表現します。

いくら上司がよいことを言っても、にじみ出る態度を部下がキャッチしてしまうと、せっかくの言葉が伝わらないようです。だから、「下から目線」のリスペクト、敬意をもつ姿勢がまず重要になるのです。

部下の強みに着目する

多様性は、独自の強みがあると解釈することもできます。異なる見方・情報・文化は、仕事の深みや広がりにつなげられる可能性があります。

たとえば、年上部下だと過去の経験やその年齢だからこそわかる気づきがあったり、外国人部下だったら異国での経験や日本とは異なる習慣があったりします。自分の子どもぐらいの年齢の部下であれば、その年代ならではの価値観をもっています。

多様性の時代だからこそ、部下のさまざまな強みに意識を向け、敬意を払います。そんな好奇心からの「下から目線」なら、どんな人にも心証は悪くないでしょう

マネジャーのあなた自身も、かつての上司から自分の持ち味に関心をもって話を聞いてもらった経
験があったと思います。そのとき、どこか誇らしく、前向きな気持ちになりませんでしたか。是非、そんな気持ちを思い出しながら部下の言葉に耳を傾けてみてください

「ウェルビーイング」を意識したコミュニケーション──「昨日、眠れた?」はプライバシーの侵害?

ここからは「下から目線」の次のアクションとなる、「ウェルビーイング」を意識した言葉掛けについて考えてみます。

ウェルビーイングとは「元気?」と聞かれたときに「元気だよ!」と自然に笑顔で答えられる状態です。人に向けた言葉掛けや態度は、相手の認知ややる気に影響を与えます。たとえ表向きは相手の反応が薄くても、内面ではいろいろ感じているものです。

マネジャーのどのような態度が、今どきの部下に「元気だよ!」という自然な反応をもたらすのか考えてみましょう。

「ありがとう」を意識的に使う

笑顔で挨拶を習慣化することや「元気?」と聞くことは出発点になるでしょう。

その次に使いたい言葉に「ありがとう」といった感謝の言葉があります。不思議なもので、どこの職場でも役職が上になるにしたがって、この言葉が小声になったり、数が少なくなったりする感触があります。

ゴディバ ジャパン株式会社の2019年の調査(ゴディバ ジャパン調べ。調査対象20〜60代の男女各250名、計500名)に、その裏付けになるものがありました。

「『ありがとう』を伝えている頻度は一日平均14.1回、20代男性が最も多く29.4回、60代男性が最も少なくて3.5回。男女ともに年齢が上がるにつれて『ありがとう』を伝えなくなる傾向で、特に男性は50
代以上になると大幅に回数が減少」とあります。

20代男性が一番多いというのは意外に思われるかもしれませんが、声に出して「ありがとう」と伝えている回数は、20代女性が最も多く一日16.8回ということです。

「ありがとう」で幸福度や元気度を測る

そういえば、私がかかわった職場で、この「ありがとう」を巧みに使う課長がいました。

周囲からは「仕事は今一つなんだけど」とささやかれていた課長でしたが、いつもニコニコしていて、「ありがとう」の言葉掛けがピカイチでした。ちょっと多すぎやしないかと思うくらいで、部下が何か報告するたびに「ありがとうございます」と言うのです。

「『ありがとう』と言えばこちらが何でもしてくれると思って」と陰口を叩く人もいましたが、それでも面と向かって「ありがとう」と言われると、誰しもまんざらでもない気持ちになります。

「あの課長だったらしょうがないなぁ」と、そのチームにはみんなが協力して頑張る雰囲気がありました。

ゴディバ ジャパンの調査結果では、次のような効果も公表されていました。「一日に平均して4回以上『声』に出して『ありがとう』と伝える人とそうでない人とを10点満点の人生の幸福度で比較すると、4回未満の人の『幸福度』は6・0点、4回以上の人では7・1点」という主旨の結果になったそうです。

「ありがとう」の威力は絶大です。そして、言葉掛けはタダです。声に出したい言葉として意識しておきたいです。

ちなみに、この課長には後日談があります。

上司である部長が異動で替わってから、課長は不調を訴えるようになり、職場を休みがちになりました。着任した新部長が非常に几帳面で、ミスをたびたび指摘されたのが原因のようです。調子を崩した課長からは「ありがとう」の数がめっきり減ってしまったということです。

「ありがとう」という言葉が自然に出てくる職場になっているかどうか、チームの元気度を測るバロメーターとしても覚えておくとよいと思います

部下への労いや、謝るということ

もう一つ、「ありがとう」に少し似た「ご苦労さま」といった労い、「ごめんなさい」といった謝りの言葉も同様に是非、意識して口にしてください。

ある職場で起こった、上司と部下の揉め事です。上司の不手際から部下の仕事を増やしてしまったときに、その上司が「ごめんなさい」と「ありがとう」を言い損ねてしまい、そして少し言葉をごまかしたがために、怒り心頭の部下が無言で書類を上司に投げつけました。怒った上司は「その態度はないだろう!」と声を荒らげてしまい小競り合いとなりました。

その後、メンバーの上司に向けられた表情は冷ややかなものに変わってしまいました。

上司の「ごめんなさい」が多すぎると、部下の不安は募りますが、逆に自分のミスを認めない上司に対しては、大きな不信感につながります。「自分は上司に軽んじられている」という不信感は表には見えにくく、部下に陰で語られる特徴があります。

◆本書の目次
第1章 今こそ求められている「ウェルビーイング」を意識したマネジメント~〈基礎編〉考え方と理解
第2章 「ウェルビーイング」なチームをつくる日々の対応~〈実践編〉平時
第3章 部下の心身の変化に応じた対応~〈実践編〉メンバーの有事
第4章 健康危機への対応~〈実践編〉チームの有事
第5章 持続可能なチームをつくるために~〈まとめ編〉

◆「翔泳社の福祉の本」のおすすめ記事もいかがですか?


よろしければスキやシェア、フォローをお願いします。これからもぜひ「翔泳社の福祉の本」をチェックしてください!